| === 随筆・その他 === |
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| 血清ハプトグロビン,その意義 -行軍血色素尿症に対する検査診断- |
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はじめに 第3回鹿児島マラソンが3月4日(日)に開催されます。あちこちで練習中のランナーを見かけるようになりました。原稿を書いている今は2月の県下一周駅伝に出場する中高生のランナーが「貧血外来」の案内をみてデイジークリニックへ。受診理由の多くは「疲労」「頭痛」です。アスリートにありがちな「オーバートレーニング」による「疲労感」があれば背景に慢性溶血性貧血として知られる「行軍血色素尿症」などが考えられます。中高生の部活動に対して学校では練習休養日などの設定が国からも提言され,健康状態には配慮がなされています。しかし,「疲労・たちくらみ・頭痛」などがあれば「ビタミンB12欠乏」はないか,確認のため,検査が必要です。多くの中高生アスリートは血色素(Hb)が正常範囲です。つまり貧血ではありません。しかし,フェリチン(貯蔵鉄)検査により潜在性の鉄欠乏状態が明らかにされる事があります1)。そして「血清ハプトグロビン低値または測定不可」であれば,行軍血色素尿症と診断できます。 行軍血色素尿症(溶血性貧血)の診断 表1には当院外来受診例の血清ハプトグロビン検体数を100%表示で示しました。つまり,検査件数が最大月の検査件数を100%としました。この検査は「運動歴」「部活歴」があり,「疲労感・頭痛」を訴え,行軍血色素尿症と臨床的に診断した症例に対して施行しています。毎年,夏に多数例の受診がありました。症例数が増加傾向にあるのは,中高生の増加によるものです。 行軍血色素尿症の典型例を以下に呈示します。
症例 1 症例:中学生,男子サッカー部。 主訴:頭痛 背景:サッカー部で毎朝の練習と午後の練習あり。1年間で身長の伸び著しい,現在は身長156cm,体重38.0kg。 現病歴:頭痛のため脳外科受診。頭部は画像上著患なく,解熱鎮痛剤で対症療法中。 検査成績 末梢血CBC:全血算(complete blood count)は以下です。
血液生化学:
検査成績の解釈:血清ハプトグロビンの値が「測定不可」とは①溶血性貧血(自己免疫性溶血性貧血・遺伝性球状赤血球症・発作性夜間血色素尿症・行軍血色素尿症など)②重症肝疾患などです。上記結果から「慢性溶血性代償性貧血」を疑います。さらに血清ハプトグロビンの値が「測定不可」のため,行軍血色素尿症と診断しました。行軍血色素尿症の由来は長距離の行軍により赤血球が足裏の衝撃で破壊され,その結果,へモグロビン尿(コカコーラ色)が出現する事から命名されました。尿所見では慢性血管内溶血を示唆する「尿中ヘモジデリン検査」が陽性となります。代償性貧血の事が多く,Hb値が低下する症例は少数です。なお,AST,LDHの増加は肝機能障害ではなく,血管内溶血を反映したものです。CKの増加はオーバートレーニングによる筋肉由来です。 以下の症例は「マラソン完走後」の検査結果です。
症例 2 症例:43歳,女性。 主訴:眩暈,立ちくらみ,易疲労,頭痛。 背景:2年前からマラソン始めた。毎日飲酒。身長162cm,体重47.5kg,BMI:18.1。 現病歴:上記主訴にて来院し,1カ月後のフルマラソン参加予定と申告あり。 来院時検査成績 初診時,末梢血CBCは以下です。
1カ月間の貧血治療施行後にHb値の改善を確認し,「フルマラソン」参加。 マラソン参加3日後の検査成績
血液生化学:
検査成績の解釈:明らかにフルマラソン参加の影響でCK,LDH,ASTの上昇が見られます。幸い,Hb値が改善傾向です。網状赤血球は1.8%と治療効果で増加。 考案:今回,典型的な「行軍血色素尿症」と診断された2症例を呈示致しました。幸い,症例2では,フルマラソン後の生化学検査も施行し,生体に及ぼす影響を筋肉系酵素のCK,溶血を示唆するLDH,ASTの上昇で確認できました。スポーツ愛好家にとって,無理のない計画的な練習のもとに良い準備をして参加されることを勧めます。その良い準備には,KAGO食スポ-ツの勧める「アスリート健診」,日本陸連の推奨する注意事項などが有用です2)。 文 献 1.https://ja.wikipedia.org/スポーツ貧血 2.http://www.jaaf.or.jp/ |
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