鹿市医郷壇

兼題「仕事(しごっ)」


(455) 樋口 一風 選




城山古狸庵

こん仕事ちゃ俺な合わんちきし辞めっ
  (こんしごちゃ おいなおわんち きしやめっ)
(唱)難儀は嫌ち無か忍耐力
  (なんぎはいやち なかこらえしょう)

 世の中には、自分にぴったりの仕事などそんなにあるものでも無いのに、仕事に慣れる努力もしないで、すぐ辞める若者が多いらしい。根無し草のようにならないように辛抱して欲しいものです。
 現在の若者気質を突いた句。下五は「辞やむい奴わろ」でしたが、社長の歯痒さを強調するために「きし辞やめっ」に変えさせていただきました。




上町支部 吉野なでしこ

仕事ちゃせじ打っ上げん時な凄ぜ目立っ
  (しごちゃせじ うっちゃげんときな わぜめだっ)
(唱)貰ろた名前が宴会部長
  (もらたなまえが えんかいぶちょう)

 かねては、あまり仕事もしないで目立たないが、打ち上げの宴会になると俄然元気を出して存在を示す、そんな社員がいるものです。
 宴会部長と呼ばれ、結構重宝がられています。それも仕事と言えば、仕事のうちに入るのでしょうが。原句の下五は「目立っちょい」でしたが、強調するために「凄ぜ目立っ」に変えさせていただきました。




清滝支部 鮫島爺児医

良か仕事つした割い軽いち給料が小言
  (よかしごつ したわいかいち はれがぐぜ)
(唱)時給どしこじゃ張り合いが無し
  (じきゅうどしこじゃ はりあいがのし)

 サラリーマンなら、仕事の割に給料がもう少し欲しいと。皆さんそう思うでしょう。「給は料れが小ぐ言ぜ」と擬人化してあります。ベテランの手慣れた手法です。



五客一席
 紫南支部 二軒茶屋電停
大て仕事つ遣い遂げ美味め缶ビール
  (ふてしごつ やいとげうんめ かんびーる)
(唱)何言あならん良か酔が回っ
  (なんちゅあならん よかえがまわっ)

五客二席
 川内つばめ
休日も仕事の夢で目が覚めっ
  (きゅうじつも しごっのゆめで めがさめっ)
(唱)寝がならんでち夜中い寝酒
  (ねがならんでち よなかいねざけ)

五客三席
 城山古狸庵
育休は良か仕事じゃち妬まれっ
  (いっきゅうは よかしごっじゃち しょのまれっ)
(唱)傍目と違て難儀か子育
  (はためとちごて てそかこおやし)

五客四席
 清滝支部 鮫島爺児医
古女房あ三食作っ仕事上手
  (ふるかかあ さんしょっつくっ しごっじょし)
(唱)毎日感謝で五十年添っ
  (めにっかんしゃで ごじゅうねんそっ)

五客五席
 醤油屋孫一
縦社会うんにゃち言えじ辛れ仕事
  (たてしゃかい うんにゃちいえじ つれしごっ)
(唱)年功序列ち奥歯をば噛ん
  (ねんこうじょれち おっばをばかん)


   秀  逸


城山古狸庵
   大臣の仕事じゃろかい呆え答弁
  (だいじんの しごっじゃろかい ぼえとべん)
   仕事よか彼女が大事ち見舞い行っ
  (しごっよか かのじょがでしち みめいいっ)
   年長者い挨拶で始まっ初仕事
  (おせんしい えさっではしまっ はっしごっ)

清滝支部 鮫島爺児医
   年齢し相応っ仕事も減がめ娑婆べ感謝
  (としにおっ しごっもへがめ しゃべかんしゃ)
   巡査いも仕事つ遣ろかち泥棒
  (じゅんさいも しごつやろかち ぬしとごろ)
   道楽も一流いなれば仕事ちなっ
  (どうらっも いちりゅいなれば しごちなっ)
   赤ちゃんな食っ寝っ泣っとが仕事
  (あかちゃんな たもっねっなっ とがしごと)
   暦並み休まじ頑張っ五十年
  (こよんなみ やすまじきばっ ごじゅうねん)

川内つばめ
   大概やった仕事ちゃ全然で見栄えせじ
  (てげやった しごちゃまっで みばえせじ)
   仕事明け電車で一杯缶ビール
  (しごっあけ でんしゃでいっぺ かんびーる)
   イクメンな子育す仕事ちして暮れっ
  (いくめんな こおやすしごち してくれっ)
   世直しの必殺仕事ちゃ誰がすっ
  (よなおしの ひっさっしごちゃ だいがすっ)

霧島 木林
   飲ん方いこいも仕事ち常時出っ
  (のんかたい こいもしごっち ねんじゅでっ)
   勉強が仕事じゃち塾き通わせっ
  (べんきょうが しごっじゃちじゅき かよわせっ)
   夢迄いも仕事ち追われっ気が疲れっ
  (ゆめずいも しごちおわれっ きがだれっ)
   仕事じゃち酔ろた父を母は世話
  (しごっじゃち よくろたととを はほはせわ)

印南 本作
   日曜日子供の相手が仕事ちなっ
  (にちようび こどんのえてが しごちなっ)

醤油屋孫一
   昼からん仕事ち我慢れじつん眠っ
  (ひいからん しごちきばれじ つんねぶっ)
   忍耐力を鍛えっ貰ろた良か仕事
  (きばいじょを きたえっもろた よかしごっ)


今月の投句から       一 風
「八十坂仕事も趣味も頑張っ居っ」(はっじゅざか しごっもしゅみも きばっいっ)
「五時にゃピシャ仕事と遊っ切り換えっ」(ごじにゃぴしゃ しごっとあすっ きりかえっ)
 という句がありました。
 自由吟なら、言うことはない素晴らしい句だと思います。しかし兼題は「仕事(しごっ)」ですが、仕事と趣味、仕事と遊びが並行しています。題を見ないと、この句は、どちらを主に詠んだのか、判らなくなります。
 例えば、
「趣味よっか仕事ち頑張っ八十坂」(しゅいよっか しごっちきばっ はっじゅざか)
「五時じなれば仕事ちゃピシャッちうっ止めっ」(ごじなれば  しごちゃぴしゃっち うっちゃめっ)
 とでも、したら仕事が主になって、兼題に添ってくると思います。


 薩摩郷句鑑賞 108

 書留を配れば茶どん飲めち言っ
(かっどめを くばればちゃどん のめちゆっ)
亀石無頼庵

 郵便にしろ、新聞や牛乳にしろ、配るのが当然と思っているのか、「御苦労さん」とか、「ありがとう」と声をかける人が少なくなったという。
 たった一枚のハガキを届けるために、雪だろうと雨だろうと、山奥の一軒家にでも来てくれる。すると、純朴な山村の人々は、心から労いの言葉をかけてくれるし、書留でも届ければ、まるで配達係がくれたかのようにお礼を言うのである。自分のことしか考えられない人間が多い中で、ほのぼのとした人間味のある作品。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」から抜粋



薩 摩 郷 句 募 集

◎12 号
題 吟 「 工面(くめん)」
締 切 平成29年11月6日(月)
◎新年号
題 吟 「 新け(にけ)」
締 切 平成29年12月1日(金)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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