鹿市医郷壇

兼題「理由(わけ)」


(453) 樋口 一風 選




紫南支部 二軒茶屋電停

口紅のひっ付ちた理由を言がならじ
  (すばべんの ひっちたわけを ゆがならじ)

(唱)酔ろちょったで言て知たん真似
  (よくろちょったで ちゅてしたんまね)

 作者はモテるでしょうから、奥様はそういうことには敏感です。殿方にはなんてことはないのに、鵜の目鷹の目で調べます。
 昨夜は、かなり酔って大騒ぎをしたことは覚えていますが、その後はうろ覚えです。
 襟に口紅が付いていたので何かあったのでしょう、それ以上言うとまた大変なことになるので、だんまりを決め込んで、すっ呆けていましょう。くわばら、くわばら。





清滝支部 鮫島爺児医

欠席の理由が病気じゃ叱やならじ
  (けっせっの わけがあんべじゃ がやならじ)

(唱)ばればれじゃって常時使こ仮病
  (ばればれじゃって ねんじゅつこけびょ)

 仮病だとはお見通しですが、欠席の理由が病気では、医者の立場では無理に出席しろとは言えません。相手も然さる者です。完全にこちらの負けでしょう。次に会ったら、たっぷりと皮肉でも言って懲らしめてやりましょう。
 作者のやさしさがよく詠み込まれています。





上町支部 吉野なでしこ

朝寝坊道が混んだち理由いしっ
  (あさねごろ みっがこんだち わけいしっ)

(唱)しれっとかえっ今日もまた遅刻
  (しれっとかえっ きゅもまたちこっ)

 実際混んでいたのでしょうが、少し早く自宅を出れば、渋滞に巻き込まれなくて済むのでしょうが、そこは朝寝坊、早く起きるなんて大変な事で無理でしょう。
 でも、本当に混んでいたかは不明です。言い訳作りの滑稽さが面白いです。



 五客一席 城山古狸庵

理由を訊っみたや貝いなっ黙い込っ
  (わけをきっ みたやけいなっ だまいくっ)

(唱)都合が悪い時か使こ黙秘権
  (つごがわいとか つこもくひけん)


 五客二席 清滝支部 鮫島爺児医

鼠取い理由をば言てん耳み入れじ
  (ねずんとい わけをばゆてん みみいれじ)
(唱)軽る聞っ流て書かせた調書
  (かるきっなげて かかせたちょうしょ)


 五客三席 川内つばめ

   理由なんだ聞かんじ親父じゃ叱いたくっ
  (わけなんだ きかんじおやじゃ がいたくっ)

(唱)短気な性格で腹立て説教
  (たんきなたっで はらけてせっきょ)


 五客四席 醤油屋孫一
   
美人じゃって理由が有ったろまだ独身
  (しゃんじゃって わけがあったろ まだひとい)

(唱)何ごてじゃろか傍が気を揉ん
  (ないごてじゃろか はたがきをもん)


 五客五席 印南 本作

兄弟喧嘩理由あ何じゃか蹴いたくっ
  (きょでげんか わきゃあないじゃか けいたくっ)

(唱)冗談が原因で家族中で大騒動
  (わやっがもとで けねじゅでうそど)


秀  逸

上町支部 吉野なでしこ
メタボ腹理由あやっぱい多け交際
  (めたぼはら わきゃあやっぱい うけつっけ)

城山古狸庵
叱られてん理由は語らん強情え奴
  (がられてん わけはかたらん じょづえわろ)
孕けたなあ理由は聞かんじ爺が叱っ
  (でけたなあ わけはきかんじ じじががっ)
理由もなし総理ん椅子いしがん付っ
  (わけもなし そうりんいすい しがんちっ)
理由言えば良かろち思て叱いたくっ
  (わけゆえば よかろちおもてん がいたくっ)

清滝支部 鮫島爺児医
陛下様あ疲れやった理由あ皆な理解
  (へいかさあ だれやったわきゃあ みなわかっ)
苛め奴理由ん分からん理屈つ言っ
  (いじめわろ わけんわからん りくつゆっ)
温暖化理由あ分っが署名あせじ
  (おんだんか わきゃあわかっが しょめあせじ)
二浪さん理由を直せっ頑張いやし
  (にろうさん わけをなおせっ きばいやし)
高価け弾丸を海み捨て威張い理由あ何
  (たけたまを うみすていばい わきゃあない)

印南 本作
プチプチを理由無し潰っすかっしっ
  (ぷちぷちを わけなしつびっ すかっしっ)

川内つばめ
美人娘ん涙ん理由あ聞かならじ
  (しゃんおごん なんだんわきゃあ きかならじ)
汚職くしっ理由あ健康言て辞職っ
  (おしょくしっ わきゃあけんこう ちゅてやめっ)
若け時な理由あ無かどん腹が空っ
  (わけときな わきゃあなかどん はらがすっ)

醤油屋孫一
涙もれ理由は爺さんも歳しゅば取っ
  (なんだんもれ わけはじさんも としゅばとっ)
肥えでけた理由はビールを飲んだ付つけ
  (こえでけた わけはびーるを のんだつけ)


今月の投句から
 兼題は「理由(わけ)」でしたが「言訳(ゆわけ)」と勘違いされた方がおりました。発音が「理由(わけ)」と「訳(わけ)」は一緒ですので、勘違いされたのではと思います。読みは一緒でも漢字で理解してください。あまり理屈っぽい句は、句の流れが悪いようです。平易平明を心掛けて下さい。


薩摩郷句鑑賞 106

百合の匂亡母ん写真の方い向けっ
  (ゆいのかざ かかんしゃしんの ほいむけっ)

三五 小波
 一年中キュウリが食べられたり、クリスマスに百合の花があると、本当に季節感というものを失ってしまいそうである。しかし、咲くべき時に咲いた花が、いちばん美しいのかも知れない。
 ちょうど明日は盆の入り。遺影を飾り、迎え火を焚いて、お精霊を迎える日である。飾られた百合の花が、ほんのりと匂うのであろうが、それを、遺影の方に向けてやると言う、いかにも女性らしい思いのあふれた句である。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋

薩 摩 郷 句 募 集

◎10号
題 吟 「 仕事(しごっ)」
締 切 平成29年9月5日(火)
◎11号
題 吟 「 騒動(そど)」
締 切 平成29年10月5日(木)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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