鹿市医郷壇

兼題「真似(まね)」


(450) 樋口 一風 選




紫南支部 二軒茶屋電停

 先輩の真似から学っ研修医
(先輩の 真似からまなっ 研修医)

(唱)そうかそうかち我がで納得
  (そうかそうかち わがでなっとっ)

 日本では昔から、何の職業でも先輩の技は見て盗めと言われていました。医学の世界でもそうなのでしょうか。学問として学んだことと医学の現場は戸惑う事ばかりでしょう。
 先輩の一挙一動がお手本であり、指針でしょうからまず先輩の真似をしておれば間違いありません。そこから技術も生まれてくるのでしょう。お医者さんたちの実感句でしょうか。




城山古狸庵

 父ん役か山芋掘ほいの真似もしっ
(ととんやか やまいもほいの 真似もしっ)

(唱)毎晩我家ん酔漢がモデル
  (めばんわがえん よくれがもでる)

 お田植え祭さいに亭主てちょが出て来てユーモラスな所作をしますが、その場面でしょうか。それとも村芝居でしょうか。学芸会だったらなお面白いが、いずれにしても、酔っ払いの管巻きを上手に演じました。
 きっとモデルは我家の親父でしょう。作者の観察力に感心です。郷句は生活の中の何気ない事柄を切り取って5・7・5に纏め上げ楽しむ文芸です。




清滝支部 鮫島爺児医

 郷中ん寄い呆けた真似しっ役く逃げっ
(ごじゅんよい ぼけた真似しっ やく逃げっ)

(唱)本当じゃろそな一芝居
  (とんのこっじゃろ そなひひとしばい)

 「呆ぼけ」が気になります、通常は認知症をつかいます。差別用語とも取られますが、自分の事だから許されるのではと思います。「郷ご中じゅ」は町内会や、集落という意味で、薩摩郷句ではよく使います。「寄よい」は寄合(集会)のことです。
 郷ご中じゅの寄よいとは町会のことです。春は郷ご中じゅの役員の交代時期です。何とか理由を付けて断らなくてはなりません。そこで認知症の真似をして断る作戦です。句想として、役員を断る句はよくありましたが、認知症の真似はありませんでした。お医者さんならではの発想でしょうか。



 五客一席 上町支部 吉野なでしこ

 プロん型どしこ真似てん飛ばん球
(ぷろんかた どしこ真似てん 飛ばん球)

(唱)恰かっ好こん丈ぶんじゃそげなもんじゃろ
  (かっこんぶんじゃ そげなもんじゃろ)


 五客二席 川内つばめ

 受け売いで中身は空ん真似しごろ
(受け売いで なかみはからん 真似しごろ)

(唱)実力か無かて恰好ばっかい
  (じつりょかなかて かっこばっかい)


 五客三席 清滝支部 鮫島爺児医

 猫ん声真似っ鼠ぬ恐怖らせっ
(猫ん声 真似っねずんぬ びびらせっ)

(唱)そっくい叫っ暇人親父っ
  (そっくいおらっ 暇人おやっ)


 五客四席 城山古狸庵 

 もの真似で大てこっ稼っ芸達者
(もの真似で ふてこっ稼っ 芸達者)

(唱)面白と可笑しゅ顔ずい曲げっ
  (おもしとおかしゅ つらずい曲げっ)


 五客五席 川内つばめ

 スタん服き真似っ着たどん似合もせじ
(すたんふき 真似っきたどん におもせじ)

(唱)もともと身体ん寸法が違っ
  (もともとごてん すんぽがちごっ)


   秀  逸

上町支部 吉野なでしこ

習るもせじ親ん仕種を上手じ真似っ
(なるもせじ 親んしぐさを じょじ真似っ)

可愛ぜもんじゃ真似どま出来ん孫ん笑顔
(むぜもんじゃ 真似どまでけん 孫んえご)



清滝支部 鮫島爺児医

横着奴病気ん真似でまた休ん
(おちゃっごろ 病気ん真似で また休ん)

芸の道師匠をば真似っ上手じ育っ
(芸のみっ ししょをば真似っ じょじ育っ)

オレオレあ真似た訛で効あうたじ
(オレオレあ 真似たなまいで しょあうたじ)



城山古狸庵

テレぶ見っ真似た料理どま美味も無し
(てれぶ見っ 真似たじゅいどま うんものし)



川内つばめ

何もけん見真似で仕事つ身い付けっ
(ないもけん み真似でしごつ 身い付けっ)




今月の投句から

真似上手で経済大国き成い上がっ
(真似じょしで 経済大国き ない上がっ)

 この句を見て、一瞬この句は天賞だと思いました。昔の日本か、現在の中国のことだろうと思いました。
 文明に追いつくには、まず模倣から始まるのだろうと、兼題の「真似」には最高の発想でした。でも「経済大国き(けいざいだいきこき)」は残念ながら八音字です。俳句でも、川柳にしても、中八は許されていません。
 七音字にするには、「経済大国き(けざいだいこき)」と読まなければなりません。作者は、このことをご存知で振り仮名を付けられなかったのではと思いました。文字を見たら分かりますが、耳で聞いて「ケザイダイゴキ」の意味が分かるか疑問です。薩摩弁は色々な縮め方がありますが、何でも縮めれば良いというものではありません。例えば今回の秀逸の句に「テレぶ見っ」と言うのがありました、横文字の場合は特に難しいです。本来は「テレビを見っ」です。でも、つい「テレぶ見れ」と言うことがありますので、まあまあ許せるのかなと思います。
 この句を添削するならば、作者の意図は少し損なわれますが、「経済の大たい国こか真似で伸のし上きゃがっ」とでもしたらどうでしょうか。一 風


 薩摩郷句鑑賞 103

三連休一日は義理で家族ん旅行
(さんれんきゅ ひし日はぎいで けねんりょこ)
枦山 一球
 
 大型連休とは言っても、続けて一週間も休めるような職場はまだ少ない。せめて三連休を楽しもうと言うところだろうが、それにしても、先立つものは金であろう。
 だが、子供たちにせがまれて、結局日帰りの旅行をすることになったのであろう。一部オープンした吹上海浜公園か、森林浴百選の十曽か、それとも、高峠のつつじ見であろうか。



貰れださん理由は三十で禿ぐい血統
(もれださん わけはさんじゅで はぐいすっ)
長坪隼人塚

 いわゆる若禿の血統なのである。おそらく二十代なのに、もう髪が薄くなりかけているのかも知れない。
 だから見合いをしても、相手にほんとの年を信用してもらえないのであろう。いつも「おじんはいや」と断わられているのではあるまいか。
 きょうは島根出雲大社の例祭。縁結びの神様も、こんな場合ご苦労なさることであろうが、神様も血統ばかりはどうにもなるまい。いっそアデランスでも買ってみたらどうかな。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋



薩 摩 郷 句 募 集

◎7 号
 題 吟 「兄弟(きょで)」
 締 切 平成29年6月5日(月)
◎8 号
 題 吟 「 理由(わけ)」
 締 切 平成29年7月5日(水)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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