随筆・その他

リレー随筆

『めがね~スマートグラスで未来を見る~』


鹿児島県立大島病院 東 拓一郎

はじめに
 めがねとの付き合いは23年に及ぶ。強い近眼なので愛着というより,なくてはならない存在だ。服がなくても,靴がなくても生活できる(かもしれない)が,めがねがないと生きていけない。車の中にひとつ,仕事場にひとつ,運動用のバックにひとつ,以前使っていためがねを予備としておいている。ときには身近なめがねについて考えみたい。

昔,卒業生追い出しコンパで
 8年前,医学部硬式テニス部の卒業生追い出しコンパで,卒業生5人による「めがね体操」を披露した。5人横にならんで「いちっ,にっ,さんっ,,,めがね!」とポーズをとるたわいもない体操だが,全身を動かすので,今でも朝起きた時の日課となって,,,いない。

現在のめがね
 現在のめがねを購入して1年になる。「めがねらしいめがね」,だけど縁は薄くて「めがねかけてます」というのをあまり強調しないものを探していた。CHARMANT「シャルマン」。響きがいい,軽くてかけ心地がいい。酔っぱらって背中でつぶしても変形しにくい,というのも良い。1956年,福井県鯖江市で創業し,初めはめがねの部品を作っていたが,今ではめがね全体を作るように至る,という物語もよい。その技術を駆使して,顕微鏡手術の器械を作っているのも,また良い。

最近,3D映画のめがねで
 昨年度は高校の同窓が3人,同じ職場にいた。時々,お酒やおつまみを持ち寄って,‘3Dブルーレイ鑑賞会’なるものを行った。アマゾンのカスタマーレビューを参照し,次に何を見るか話し合うところから楽しい。
 初回,『ゼロ・グラビティ』 で3Dの映像に引き込まれていく。特にSF,アニメ,アトラクションムービーが3Dに向いていると思う。『ジュラシック・ワールド』 の迫力ある3Dは,恐竜の存在とストーリーに一層の現実味を持たせる。『ザ・ウォーク』,フランス出身の「綱渡りアーティスト」フィリップ・プティの実話だそう。1974年,ニューヨークのワールドトレードセンターの屋上に,ゲリラ的にワイヤーをかけて綱渡りをしたらしい。3Dのおかげで,高さ411mの綱渡りを安全に疑似体験することができた。『塔の上のラプンツェル』,お酒を飲んでる中,目の前でラプンツェルの髪の毛が立体的にぐるぐる回っていたので,目が回ってしまった。

未来,スマートグラスで
 先日,ドラえもんのポケットに入っていそうなアイテムを手に入れた。EPSONから販売しているMOVERIO BT-300という「めがね」。めがねの左右から投写された映像をプリズムで反射させて,前面のハーフミラー層に映像を映し出すしくみだそうで(理解できません),普通のめがねのようにかけるだけで,視野の一部にシースルーの画面が現れる。彩りは鮮やかで文字もしっかり認識できる。話題のバーチャルリアリティVRと違い,視界をすべて覆わないので,歩きながらでも使用できる(怪しいからしません)。
 画面はパソコンのディスプレイの役割を担い,手元の手のひらに納まるコントローラを使ってポインターを動かしてアイコンやアプリを選んだり,スマートフォンのようにフリックやスワイプなどの操作ができる。Wi-Fiにつなげることで,映画をダウンロードして観賞したり,YouTubeを延々とみることもできる。
 購入前はどんなものか想像できなかったので,購入後にこれで何ができるか検討した。スマートグラスを通してインターネットを楽しんだり,メールを確認するのは,パソコンやスマートフォンですれば十分なのであまり有効ではない。映画を見ながらテニスをするのは,可能だろうけど,どちらにも集中できないだろう。ネットでの商品説明では電車での移動中や,空港での待ち時間に手軽に映画を鑑賞できる,博物館で展示品を見ながら視界に説明モニターが浮かび上がってくる,などが挙げられているが,今までのデバイスで事足りるのではないか。購入者の報告で,昨年流行した「ポケモンGO」を実際の視野の中に再現しているものがあった。現実とゲームの世界が融合したような感覚だろうか。VRとならんで,今後,ゲームの世界はぐっと広がるだろう。
 スマートグラスには見ている景色を録画する機能もある。3年前,Google Glassがとん挫した理由のひとつに,この機能によるプライバシーの問題があるので,注意したい。
 まだ試していないことも含めて有効と思う使い方を挙げたい。
・寝転がって映画やテレビがみれる。天井にプロジェクターの映像が映っているイメージで,視野に映像がついてくるので,あらゆる体勢で映像を楽しめる。
・ピアノを弾いたり,サックスを吹くときに楽譜を映し出す。自動でスクロールされる楽譜を映し出せば楽譜をめくる必要がない。映像はめがねの前方に映し出されるので,目線を手元に落とせば通常通り楽器が弾ける。
・視野を録画する機能を利用し,『誰々の目線』 シリーズ。診察の巧みな先生が,患者のどこに着目し,どの順番で観察するのか,見ている映像を録画する。患者のプライバシーの問題があるので試していないが,模擬患者なら良いだろう。放射線科医が画像を読影するとき,外科医が手術をするとき,どこに着目しているかを,音声アナウンスを交えて記録するのは,画期的な教材になるだろう。パラグライダーをする友人に着用してもらい,そこから見える景色を疑似体験できる。多くはヘルメットにつけた小型カメラと変わらないが,利用者の「本当の目線」という点で違いがでてくるかもしれない。
・学会発表やスピーチのときに,視野の中に映し出された文字を読むことで,そらで覚えているかのように振舞える。

おわりに
 めがねをかけると裸眼ではみえないものが見えるようになる。最近のめがねは,映像を立体的にみせたり,視野の中にネットの映像やバーチャルの世界を映し出してくれる。めがねを通して未来が見えることはないが,未来について考えることはできる。

次号は,鹿児島県立大島病院の有水琢朗先生のご執筆です。(編集委員会)





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