鹿市医郷壇

兼題「挨拶(えさっ)」


(446) 樋口 一風 選




清滝支部 鮫島爺児医

乾杯の挨拶が長ごし料理が小言
(乾杯の 挨拶がなごし じゅいがぐぜ)

(唱)温か吸物も大概ひっ冷めっ
(唱)(ぬっかすもんも てげひっさめっ)

 乾杯の挨拶が長くてビールが温くなったとか、腕が疲れたとかいう郷句は、たくさんありましたが、料理が小言を言ったというのは、面白いと思いました。長いスピーチに、目の前に並んだ美味しそうな料理も冷めてしまいます。もちろん料理が小言を言えるわけはないのですが、料理を上手に擬人化してあります。スピーチと女のスカートは短いほど良いと・・・?




 城山古狸庵

選挙前殊勝き挨拶ちも念が入っ
(選挙前 きどきえさちも 念が入っ)

(唱)作い笑れどんしっ狙ろ一票
(唱)(作いわれどん しっねろいっぴゅ)

 普段はろくに話もしない人が、珍しく丁寧な挨拶をしました。何の選挙か分かりませんが、もうすぐ選挙があるらしくて、立候補予定者は赤子にさえ頭を下げ、美辞麗句を並べて子供にもお世辞も言います。




上町支部 吉野なでしこ

朝礼いな短け挨拶で人気者
(ちょうれいな みしけ挨拶で 人気もん)

(唱)簡単明瞭遣い気を出せっ
(唱)(簡単めいりょ やい気を出せっ)

 毎朝の朝礼に、やたらと長い話をする上司がいるものです。朝一番に急ぐ仕事が待っているので気が気ではないのに、長い訓示をします。
 それに比べてこの上司は簡単明瞭に要点だけを話して終わります。
 こんな上司は社内でも評判が悪い筈はありません。リズム良くすんなりと読めて流れの良い句です。


五客一席 紫南支部 二軒茶屋電停

惚れちょっち勘違げされた良か挨拶
(ほれちょっち かんちげされた よか挨拶)

(唱)優し顔で見い目も違っ
(唱)(しおらしつらで 見い目もちごっ)


五客二席 清滝支部 鮫島爺児医

陛下様疲れたの挨拶ちけ吃驚
(陛下さあ だれたのえさち けたまがっ)

(唱)お歳ごあんでよっぽどなこっ
(唱)(おとしごあんで よっぽどなこっ)


五客三席 川内つばめ

新年の挨拶もせんじ手を出せっ
(新年の 挨拶もせんじ 手を出せっ)

(唱)目当てあ爺い貰ろお年玉
(唱)(目当てあじじい もろお年玉)


五客四席 城山古狸庵

挨拶よか先き持っかけた借い相談
(挨拶よか さき持っかけた かいそだん)

(唱)手形割引き時間が迫っ
(唱)(手形わいびき 時間がせまっ)


五客五席 清滝支部 鮫島爺児医

御無沙汰を賀状ん挨拶でお詫びしっ
(御無沙汰を がじょん挨拶で お詫びしっ)

(唱)年に一度ん消息をば交換
(唱)(年にいっどん そをば交換)


秀  逸

紫南支部 二軒茶屋電停

只じゃって挨拶もせんじ出し惜しん
(ただじゃって 挨拶もせんじ 出しおしん)


上町支部 吉野なでしこ

躾いも挨拶ちゃ良かどん上ん空
(しつけいも えさちゃよかどん うわん空)


清滝支部 鮫島爺児医

三歳児が可愛ぜ着物を着っ上手じ挨拶
(みつっごが もぜべべをきっ じょじ挨拶)

一張羅を正月の挨拶ち着っ歩っ
(いっちょらを しょがっのえさち きっさりっ)

揉め事も挨拶のし様で丸るいたっ
(もめごっも 挨拶のしよで まるいたっ)

お早うが会た衆皆が元気なっ
(お早うが おたしみんなが 元気なっ)


 城山古狸庵

見た顔い挨拶ちゃしたどん名が出らじ
(見たつらい えさちゃしたどん 名が出らじ)

挨拶茶ん積やごろいと焼酎いなっ
(えさっじゃん つもやごろいと しょちゅいなっ)


 川内つばめ

挨拶つ書た紙ぬ忘れっ狼狽っ
(えさつけた かんぬ忘れっ ばたぐろっ)

嫁っ娘ん挨拶ち涙ん頑固親父
(いっおごん えさちなんだん がんことと)

挨拶ち来た婿かあ逃げっパチンコ屋
(えさち来た 婿かあ逃げっ パチンコ屋)


薩摩郷句鑑賞 99

爺の正月三日が三日庄助どん
(じのしょがっ 三日が三日 しょすけどん)
           藤崎 政男

 昔は六十歳くらいになると、いかにもじいさんくさい感じがしたものだが、世界一の長寿国にもなると、八十歳を超えても、車の運転をする老人は決して珍しくない。多分このじいさんも、ふだんは朝から晩までまめによく働く人なのだろう。
 その爺さんが、正月の三日くらいはゆっくりしようと、「朝寝、朝酒、朝湯が大好き」な庄助どんのように過ごしたであろう。「三日が三日」が生きている。


踊いうち頬被や禿いずい落てっ
(踊いうち ほかぶや禿い ずいおてっ)
           阪口 鉄心

 腰に魚篭をぶらさげて、安来節でも踊っていたのであろう。ひょうきんなしぐさなど入れながら踊っているうちに、頬被りがずれて、禿頭が出てきてしまったのである。
 滑って落ちたわけでもあるまいが、そう思わせるようなおかしさがある。
 頬被りがとれてしまうと、被り直しはせず、そのまま蛸踊でもして、一座を沸かしたのではあるまいか。三味線も太鼓も笑いこけてしまったことだろう。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋




薩 摩 郷 句 募 集

◎3 号
 題 吟 「 流行(はやい)」
 締 切 平成29年2月6日(月)
◎4 号
 題 吟 「 顔(つら)」
 締 切 平成29年3月6日(月)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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