=== 新春随筆 ===

       「卒業30年を迎えて,次の一歩を考える」




 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 衛生学・健康増進医学分野 教授
鹿児島市CKD予防ネットワークプロジェクト会議 委員長  堀内 正久

 初春のお慶びを申し上げます。
今年は,私にとって,卒業30年の節目の年です。30年の間に社会構造も大きく変わり,医学・医療においても多くの事項が,変化の波を受けていることを日々感じています。私が専門とする「産業保健分野」は,在学時には農夫肺を学んだとの記憶程度しかありません(もちろん私の不勉強のせいでもあります)。現在では産業医活動を主軸として,多くの医師会員の先生方が関わる分野となってきています。アスベスト=中皮腫は,現在では当たり前のことですが,30年前はまれな疾患であり,その因果関係も議論のあった時代でした。潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患もやはりまれな疾患として習ったように思います。現在では20代の発症が多いことから,復職面談が必要ということもあり,産業保健においても重要な対象疾患となっています。卒業時点で習わなかった事項として,「CKD(慢性腎臓病)」という略語があります。2002年に,米国腎臓財団が治療法や対応の共通性の視点に基づき提唱した新しい疾患概念と理解をしています。鹿児島市においては,平成26年度からCKD(chronic kidney disease)予防ネットワークが開始され,今年が4年目となります。多くの会員の皆様方に登録医あるいは腎臓診療医として関わっていただき,この場を借りてお礼申し上げます。
 これまで健診機関や保険者との円滑な結びつきを軸に展開してきました。今年からはさらに一歩進んで,県栄養士会との交流事業として,登録医向けの栄養士派遣を開始できればと考えています。この鹿児島市CKD予防ネットワークは,会員の皆様のご意見を反映させながら成長していくものと考えており,今年もまた,高所,大所より,ご指導をいただきたいと考えています。新しいことというのは根付きにくいもので,一般の方にCKDの認知度調査をいたしました。ネットワーク開始前の平成25年度も開始後の平成28年度も同様の結果で,わずか1%でした。同時に行ったメタボリック症候群の認知度が95%程度だったことを考えると,CKDの認知度の低さがうかがえます。ただ,メタボリック症候群は,ある意味では,体重に気を付けるといった日常生活に関わる自己介入ができるものであり,認知度の向上は重要と思われます。一方,CKDに関しては,肥満度と異なり腎機能を日常生活の中で自分自身で評価することが難しいこともあり,やはり,「健診受診→登録医」といった保健と医療が適切に結びついた環境の整備が,市民の方にとってはより重要なことと思っています。
 新しい医療の出来事という意味では,臨床の現場では多くの出来事が挙げられますが,予防医学の分野では案外多くはないことにも気づかされます。30年前の健診と比べて現在の健診の新しい項目は,HbA1cと腹囲程度でしょうか。産業保健の予防医学的取り組みでは,ストレスチェックが導入されました。身体だけでなく,心の健診という意味と,個人だけではなく集団も評価するという意味で,画期的な取り組みではあります。ただ,臨床での進歩と比べて,やはり,予防医学の歩みは遅いようにも感じます。そこで,私の今年の抱負,また,卒業30年の次の一歩として,「予防医学に関して新しいキーワードを生み出す」意気込みで,業務に取り掛かりたいと思います。新春にあたって大きな夢を語りましたが,新春の酔いとともにお許しいただきながら,医師会員の皆様方のそれぞれの夢がまた,叶いますことを願っております。




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