戦争と平和：年男七回目に－少年期記憶と現況より－
| （昭和8年生） |
北区・上町支部 （森口病院） 有馬 榮德（旧姓 鶴留） |
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Ⅰ．出生：1933（昭和8）年2月 ･ 軍国主義時代
小学校（のち国民学校）の国語教科書は軍国主義調濃厚となり，
「ススメ ススメ ヘイタイ ススメ」や
「サイタ サイタ サクラガ サイタ」など。
同年1月30日にはナチスがドイツ政権を奪取，ヒトラー首相誕生。同総統が来日時，筆者の母校旧制加治木中学校も訪問しており，当時旧式の非水洗型。“トイレが臭い!”と文句を言ったと米国に永住した同中学の先輩から筆者のUCLA（カリフォルニア大学ロサンゼルス校）外科留学中（1971-73）に聞いたことがあります。
同年3月に三陸地方大地震・津波発生（死者3,008人）。
筆者の出生地は実父の勤務先，現鹿屋航空基地の南崖下にあった野里小学校校長住宅。現在跡地に特攻隊の慰霊碑が建てられており，野里村は飛行機の騒音のため西方3kmほどに移転。その野里小学校校長室の壁に歴代校長の写真が掲げられており実父鶴留藤右衛門の当時の面影と対面できます。
Ⅱ．年男初回 12歳，1945（昭和20）年：三叉小6年～旧制鹿児島県立加治木中1年（母校空爆被災時）：少年時から軍事訓練
太平洋戦争末期～終戦：帖佐町（現姶良市）の山村，寺師部落南端にあった三叉国民学校（戦後過疎による隣村船津小学校との合併で現在三船小学校と改名）の初等科6年生時は体操の時間など毎日戦時訓練：空襲時の出火に備えたバケツリレーの消火訓練や敵兵と見立てた巻藁柱を突く必殺の竹槍訓練。家では早朝長太刀型の棒を打ち下ろす必殺の薩摩示顕流の稽古など。
4月の旧制中学入学早々から柔道は投げ技無く必殺の当身技のみ。剣道は木刀を振りかざし講堂の端から端まで駆け抜ける“切り込み”訓練。教練では敵機来襲中にも校庭の匍匐訓練で模擬手榴弾を這ったまま敵陣に向かって投げる訓練など軍人同様の臨戦訓練の毎日でした。
広島や長崎の原爆投下のあと，終戦4日前の1945（昭和20）年8月11日（月）は生死を分けた運命の日。校長の“中間考査をやるので万難を排して登校せよ”とのご命令で空襲警報下通学の汽車やバスが不通となる中，徒歩や自転車で登校した500人前後の生徒・職員は米軍機の絨毯爆撃に遭い，生徒14柱が殉難，多数の重軽傷者を出す地獄絵の修羅場を体験。筆者も体操道具倉庫の清掃中に油脂焼夷弾が落下，とっさにコンクリート覆いのある用水路に避難できて幸い無事でしたが，校舎や運動場では敵機4編隊計35機の機銃掃射，焼夷弾，爆弾投下などわずか数十分間の反復する空襲で母校ほか町中の主要建造物が焼き尽くされてしまいました。
同日曜日は授業が休みで犠牲者もほとんど出なかった同じ町の工業学校，高等女学校，小学校などと対照的で，加治木町全体の死傷者の大部分は中学校関係者でした。
Ⅲ．戦後の混乱：海外から引揚者激増で人口急増，食糧難など
田舎の我が家は終戦後まで親子3人でしたが戦後満州（中国東北部），北朝鮮からの引き揚げ2家族と姉の9人が相次いで自宅に帰り，たちまち1ダースの大家族となり，農家ながら備蓄は無く，主食はいわゆる“カライモンネッタクイ”（米飯にサツマイモを練り混ぜたご飯），‘はこべ’などの野草も入った味噌汁，川魚，野鳥など。それでも栄養失調で引き揚げたこどもたちはすぐ元気になりました（写真1）。
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| 写真1 左：筆者中学3年時代（14歳） 右：実家鶴留一族。終戦後満州，北朝鮮等からの引き揚げ家族等と （中央：実父母，最後列右：筆者） |
Ⅳ．平和な時代に傘寿を生きる現況（2016年）
1．九州大学麻酔・蘇生学新入局歓迎唐津一泊旅行参加
昨年に続き3度目の新入局歓迎医局旅行に昭和39年入局（鹿大2外科より国内留学･文部教官中央手術部初代助手，1964-1966）の医局員OBの一人として参加。医局の早朝カンファレンスに出席後2台の大型バスに分乗し，唐津シーサイドホテルに一泊（写真2）。翌日呼子の港で朝市見学，玄界灘の美景を眺めながらの美味なイカ飯昼食。ホテル朝食バイキングで出た玄界灘の魚の刺身の味も格別でした。今回印象に残ったのは，唐津城近くの「旧高取邸」。肥前炭鉱主 高取伊好（たかとり これよし：1850-1927）が明治の末に建てた大邸宅。2,300坪の海岸沿いの敷地に迎賓館の役割を果たした大広間棟と居間棟が広がり，和洋のエッセンスを取り入れた屋敷は，近代和風建築の粋として国の重要文化財指定。特に興味をもったのは国内で唯一現存する座敷に仕組んだ能舞台（写真3）。筆者が鹿大2外科から短期出張の愛媛県津島町国民健康保険津島中央病院外科部長時代，病院でのふぐ中毒町民患者の気管内挿管長期用手人工呼吸での救命などの勤務の合間に，隣町宇和島市に通い，謡曲，仕舞（神戸から当時の観世流元正本家の兄弟分も宇和島に出張教授），ほか裏千家茶道の重ね茶碗まで修行。仕舞用に袴を新調して発表会にも出演したことを思い出します。当時の仕舞の先生（病院長の未亡人）はのちに再婚され，百歳の今もお元気で筆者との賀状の交換も続けていただいております。
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| 写真2 九州大学麻酔･蘇生学新入局歓迎旅行御一行様 於：唐津シーサイドホテル（2016年6月11日） （中央：外教授，左隣：筆者） |
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| 写真3 佐賀市高取邸の国内で唯一現存する座敷に仕組んだ能舞台 （重要文化財，高取伊好肥前炭鉱主 明治末築） |
2．三三会クラス会（鹿大医学部昭33卒）
1958（昭和33）年3月鹿児島県立大学医学部医学科卒47人中21人が逝去していることが2016（平成28）年11月17日夕の卒後58周年目のクラス定例会で報告されました。今回は会員12人，ご婦人方7人が参会して1年ぶりの再会を歓び合いました（写真4）。筆者は現況報告で，故K君墓参を報告。ちなみに同君は53歳で病没。小児科学専攻大学院生時代，のちに鹿大学長となられた工学部教授の協力で1940年代に先駆的な‘超音波’医学応用関連の基礎研究で学位を取得。同研究で西ドイツから奨学金を得て2回ベルリンに留学。鹿児島市内で小児科を開業し，前記鹿大学長を含む‘ワインクラブ’（K君が在独中修行のワインの薀蓄を同診療所2階の部屋で随時披露）に筆者も何回か参加。さらに筆者の鹿大外科系在職中は，すし屋などでよくおごってくれていました。筆者は今でも時々市内にあるお墓にお参りし話しかけていますが，「今日は三三会を代表してお線香を三，三と左右3本づつお供えして墓参をしてきました」と，報告。
クラス会定例会は盛会で，逝去された学友の分まで生き残った我々ががんばりましょうと本年11月11日の定例会と来年の卒後60周年記念会での再会等を期してお開きとなりました。
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| 写真4 三三会 於：城山観光ホテル（2016年11月12日） （2列目左より2人目：筆者） |
2017（平成29）年が平和で実りある年でありますよう，皆様方のご健勝を祈念いたします。
(C)Kagoshima City Medical Association 2017