随筆・その他

リレー随筆

つれづれなるままに~カナダと日本の文化の違い?~


鹿児島市立病院総合周産期母子医療センター 新生児内科 武藤  充

 この度,このリレー随筆のお話が私にまわってまいりました。どんなことを筆に任せて書こうかと思いを巡らせておりましたが,私がカナダ留学中に感じた文化の違いを思いつくまま,書いてみたいと思います。

郵送サービス
 届くはずの郵便物がいつまで経っても届かない。こんなことは,カナダでは茶飯事でありました。移民の国のカナダでは配達員さんはnon-nativeな移民の方が多いのですが,世界的に有名な国際郵便を取り扱うある郵便会社ですら,(配達員さんのもともとのお国柄なのか)ずいぶん適当な配達が多くありました。配達日は,大体平日の昼,受け取りが困難なことが多いのです。仕事先に,配達にきたと連絡をしてくるのですが,今はどうしても都合がつかないから夕方に再配達してくれと頼むと,“Okay,Okay”と非常に軽い返事,大丈夫かなぁ??とよぎる不安。案の定,その日の夕方は現れず,2日経っても音信なし,1週間待っても何もなし。配達会社に連絡すると,空港の倉庫に戻っているから,数日以内に直接受け取りにきてほしいと。これは,電話してくるだけよいケース。時には,一報はなく,配達時不在伝票すら残さずに帰ってしまうことも。これも一つの文化か,仕方ないのだなぁと,しばらくすると変に納得し,届くはずの荷物に思いを巡らし,気をもむこともなくなりました。
 びっくりしたのは,民間の郵便会社だけでなく,カナダ・ポストというカナダ郵便公社も時に考えられない対応をするということです。カナダ・ポストはカナダの郵便事業を運営する機関として,「ロイヤルメール・カナダ」という名前で1867年に創業後,1960年代から「カナダ・ポスト」となり,1981年に郵便事業が政府から分離されて公社に,カナダ国内の郵政を一手に担う公社なのですが,,,労働組合との交渉が決裂すると期限明示のないストライキに入るという暴挙を決行するのです。すると,電気代や水道代など日常生活に必要な請求書が届かない,カナダ移民局からの滞在許可関係書類・許可書書類など重要な公的書類も届かない。交渉がまとまり,ストライキが終了した後も,その間配達されずに大量に残っている配送物に対し迅速な対応がはかられるという事はなく,通常通り(おそらく順番に)配送処理され,配達されるまでにはかなりの時間がかかります。
 日本に帰ってきて,ある郵便会社の配達員さんから「本日おうかがいしましたが,お留守でした。何日の何時ごろに,配達にうかがったらよろしいでしょうか?」と電話をもらった時には,思わず,すごい!!と声を出してしまいました。郵便事業サービスのきめの細やかさも,日本の誇るべき‘おもてなし’なのだなぁと感じいりました。

ホテルサービス
 歯ブラシ,歯磨き粉,くしなど宿泊施設の洗面所には,日本では必ず並んでいるアメニティー物品。これもあたりまえと思っていました。カナダの最高級レベルのホテルでも,備えてはありませんでした。こういった日常のアメニティーは,自ら持ってゆくというのが,通常なのでしょうね。カナダ国内旅行には,常にアメニティーを持って出かけました。
 それから,部屋の定員に厳しいのがカナダ。我が家は家内と小学生の娘2人,幼児の長男の5人なのですが,ホテルの仕様は大体1人,2人,4人,またはそれ以上,というパターンが多く,ベッド就寝は基本的にひとり1ベッドとなっています。このルールから毎回外れてしまう我が家は,旅行先の宿での交渉にいつも一苦労しました。5つベッドがある部屋でないと,公には宿泊提供してはいけないらしいのです(消防法も微妙にからむのだとか)。一番下がまだ小さいので添い寝ではだめか?といつも交渉していました。ここも文化の違い。カナダでは産院から自宅へ戻った時点で新生児の時から,個別ベッド,場合によっては寝室も別。なので,添い寝など考えられないのでしょうね。我が家の裏ワザは,4人で宿泊予約をする,というものでした。。。。チェックインでばれますが。。。

こどものしつけ
 ベッドルームといえば,赤ちゃんが泣いたときの対応も違いました。日本では,おなかすいたかな?おむつがぬれて気持ち悪いのかな?という思考回路が普通。そして抱っこしてあやして寝かしつけて,ですよね。カナダは違いました。ミルクもおむつも問題ないのだから,泣かせておけば泣き止むので,抱っこしてあやして自分の時間を使うことはナンセンスとの考えがベース。カナダっ子は,新生児期に自宅へ入ったときから,自律を促されるのです。かといって,小学校の送り迎えは,高学年でも親の同行が必須。自宅から小学校がどんなに近くても,毎日親の送り迎えが義務。このあたりは,面白いなぁ,文化の違いだなぁと思いました。こどもだけを家に残しての親のちょっとの外出もご法度。時間外保育施設に入れるか,ベビーシッターを頼むか,同伴させるかいずれかをチョイスしなければなりませんでした。違反の場合,虐待の嫌疑や育児義務放棄の嫌疑がかけられてしまいます。
 虐待過敏?な面もありました。知人から,外でこどもをしつけのためにはたく行為は慎まないとダメだよ,とアドバイスをもらっていました。しつけと体罰の線引きは,日本の文化の中でも時に微妙なラインであることがありますが,カナダでは基本的にこどもをはたく=暴力・虐待と受け取られてしまいます。知人は,外でこどもを叱ったときに思わず手が出てしまい,たまたまそれを見かけたおばちゃんからポリスに通報された経験があったと。幸い,私は通報されるような事態には遭遇せずに帰ってこれました。
 カナダにはCAS(Child Aid Society)というこどもの権利保護団体があって,精力的に活動しています。日本の児童相談所よりも,かなりアクティブで,親権の剥奪,里親のあっせん,こどもの権利の法的保護活動を熱心にしていました。わりと簡単に親権の剥奪が行われ,その判断が容認されるのだなぁという印象を持ちました。親権の回復は,裁判所の判断にゆだねられます。文化の違いですね。
 こどもの教育には,移民の国らしく両親の出身国によって方針が違っているように感じました。日本では,みんなが同じレベルのことを同じスピードでできるようになりましょう,というスタンスが強いと思いますが,カナダでの印象は異なりました。できる子はどんどん伸ばし,不得手な子はそれとなく,という感じ。本格的な学力の差は,中学校選びで決まってくるようでした。また,エリートはきれいなCanadian Englishを話し,フランス語も堪能に使いこなすように育てられます。就職の際,この2点が大きく響くのだそうです。移民の国らしくさまざまなアクセントの英語が耳に入ってきましたが,インテリジェンスレベルときれいなアクセントの英語を話せるかどうかがみごとに相関している印象を強く持ちました。

フードストア
 家族で渡加し,はじめてカナダの食料雑貨店に行った時の出来事。ストア内にはブルベリー,ブラックベリー,ストロベリー,ラズベリーなどあらゆる種類のベリーが美しく山積みになっていました。次の瞬間,目を疑う光景。前を歩いていたおばちゃん,おじちゃん,おもむろにその山の中からベリーをとって食べ始めました。ん??これって,マナー違反じゃないの?と思いました。でも,なんときちんとお金を払えばいいでしょ,自分が買う分ならいつ食べてもいいでしょ,という論理がまかり通るらしいのです。ついぞ,滞在中同じ行為を我が家で真似するには至りませんでしたが,これも文化が違えば・・・・という出来事でした。
 カナダではほぼcashlessな生活でした。というのも,銀行のカードがそのままデビットカードとして普段の買い物,支払いに使われるからです。レジの横にはカードリーダーマシンが必ずあり,カード支払いが日常でした。クレジットカードと違い,手数料はかかりませんでした。お財布のかるいこと,そしてうすいこと。そして日本に帰ってきてから,お財布の重いこと,厚いこと(小銭でですが・・・)。このあたりも文化の違いだなと思いました。

 カナダ留学中に,女子サッカーのワールドカップが開催されました。スタジアムで日の丸を掲げて,君が代を斉唱したとき,日本人を感じました。あさ神々しい太陽の光を浴びて異国の街路にけなげに咲いた桜の花をみたとき,こみあげるものがありました。日本人である自分を,再認識することができた留学でした。日本人でよかったなぁ!
 しきしまの やまとごころを ひととわば
 あさひににほふ やまさくらばな
(「敷島の歌」本居 宣長)


次号は,鹿児島市立病院の中崎奈穂先生のご執筆です。(編集委員会)





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