鹿市医郷壇

兼題「喧し(せからし)」


(442) 樋口 一風 選




 城山古狸庵

喧しち言かたで孫を離しゃせじ
(喧しち ゆかたで孫を 離しゃせじ)

(唱)そうかそうかち下がった目尻
(唱)(そうかそうかち 下がっためじい)

 郷句の定番の孫が出てくる句ですが、この句は一味違っていました。
 爺ちゃんの行動はしっかり見られています。「・・・・にもかかわらずおかしい」ところを看破して表現するのが、郷句や川柳の独壇場だと思います。喧しいと言いながらも、あれやこれやと、爺さんの方から纏わりついていきます。孫の句は手垢が付いているので、詠むなと言われていますが、この句は孫が出ていますが爺さんを読んでいます。




清滝支部 鮫島爺児医

喧しか爺の声聞けん寂し通夜
(喧しか じの声聞けん 寂し通夜)

(唱)諭す言葉がまだ耳み残っ
(唱)(さとす言葉が まだみみ残っ)

 顔さえ見れば喧しいことばかり言う人でした。生前は煩い人だと思っていましたが、亡くなってみると、やはり寂しくなります。
 遺影を見ているとあの声が懐かしく、もう一度聞いてみたくなります。句の流れが良い。




 川内つばめ

児童ん試合い喧し親が小言を言っ
(こんしあい 喧し親が ぐぜをゆっ)

(唱)半端齧いが監督気分
(唱)(はんぱかじいが かんとっ気分)

 ちびっこ野球やサッカーなどの試合に父母が付いて手伝いや応援に行きます。それだけならありがたいのですが、長くそれをやっていると試合にも詳しくなり、それなりの知識もついてきます。勝った時は良いのですが、負けた試合には父母も納得できないこともあります。
 家の子を出せば勝ったのにとか、作戦が悪かったとか、監督さんも頭の痛いことです。
 チームワークの為にうるさい外野の調整も必要でしょう。


五客一席 紫南支部 二軒茶屋電停

喧しか妻が黙れば気味悪し
(喧しか かかが黙れば きぞ悪し)

(唱)何か有っどち亭主は思案
(唱)(ないかあっどち とのじょは思案)


五客二席 上町支部 吉野なでしこ

張い上げっ誠て喧し選挙カー
(はい上げっ まこて喧し 選挙カー)

(唱)どうか助けて言て名を連呼
(唱)(どうか助けて ちゅて名を連呼)


五客三席 清滝支部 鮫島爺児医

稀勢の里喧し周囲い堪えきっ
(稀勢の里 喧しぐるい こらえきっ)

(唱)次が横綱ち出っ来た希望
(唱)(つが横綱ち でっ来た希望)


五客四席 伊敷支部 矢上 垂穗

ゴルフ場教え魔が居っ喧しゅし
(ゴルフ場 教え魔がおっ 喧しゅし)

(唱)いらいらしでっ振れ出たショット
(唱)(いらいらしでっ ぶれ出たショット)


五客五席 川内つばめ

喧しか子供の声も懐かしゅし
(喧しか こどんの声も 懐かしゅし)

(唱)少子化じゃっち寂なか過疎
(唱)(少子化じゃっち とぜんなか過疎)


秀  逸

紫南支部 二軒茶屋電停

泣っ声が喧しか赤子で大つ育っ
(泣っごえが 喧しかこで ふつ育っ)


上町支部 吉野なでしこ

昼寝時きまこて喧し蝉の声
(ひいねどき まこて喧し せっの声)


清滝支部 鮫島爺児医

イギリスじゃ 勝った選挙で 喧しゅし
(イギリスじゃ 勝った選挙で 喧しゅし)

自爆テロ喧し所ゆ狙っ実行っ
(じばっテロ 喧しとこゆ ねろっやっ)

躾じゃ無折檻じゃっち喧しゅし
(しつけじゃね 折檻じゃっち 喧しゅし)

暑か夏蝉の声ずい喧しゅし
(ぬっかなっ せっの声ずい 喧しゅし)


伊敷支部 矢上 垂穗

保育園喧しち言う大人んエゴ
(保育園 喧しちゆう おせんエゴ)


 城山古狸庵

喧しか夏休んが終んで婆あ昼寝
(喧しか やすんがすんで ばあひいね)


 川内つばめ

服コーデ喧し色で身を包ん
(服コーデ 喧し色で 身を包ん)


作句教室
今月の郷句から
 「服コーデ」という言葉がありました。
 多分服のコーディネーション(服の組み合わせ)ではないかと思いましたが、世情に疎い選者には理解できませんでしたので、ネットで調べたら、「服コーデ」がありました。薩摩郷句にも新しい言葉や横文字が出てきますが、薩摩郷句の読者に理解できるか疑問でもあります。選者も勉強しないといけません。
 ◎「太(ふ)つ育っ」は太くではなく、「大きく」ですから「大(ふ)つ」です。
 ◎下五に「見限られ」「愚痴をたれ」という、連用止めがありました。下五は必ず終止形(言い切る)か名詞で止めてください。郷句は連歌の後ろの七七を省いた前句付けからきていますので、唱を付けているのです。唱は下五が終止形の場合は、名詞か連用形で止めます。


薩摩郷句鑑賞 95

梯子焼酎ごろいと宿をけ忘れっ
(梯子じょちゅ ごろいと宿を け忘れっ)
              下山 風天

 これは、出張だの商用だので、いつも行っている街ではあるまい。おそらく初めての土地で、しかも旅慣れた人でもなさそうである。
 旅の恥はかきすてとばかり、いささか羽目を外して飲み歩いたのであろう。ところが、自分の泊まっているホテルの名を忘れてしまったのである。方角は分からないし、帰ろうにも帰れずに困ったであろう。梯子もほどほどにというところ。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋


薩 摩 郷 句 募 集

◎11 号
 題 吟 「 耳(みん)」
 締 切 平成28年10月5日(水)
◎12 号
 題 吟 「 来年(でねん)」
 締 切 平成28年11月5日(土)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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