天
城山古狸庵
寝たきいの妻と縁側かあ花火ぶ見っ
(寝たきいの かかとえんかあ はなぶ見っ)
(唱)来年な側で見いけ行こやち
(唱)(でねんなそばで みいけ行こやち)
二尺玉の音が賑やかに聞こえます。今夜は少し気分も良いので、縁側にベッドを移動して、ささやかな夫婦だけの花火見物です。
花火を見ると気分が高揚してきます。少し遠花火ですが、これもまた良きかなです。夫婦だけの静かな時間を持てたことと思います。
元気になって、来年は近くで花火が見られれば良いですね。しっとりとした人情句です。
兼題の花火(ひやなっ)は難しいようでした。花火(ひやなっ)と入れなくても花火(はなび)を詠めば良いです。
地
清滝支部 鮫島爺児医
花火ぎな俺も負けんち桜島も噴っ
(ひやなぎな おいも負けんち やまもひっ)
(唱)傍迷惑な凄ざい灰を撒つ
(唱)(はためいわっな わざいへをめつ)
薩摩郷句は人を詠みますが、この句には人はいません。でも「俺(おい)も負けん」と桜島を擬人化しています。
ありそうなことです、以前花火大会の時に灰が降って悲惨な目に遭いました。できれば花火の時は静かにして欲しいものです。
人
上町支部 吉野なでしこ
納涼船花火ぎゃ見らじ飲んだせっ
(のうりょせん ひやなぎゃ見らじ 飲んだせっ)
(唱)何しけ行たか訳はわからじ
(唱)(ないしけ行たか 訳はわからじ)
折角の納涼船に乗っても、目的は涼風に吹かれながらの生ビールです。目玉の水中花火には目もくれず、盛り上がっています。そうなると花火はどのようだったか覚えていません。よくある夏の一ページが切り取られています。
五客一席 城山古狸庵
花火見ん客が残せた塵の山
(はなっ見ん きゃっがのこせた ごんの山)
(唱)マナーも何も全部うっ捨っ
(唱)(マナーもないも ずるっうっせっ)
五客二席 川内つばめ
二尺玉め犬も驚っ狼狽っ
(にしゃっだめ 犬もたまがっ ばたぐろっ)
(唱)テロじゃなかかち凄ぜ吠えたくっ
(唱)(テロじゃなかかち わぜ吠えたくっ)
五客三席 紫南支部 二軒茶屋電停
花火び似っ大と咲っ消えた恋ごころ
(はなびにっ ふとせっ消えた 恋ごころ)
(唱)燃えた割にな跡形も無し
(唱)(燃えたわいにな 跡形ものし)
五客四席 清滝支部 鮫島爺児医
夏の夜ん線香花火が懐かしゅし
(なっの夜ん せんこはなっが 懐かしゅし)
(唱)里ん番台と光と匂と
(唱)(里んばんこと ひかいとにえと)
五客五席 伊敷支部 矢上 垂穗
空爆も無して平和な空れ花火
(くうばっも のして平和な それ花火)
(唱)美事て美事てち夏ば楽しん
(唱)(みごてみごてち 夏ば楽しん)
秀 逸
紫南支部 二軒茶屋電停
寒かどん二人やほんわか冬花火
(さんかどん ふたやほんわか ふいはなつ)
上町支部 吉野なでしこ
花火の仕舞を飾った二尺玉
(ひやなっの しめを飾った にしゃっだま)
清滝支部 鮫島爺児医
空い咲たしだれ柳の七変化
(空いせた しだれやなっの 七変化)
多け人い涼んもならん花火見
(うけ人い 涼んもならん 花火み)
城山古狸庵
花火び似た大法螺話すば打っ上げっ
(はなび似た うぎらばなすば 打っちゃげっ)
川内つばめ
小銭ぬ握っ花火も見らじ露店せ走っ
(ぜぬ握っ はなっも見らじ みせ走っ)
作句教室
「題が動くということ」
「花火よけ娘(おご)ん浴衣い目が移っ」という句がありました。良い句ですが、これを「踊(おど)いよけ娘(おご)ん浴衣い気が移っ」と詠んでも立派な郷句になります。この句のように「花火」でなくても、「踊り」や「祭り」でも主題を変えても、句が成立するものを「題が動く」と言い、兼題のある句の場合には、良い句とは言えません。例えばこの句が「移っ」という兼題なら「花火」でも「踊り」でも句になります。できるだけ題の動かない句を見つけましょう。
今回は破調句が多いでした。花火(ひやなっ)の振り仮名に原因があったのかも分かりませんが、五・七・五で詠んで欲しいです。
また「外人」という言葉がありました。昔は「碧眼(たごめ)」と言っていましたが、「碧眼(たごめ)」も差別用語です。外人は差別用語だと記者ハンドブックに書いてありますので、使わない方がよいようです。
薩摩郷句鑑賞 94
ここも過疎老人神輿が休くどえっ
(ここも過疎 おんじょ神輿が よくどえっ)
書川 水平
これはまた、にぎやかな都会の夏祭りに比べて、なんともさびしい祭りの情景である。
若者たちは皆都会へ出て行ってしまうので、農漁村では、後継者がいないことが大きな悩みになっているが、それは単に、労働力の面ばかりでなく、祭りの御神輿かつぎとか、郷土芸能の伝承などの面でも大きな痛手であろう。
「老人」は、この場合は必ずしも高齢者という意味ではなく、壮年くらいに解した方がよかろう。たびたび休憩するところに実感が出ている。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋
薩 摩 郷 句 募 集
◎10 号
題 吟 「 聴診器(ちょうしんき)」
締 切 平成28年9月5日(月) ◎11 号
題 吟 「 耳(みん)」
締 切 平成28年10月5日(水)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
鹿児島市加治屋町三番十号
鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
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