鹿市医郷壇

兼題「突然(ひょかっ)」


(440) 樋口 一風 選




清滝支部 鮫島爺児医

山手線田舎ん友人と突然会っ
(山手線 田舎んどしと 突然おっ)

(唱)貴様や何事よ出た鹿児島語
(唱)(わやないごっよ でたかごっまご)

 現在は山手線(やまてせん)とは言わず山手線(やまのてせん)と言うらしいが、どちらでもよいと思います。
 偶然とは恐ろしいものです。まさか千三百万人もいる東京のど真ん中の電車で何十年振りに、同郷の友人に会うとはまさに奇遇です。お互いに、びっくりもびっくりです。
 さすがベテランです。突然(ひょかっ)にぴったりの句ができました。




 城山古狸庵

突然来た飲兵衛れ焼酎を買け走っ
(突然来た のんごれしょちゅを こけ走っ)

(唱)序で肴いつけ揚げ豆腐
(唱)(ついでしおけい つけきゃげおかべ)
 焼酎の買い置きの無い時に限って飲み友達は突然やってきます。電話一本かけてくれれば良いものをと、文句を言いながらもそこは親友です。ちょっと待たせて、焼酎ととりあえず冷奴用の豆腐も買います。
 「朋有り、遠方より来る」です。自分で焼酎を買いに走ったのが意味を強めています。良か晩になったことでしょう。




 川内つばめ

突然来っあいせこいせち煩せ母
(突然来っ あいせこいせち うるせはほ)

(唱)幾ちなってん子供な可愛ぜ態
(唱)(いくちなってん こどんなもぜふ)

 どういう状況かよく分かりませんが、母親にすれば、子どもというものはまだ半人前だと思っています。時々視察に行かないと心配です。
 だから予告なしで突然来ては、あれやこれやと口うるさく言います。これが母親の愛でしょう。二、三日は泊まってゆかれるかも分かりませんよ、覚悟をしましょう。


五客一席 上町支部 吉野なでしこ

突然会っ誰か分からじ凄ぜ焦っ
(突然おっ だいか分からじ わぜあせっ)

(唱)勘でてげてげ大世間話
(唱)(かんでてげてげ うぜけんばなし)


五客二席 清滝支部 鮫島爺児医

野天風呂れ突然娘が入っ来っ
(のてんぶれ 突然おごじょが はいっ来っ)

(唱)驚ったとあ内気者ん青年
(唱)(たまがったとあ いめごろんにせ)


五客三席 伊敷支部 矢上 垂穗

実力者がパナマ文書い突然出っ
(つえたっが パナマぶんしょい 突然でっ)

(唱)国ぬ裏切っ狡ね奴等
(唱)(くんぬうらぎっ ずっねわろどん)


五客四席 紫南支部 二軒茶屋電停

アイラブユ突然ち言たちノーサンキュ
(アイラブユ 突然ちゆたち ノーサンキュ)

(唱)思てもおらん奴がプロポーズ
(唱)(思てもおらん とがプロポーズ)


五客五席 城山古狸庵

突然出っ良か句と思たて誰かん句
(突然でっ よか句ともたて だいかん句)

(唱)投句さじ良かったと思て後塞
(唱)(ださじよかった ともてあとぜっ)


秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

長げ鼾突然止んだや心配いなっ
(なげいびっ 突然やんだや せわいなっ)

地震ん奴突然やっ来て凄ぜ暴れ
(なえんわろ 突然やっ来て わぜあばれ)

お経供げが突然止んだや家が揺れっ
(おきょあげが 突然やんだや えが揺れっ)


伊敷支部 矢上 垂穗

可愛ぜ孫が爺が好っち突然言っ
(むぜ孫が じいじが好っち 突然ゆっ)


 城山古狸庵

今日はテスト突然始めた狡じ先生
(きゅはテスト 突然はしめた えじせんせい)


 川内つばめ

暗れ夜道ち突然出っ来た人て怖っ
(くれよみち 突然出っ来た ひてびびっ)


作句教室 樋口 一風
 「つがんね事つ突然っ言放題(ゆほで)年な者」という句がありました。この句について考えてみましょう。
 直訳すると「とんでもない事を突然言い放題のお年寄り」となります。意味がよく分かりませんし、この句は全体では十七音字になっていますが、六六五になっています。薩摩郷句は五七五の定型を守っていますので気を付けましょう。標準語以外は振り仮名を付けてください(兼題に振り仮名が付いている場合は、句には振り仮名は要りません)。
 また下五の「年な者」は「年寄(としなもん)」「老人(としなもん)」の方が良いと思います。五七五にまとめると、「つがらんね事(こ)つ突然(ひょかっ)言(ゆ)た年寄(としなもん)」言い足りないですが、このようになります。これでは郷句味がありませんし、そうですかという句です。郷句はそれから先が大事なのです。
 「つがらんね事(こ)つ爺(じ)が突然(ひょかっ)言(ゆ)で困っ」と詠むと郷句になります。郷句は短詩のドラマです。


薩摩郷句鑑賞 93

夫婦喧嘩投げた茶碗ぬ素手で取っ
(みと喧嘩 投げた茶碗ぬ 素手で取っ)
             弓場 正己

 夫婦喧嘩は、一種のレクリエーションだと言う人がいるけれども、確かにそんな要素があるのかもしれない。
 しかし、手当たり次第に茶碗や皿を投げたり、物をぶち壊していたら、それこそ給料がいくらあっても足りはすまい。
 投げる方も、値段の安い物を、手ごころを加えて投げる、投げられた方も、落ちて割れないうちに、素手でつかむ、まさに漫画である。これならレクリエーションと言えるかもしれない。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋



薩 摩 郷 句 募 集

◎9 号
 題 吟 「 喧し(せからし)」
 締 切 平成28年8月5日(金)
◎10 号
 題 吟 「 聴診器(ちょうしんき)」
 締 切 平成28年9月5日(月)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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