随筆・その他

リレー随筆

花 の あ る 暮 ら し

東区・紫南支部
(今村病院分院) 武田浩一郎
 趣味の多い生涯を送ってきました。
 と太宰 治先生風に書き始めてみたが残念ながら事実ではない。
 自分は非常に飽きっぽい性格なのでひとつの趣味が長く続いたためしがなく,中途半端に釣りや温泉めぐりなどこれまでいろいろ試しては途中でやめてしまっていた。
 しかしこれも年の功というのであろうか,最近は以前より一つの物事に対する興味が長続きしているような気がする。
 現在の自分の趣味は花作りと料理である。とても40過ぎのオヤジの趣味ではなさそうだが,実はどちらもトレンディな趣味なのである(すでにトレンディという言葉が死語なのではあるが)。
 料理ができる男はすでに昔から一定の市民権を得ているし男性用の料理雑誌なども普及している。また速水もこみちさんなど料理のできる俳優も枚挙に暇がない。
 しかし園芸は料理ほどの市民権を得てはいない。あまり男性の趣味ではないように感じるが,現在NHKの趣味の園芸の司会をしている人物がイケメン俳優の三上真史さんであるように,じわじわ世の男性たちの間に浸透している(らしい)。
 今回生まれて初めて随筆を執筆する機会をいただいた時に,何を書こうか正直迷ってしまったが,現在一番興味のあることを書くことにした。稚拙な文章となることは承知の上であるがどうかご容赦いただきたい。
 数年前に新居を構えた。夢のマイホームというやつだが実際はマッチ箱のようなものである。
 その中に猫の額ほどの土地ではあるが花壇を作った。また友人が新築祝いに胡蝶蘭の寄せ植えをプレゼントしてくれた。
 このことが園芸に対する興味を掘り起こさせてくれたのだと思う。
 花壇作りは,季節の移り変わりを計算しながら植物を選ぶ必要がある。春に咲く花,夏に咲く花,など季節によって満開になる花が異なる。
 季節の変わり目ごとに植え替えが必要である。また春に咲く花だとしても開花時期の間中満開の花が次々と咲き誇る植物もあれば,桜のように満開の時はうっとりとする眺めだがあっという間に散ってしまうものもある。
 具体的にはそれらを組み合わせて栽培計画を練っている。
 しかしそれにしても,植物は人間同様個性的である。酸を好む植物,アルカリを好む植物,直射日光が大好きな植物,日陰が好きな植物,夏が苦手なもの,冬が苦手なもの,湿気が大好きなもの,乾燥が好きなもの,空気中の湿気は好きだが土壌は乾燥しているほうがよいもの・・・などわがままと言いたくなるほど種によって好む環境は異なる。唯一同じなのは動かないことぐらいであろうか。
 人によると思うが自分は手のかかる植物を好む。
 そこで自分がこよなく愛する手がかかる植物の代表を2種類ご紹介する。

1.バラ
 バラの愛好家は多い。バラの愛好家のことを園芸家の間ではロザリアンという。以前流行したオバタリアンと呼ばれる人たちでもバラの愛好家はロザリアンである。バラを置いていない花屋はたぶんないだろうと思えるほどありふれているが,やはりあの花の美しさと芳香は秀逸といってよいであろう。
 バラの特徴の一つはその種類の多さである。つるバラ,木立性のバラ,ミニバラなど概観上の分類,一季咲き,四季咲きなど咲き方による分類,オールドローズ,ハイブリッドティーローズ,フロリバンダローズなど品種による分類,カップ咲き,ロゼット咲きなど花の形による分類・・・分類法だけでも数多く,バラについての書物を見ていると頭が痛くなる。そのためなんとなく敷居が高く感じてしまう。
 しかし分類が何であれ,きれいな花を咲かせることは間違いない。
 バラは実に面白い植物である。野バラは丈夫なのだろうが何年にも渡って人の手が加えられた園芸品種のバラは総じて病気にかかりやすく,害虫にも弱い。その弱さときたら,まるで虫や微生物(真菌感染が多い)の餌として存在するのではないかと思うほどである。
 特に黒星病という真菌感染症は大変で,一度感染すると駆除はほぼ不可能である。次から次に葉を落として丸坊主にしてしまうこともある。
 他にチュウレンジハバチ,アブラムシ,コガネムシなどによる食害も甚大である。従って薬剤散布を必要とする。
 というほど病気に弱いが,不思議なことにめったな事では枯れない。
 何度丸坊主になってもそのたびにまた新芽が出てきて復活する。
 ただし丸坊主になって葉を落とすと成長が遅くなり花付きも悪くなるので薬剤散布を行うのだが,それにしても生命力があるのかないのかよく分からない不思議な気持ちにさせられる。
 弱いが倒れてもあきらめずに何度でも立ち上がり,きれいな花を咲かせる・・・どこか人間に似ている気がする(棘があるところも似ているのかもしれない?)。
 そして,剪定といって,花が咲いた後の枝や,冬の間に枝を切ると,枝を切らないときよりも多く花を咲かせる。わざわざ人が傷をつけることで元気になるというところも不思議である(人間にもそのような趣味の方はいるようだが)。
 このようなバラを最近こよなく愛するようになった。手はかかるが来年に咲くであろう花が今から楽しみだ。

2.洋蘭
 自分としては洋蘭のほうが古くからの馴染みである。実家がシンビジュームなどの洋蘭を育てていたせいだと思う。
 洋蘭もバラと同じくらい普及している植物である。
 洋蘭も種類が多い。有名なものから順にあげていくとカトレア,シンビジューム,デンドロビウム,胡蝶蘭(ファレノプシス),デンドロビウム・ファレノプシス(デンファレ),オンシジウム,バンダ,アスコセントラム,エピデンドラム,デンドロキラム,グラマトフィラム・・・。
 洋蘭の場合,バラと違って単一の品種ではなくさまざまな海外のラン科の植物を総称して洋蘭と呼んでいる。以前はシンビジュームがベストセラーであったが近年は胡蝶蘭が最もよく売れている。
 洋蘭は基本的に寒さに弱い。戸外では日本の冬は寒すぎて枯死してしまう。
 従って冬の間は屋内での管理となる。ただし洋蘭のなかでも耐えうる最低気温は品種による差が大きく,シンビジュームやデンドロビウムはかなり低温でも耐えうる。逆に胡蝶蘭,デンファレ,バンダなどは低温に弱い。
 近年は住宅事情が変化し冬の室内の気温が最低気温でも10度以上を維持できる住宅が増えてきたため,以前は暖房設備の整った温室でなければ育てられなかった高温性の洋蘭といわれる胡蝶蘭なども住宅で栽培できるようになってきた。また,メリクロン栽培といわれる,成長点の細胞を取り出して培養する組織培養法が確立してから,洋蘭は劇的に安くなった。洋蘭が高価な花というイメージをお持ちの方が多いと思うが,それはメリクロン栽培の確立していなかった時代に大変高価であったことが大きいと思う。
 今でも贈答品の胡蝶蘭の寄せ植えは確かに高価であるが,それ以外のデンファレやシンビジュームなどは手が届く値段である。また,花が終わりかかった洋蘭はホームセンターなどで見切り品として格安で売られている。
 そのような株を安く手に入れて大事に育てることも洋蘭栽培の醍醐味である。
 洋蘭の栽培で特に気を使うところは,日光,水遣り,温度である。この3条件に気をつけさえすればきれいな花を咲かせてくれる。ただこの条件がなかなか難しい。
 洋蘭は,着生蘭といって,高い木の幹や洞穴に根を張って,しがみつきながら生育しているものがほとんどである。つまり長年他の植物たちによって住む場所を奪われ,ようやく行き着いた先が木の幹だったというわけだ。従って暖かい地方の原産だが木漏れ日が当たり,風が吹きすさび,霧に包まれるあまり暑いとはいえないしかも気難しい場所で過ごしてきた。当然園芸品種もそうした環境を好む傾向がある。つまり直射日光は強すぎ,空気中の湿気は好むが長雨は嫌い,ほどよく風が吹いている所が理想なのである。
 人間が木の上で生活しているならよいのだが,地上で,しかも日本でこのような環境はなかなか難しい。従って置き場に困ることになる。
 夏の直射日光は葉が焼けるので遮光ネットという網をかぶせる,水遣りをしすぎると根が腐ってしまうので一鉢ごとに手に持って重さと乾燥具合を確認しながら水遣りのタイミングを調整する,肥料もやりすぎると調子が悪くなる,冬場は葉に霧吹きをかけて保湿するなどわずらわしいことこの上ない。しかしバラと異なり病害虫には意外に強い。
 洋蘭の場合,要求は多いが要求を満たしてあげるとある程度ほったらかしても(実は乾燥にも強い)勝手に育っている。
 これも生命力があるのかないのか,バラとは別の意味でよく分からない。
 つまり,バラは健気だが病弱,洋蘭はわがままなことこの上ないがわがままを聞いてあげると勝手に育ってくれる,といったところか。
 厳しい環境で育っている洋蘭はなかなか花を咲かせないが一度花を咲かせると種類や気温にもよるが1~2カ月は花が持つ。花付きのいい品種だと半年ほど花が咲き続けるものもある。花は個性的でみな豪華である。

 このほかにも魅力的な植物はたくさんあるのだがきりがないし,ただでさえマニアックな園芸のお話なので紹介はここまでにしておく。
 最後に,植物を育て始めて教えられたことを述べる。
 植物たちは自分で育った環境を選べない。移動できるわけではない。
 でも彼らは与えられた環境で文句も言わず(本当は言っているのかもしれないが当方には聞こえない)一生懸命生きている。
 そして,気がつけば自分たちの力で無言のうちに周囲を過ごしやすい環境にしている。
 人は何かと不平不満をつい口にしてしまいがちであるが,彼らは,今自分のいる環境で精一杯努力をすることがいかに大事なのかを控えめに教えてくれているように見えてしまうのだ。
 地球温暖化が叫ばれて久しい。化石燃料の燃焼を減らすことが最も大事だが日光の力で光合成をして二酸化炭素と水を吸収し酸素と糖に変えることができるのは植物だけである。
 植物を増やすことも地球温暖化対策になると思う。
 皆さんもぜひ一鉢お好きな植物を育ててみてはいかがでしょうか?
 必ず愛情にこたえてくれますよ。

次号は,猿渡ひふ科クリニックの猿渡 浩先生のご執筆です。(編集委員会)




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