鹿市医郷壇

兼題「上手(じょし)」


(431) 樋口 一風 選




清滝支部 鮫島爺児医

孫と囲碁褒め褒め打って上手じ負けっ
(孫と囲碁 褒め褒め打って じょじ負けっ)

(唱)歯痒い真似どんすっ爺ん手管
(唱)(はがい真似どん すっじん手管)

 「褒め褒め上手じ負けっ」がいいですね。流石ベテランの技ありの句です。孫に悟られないように上手に負けるには爺ちゃんの腕も確かなのでしょう。この句の良さは、下句の「上手じ負けっ」です。具体的にどのような負け方をしたのだろうと考えながら選をしました。
 大好きな爺ちゃんに褒められて、喜色満面のお孫さんの顔が浮かびます。




 城山古狸庵

上手上手ち煽てっ仕事つ押し付けっ
(上手上手ち 煽てっしごつ 押し付けっ)

(唱)褒められたなあ出っきた遣い気
(唱)(褒められたなあ 出っきたやい気)

 この句も天の句と似たように人を褒めて使うという、人間の弱いところを突いた句です。
 煽てれば豚も木に登るとか、叱るより褒めて使えと、あの東郷元帥も言っておられます。褒められると嬉しいものです。人遣いの基本だと思います。私もその手でやられました。




上町支部 吉野なでしこ

孫ん児が上手じ歩んどち爺が自慢
(孫んこが じょじ歩んどち じがおぎら)

(唱)他家と同でん良かふい見えっ
(唱)(よそとぐゎでん よかふい見えっ)

 典型的な爺(じい)馬鹿を詠んだ句です。孫が歩いたぐらいでと思うのですが、とにかく孫は可愛いのです。どこの爺さんもこんなもでしょう。「おい家(げ)えも孫が居(お)っとい孫ん自慢(ぎら)」と、こんな自慢話は犬も食いません。他人の前で言うと座が白けますので、止めておきましょう。相手が上司やクライアントだったら無理をしてでも相槌を打つことでしょうが。


五客一席 城山古狸庵

褒め上手の口ち乗せられっ嫁っ気なっ
(褒め上手の くち乗せられっ いっきなっ)

(唱)仲人口ち言う甘め言葉
(唱)(なかだっぐっち ちゅうあめ言葉)


五客二席 上町支部 吉野なでしこ

上手じなろち励つけたとが実を結っ
(じょじなろち はめつけたとが 実をむすっ)

(唱)無駄じゃ無かった若け時の苦労
(唱)(無駄じゃ無かった わけとっのくろ)


五客三席 紫南支部 二軒茶屋電停

上手じゃっち褒め上げられっ句を出せっ
(上手じゃっち ほめあげられっ 句をだせっ)

(唱)嘘じゃ無かどち選者ん本音
(唱)(嘘じゃなかどち せんじゃん本音)


五客四席 清滝支部 鮫島爺児医

運転な上手じゃが度度貰ろ切符
(運転な 上手じゃがはいと もろきっぷ)

(唱)用心ぬせんな免停が心配
(唱)(ゆじんぬせんな 免停がせわ)


五席五客 清滝支部 鮫島爺児医

安し給料い遣い繰い上手の女房け恵さっ
(安しはれい やいくい上手の かけのさっ)

(唱)子供も育えっ少とあ貯金
(唱)(こどんもおえっ ちっとあ貯金)


秀  逸

 城山古狸庵

上手じゃっち言で来っみれば手荒れ医者
(上手じゃっち ゆできっみれば てあれ医者)


紫南支部 二軒茶屋電停

飲ん食をば上手じせじ糖で大変て目遭っ
(のんくをば じょじせじ糖で ふてめおっ)


上町支部 吉野なでしこ

上手じゃがち褒めっ鍛えっ金メダル
(上手じゃがち 褒めっ鍛えっ 金メダル)


作句教室
 今月の兼題は「上手(じょし)」と振り仮名がついています。「上手に」の場合は「上手(じょ)じ」となりますので、「上手」(じょし)の場合は、振り仮名は要りませんが「上手に」の場合は「上手(じょ)じ」と振り仮名を付けます。
 「人生な上手にいっこた一度(いっど)も無(ね)」
 この句について少し考えてみましょう。意味はよく解りますが。でもそうですね、と言うしかない句です。
 薩摩郷句はユーモアとか皮肉とか穿ちとか諧謔の文芸です。この句はなるほどそうだよねと同感はしますがそこまでで面白味が無いです。
 中句は「上手に」(じょし)にと読まないと中八になります。鹿児島弁では「上手(じょし)に」とは言いません。「上手(じょ)し」と言うべきでしょう。
 この句はこのように添削させていただきました。
 「人生(じんせ)ゆば上手(じょ)じな渡れん曲尺(ばんじょがね)」(曲尺(ばんじょがね)とは大工が使う曲尺ですが、正直で融通の利かない一亥者の事を比喩で言います)


薩摩郷句鑑賞 87

外顔ん良かしこ家で妻け当たっ
(そとづらん よかしこうっで かけ当たっ)
               小園 サチ

 「わっさわっさ語っ」と言う言葉があるが、気さくに話すことである。
 ところが、隣近所の人や、職場の人々に対しては気さくで、みんなに好感をもたれ、親しまれておりながら、家では無口、まことに気むずかしい人がいるものである。
 いわゆる外面は良いが、内面の悪い人である。別に、家の人に当たるつもりはないのだろうが、家族にしてみれば、ひがみたくもなるだろう。


わが女房けにゃ間けにゃ合めどん橙を買っ
(わがかけにゃ かけにゃおめどんででをこっ)
               元山三文字

 秋の木市が始まるが実の付いたきんかんの苗木を下げて帰る姿などほほえましいものである。この句の場合は、橙の苗木を買ったわけだがその苗木が大きくなって実をつける頃は、もう奥さんは、子どもを産む年ではないな、とおどけたものである。これは妊娠すると酸っぱいものがほしくなるものだというところからきたものである。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋



薩 摩 郷 句 募 集

◎12 号
 題 吟 「 鏡(かがん)」
 締 切 平成27年11月5日(木)
◎新年号
 題 吟 「 優し(しおらし)」
 締 切 平成27年12月1日(火)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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