天
清滝支部 鮫島爺児医
苦労をした割にや軽りどち給料を叱っ
(苦労をした わいにやかりどち はれをがっ)
(唱)俺ゆば見い目が凄ぜ低き評価
(唱)(おゆば見い目が わぜひき評価)
給料を出す側と受け取る側の労力の価値観の違いがあると思います。出す側は十分出したつもりでも貰う側は少し違います。でも汗を流して苦労した報酬がこの程度かと思えば腹が立ちますが、
下五の「給料(はれ)を叱(が)っ」の中には企業だけではなく働いても報われない社会情勢などへの批判もあるのではと思います。流石に手慣れた良い句だと思います。
地
上町支部 吉野なでしこ
見栄っぱい苦労も楽しち言い返っ
(みえっぱい 苦労もたのしち いいかえっ)
(唱)愚痴どん言えば男が立たじ
(唱)(ぐぜどんいえば 男がたたじ)
男でも女でも面子を大事にします。暮らし向きはあまり良くはないけど、苦労の影も他人にはみじんも見せないのが男の美学かもしれません。生きていくのに見栄も大事です。下五の「言(い)い返(かえ)っ」の「言(い)い」が少し気になります、「言(ゆ)っ返(もで)っ」なら完全に鹿児島弁になりますし、語意が強くなります。
人
城山古狸庵
苦労かけた妻ん背中壺べ灸をすえっ
(苦労かけた かかんへっつべ きゅをすえっ)
(唱)まだまだ仲ん良か老夫婦
(唱)(まだまだ仲ん よかおんじょんぼ)
久し振り「背中壺(へっつぼ)」を耳にしました。背中壺(へっつぼ)と書くのか私もよく分かりませんが背中のお灸の壺だろうと思いました。
昔婆さんが上半身を出して背中に灸を据えていたのを思い出しました。
現代のご婦人がお灸を据えるか分かりませんが痕の付かないお灸もあるのでしょう。老夫婦の優しい夫婦愛がよく詠めて良い句でした。
五客一席 城山古狸庵
親ん苦労忘れちゃ居めが戻っ来じ
(親ん苦労 忘れちゃいめが 戻っ来じ)
(唱)音信の無か時が良か親孝行
(唱)(その無かとっが よかおやこうこ)
五客二席 上町支部 吉野なでしこ
親いなっぼっぼっわかい親ん苦労
(親いなっ ぼっぼっわかい 親ん苦労)
(唱)若け時の事っいま後悔をしっ
(唱)(わけとっのこっ いまくけをしっ)
五客三席 清滝支部 鮫島爺児医
五体よっか心ん苦労が心身に沁みっ
(ごてよっか こころん苦労が みにしみっ)
(唱)相当な名医ん注射も効かじ
(唱)(じょじょな名医ん 注射もきかじ)
五客四席 紫南支部 二軒茶屋電停
苦労話聞かせっ貰ろっ道標
(苦労話 聞かせっ貰ろっ みっしるべ)
(唱)正座をばしっ胸ね叩っ込ん
(唱)(正座をばしっ むね叩っくん)
五客五席 印南 本作
反抗期苦労ち思わん親ごころ
(反抗期 苦労ち思わん 親ごころ)
(唱)もう大人せ成ろち子をそっち見っ
(唱)(もうおせなろち 子をそっち見っ)
(原句は「反抗期苦労と思わぬ親ごころ」でしたが、句意は良かったのですが残念ながら標準語でした。中七を鹿児島弁に変えて採用しました)
秀 逸
清滝支部 鮫島爺児医
難儀苦労負けんじ頑張っ今があっ
(なんぎ苦労 負けんじきばっ 今があっ)
資産家にゃ税ゆば減らそち苦労があっ
(資産家にゃ ぜいゆばへらそち 苦労があっ)
戦前の苦労を想えば今は楽
(戦前の 苦労をおもえば 今はらっ)
苦労かけっ育てた孫が嫁貰ろっ
(苦労かけっ そだてたまごが よめもろっ
ご来光登山の苦労は飛で逃げっ
(ご来光 登山の苦労は つでにげっ)
城山古狸庵
買うてでん苦労せえ言が金が無し
(こうてでん くろうせえちゅが ぜんがのし)
好青年ん方に嫁ったとが苦労ん種
(よかにせん 方にいったとが 苦労ん種)
川内つばめ
親ん苦労わががなっせえ身に浸みっ
(親ん苦労 わががなっせえ 身に浸みっ)
上町支部 吉野なでしこ
子が育っどっか行っちた苦労ん日々
(子が育っ どっか行っちた 苦労ん日々)
添 削
皆さん素晴らしい感性の持ち主ばかりで感心しました。句は上手に纏めてありますが、鹿児島弁で無い句があったりしましたので添削してみました。少し助詞を変えたりすると立派な句になります。
印南 本作
腹ん脂肪苦労して減らしまた増えっ
(腹んしぼ 苦労して減らし また増えっ)
(中七の「苦労して減らし」が標準語です)
◎腹ん脂肪苦労しっ減らしまた増えっ
(腹ん脂肪 苦労しっ減らし また増えっ)
あいがとな苦労が報われ一言で
(あいがとな 苦労が報われ 一言で)
(下五が「一言で」と連用止めになっています)
郷句の下五は言い切る、すなわち終止形で止めるという約束事があります。もともと郷句は連歌の五・七・五・七・七の七・七を省いた、川柳でいう前句付からきたもので、後の七七があると連用止めでも良かったのですが、七・七が無いと句にしまりがありません。
(七・七は(唱)で補っています)
だから下五は言い切ってください。
下五の「一言」を中七に持っていくと次のような句になります。
◎有難ん一言ち苦労が報われっ
(あいがとん ひとこち苦労が 報われっ)
清滝支部 鮫島爺児医
降灰洗いが苦労とも言えじ日課けなっ
(へあらいが 苦労ともいえじ にっけなっ)
ベテランの句に申し訳ないですが「降灰洗い」が気になりました。郷句だからできるだけ鹿児島の言葉で表現していただけたらと思います。
「洗(あら)い」を私どもは「洗(あ)れ」「洗(あ)る」とか言います。洗(あ)るでは五にならないので多分洗いにされたのではと思います。
洗う場所が分かりませんが道路とか庭とか車だったら「降灰(へ)流(なが)し」とか「降灰(へ)の掃除(そっ)」ではどうでしょうか。
◎降灰の掃除が苦労とも言えじ日課けなっ
(へのそっが 苦労ともいえじ にっけなっ)
後 記
四二七回も続いている鹿市医郷壇に浅学菲才の私でいいかと迷っていました。
投句を拝見してレベルの高さに驚いています。皆様の感性を上手く引き出せるか心配もしていますが、一生懸命頑張りますのでよろしくお願いいたします。
樋口 一風
薩 摩 郷 句 募 集
◎9 号
題 吟 「 妬ん(しょのん)」
締 切 平成27年8月5日(水)
◎10 号
題 吟 「 上手(じょし)」
締 切 平成27年9月5日(土)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
鹿児島市加治屋町三番十号
鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
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