=== 随筆・その他 ===

「現 場 の 医 療 を 守 る 会」 拡 大 中


中央区・清滝支部
(小田原病院)   小田原良治

 “医療事故調”メーリングリスト(坂根みち子「現場の医療を守る会」代表世話人,坂根Mクリニック院長)が,粛々と拡大を続けている。この会が崩壊に向けて転がりつつある医療の救世主となるかもしれない。疑問符だらけの厚生行政,それにすり寄る一部有識者の大罪について警鐘を鳴らしてきた人は多い。しかしながら,それぞれの団体,それぞれの世界での個別の活動であり,連携に乏しかったのも事実である。ところが,何のしがらみもない坂根みち子医師の現状を憂う思いが大きな歯車を動かした。発起人には医療界のみではなく,国会議員,法律家等67人が名を連ねることとなった(m3.com医療維新2014年3月11日号)。
 
 事故調メーリングリスト記者会見


 本年4月1日「現場の医療を守る会」が正式に発足,4月2日厚労省内で発足記者会見(写真)を開いた(m3.com医療維新2014年4月3日号)。“医療事故調”法案につき,WHO(世界保健機関)ガイドライン準拠の制度設計を求めたのである。5月10日現在,“医療事故調”メーリングリスト参加者は207人となっている。また,「現場の医療を守る会」ホームページも開設,多くのアクセスが見られるようである。小生も,発起人・世話人としてこの会にタッチしているが,実は,この「現場の医療を守る会」は,“鹿児島発”なのである。
 2014年3月8日,鹿児島市で,鹿児島県病院厚生年金基金主催・日本医療法人協会共催で「医療を守る法律研究会講演会」を開催した。演題は,「大野病院判決と医師法第21条」(井上清成弁護士),「医療事故調査制度を考える」(小田原良治),「医療事故調査制度について−行政の立場より−」(大坪寛子厚労省医療安全推進室長),「裁判所による証拠提出命令について」(山崎祥光弁護士),「医療過誤裁判最近の実情」(染川周郎弁護士)と充実した内容であったが,その成果も大きなものがあった。
 一つは,今回の医療事故調査制度について,大坪室長より,「第三者機関は医療機関がスイッチを押さない限り動かない」との発言があったことである(m3.com医療維新2014年3月10日号,日本医療法人協会ニュース平成26年4月号P18)。今回の医療事故調の第三者機関の調査は,医療機関の管理者が届け出て初めて始まるものであり,他からの申請では動かないと述べたものである。
 他の一つは,同じく大坪室長が,2012年10月26日の田原克志医事課長(当時)の医師法第21条に言う「異状死体等の届出義務」についての見解(外表基準)を,再度,外表異状との名称で補強したことである(m3.com医療維新2014年3月12日号,日本医療法人協会ニュース平成26年5月号P17)。
 さらに,鹿児島発の大きなうねりは,この講演会において,前述の坂根みち子医師から,「シングルイシュー事故調でまとまりませんか?」の提案があったことである。同日,講演会後の討議で,「現場の医療を守る会」(代表世話人坂根みち子)の立ち上げが決まり,小生も発起人・世話人として参加することとなった。昨年9月より鹿児島で活動している「医療を守る法律研究会」のメンバーからは,小生の他に,井上清成弁護士,山崎祥光弁護士,染川周郎弁護士,和田拓郎弁護士が発起人として名を連ねている。また,この会の特筆すべき点は,象徴的な医療冤罪事件の被害者である佐藤一樹医師(東京女子医大事件),加藤克彦医師(福島県立大野病院事件)も発起人として参加していることである。佐藤一樹医師は,本年5月から,医療事故調ガイドライン研究班のメンバーにも指名され,活躍が期待されている。
 「現場の医療を守る会」は,現在進行中の医療事故調査制度に関する情報を医療関係者に広報するとともに,その制度の危険性を認識してもらうための期間限定の情報交換の場である。メーリングリスト開始とともに熱心な議論が展開されている。福島県立大野病院事件の衝撃的医師逮捕の映像を目にして一気に高まった医療関係者の関心は,第三次試案の頓挫,政権交代へと進んだ。「医療崩壊」の言葉が駆け巡ったのもこの時である。まさに医療関係者が現状や将来の危機を共有した時期であった。その後の無罪判決,それぞれの医療現場の繁忙に追われて,医療事故調への危機感が医療関係者から薄れてしまった。いつの間にか「ゆでガエル」状態になりかけている。この間にも,医療者の懲罰制度づくりは着々と進んでいたらしい。厚労省は2013年5月29日,「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」(とりまとめ)を発表した。極めて重大な内容にも関わらず,医療者の関心は低い。
 同年,9月21日,日本医療法人協会は,鹿児島市で「医療事故調のすべてがわかるシンポジウム」を開催,鹿児島発で医療事故調への関心を呼び掛けた。このシンポジウムの大きな成果は,飛び入り参加の保岡興治元法務大臣が,医療法人協会提案の「医療の内」と「医療の外」の考え方に理解を示したことであった。さすがに,法律家としての切れのある発言であった(m3.com医療維新2013年9月23日号)。その後,日本医療法人協会を中心とする活動の成果があり,保岡興治議員・厚労省・日本医療法人協会の三者協議を経て,医療事故調法案は,かなり良いものに進歩していった。拙文が発刊される頃には,既に法律になっていることであろう。
 しかしながら,問題はこれからである。せっかく,法案まで進化したものを政省令・ガイドラインで引き戻そうとする動きがあるからである。また,ほぼ解決の見えた医師法第21条問題に不用意な改正論を唱える動きも出てきている。田邉 昇医師・弁護士,佐藤一樹医師が以前から解説している「異状死体」の外表基準説を,田原医事課長(当時)が厚労省として支持し,大坪医療安全推進室長が外表異状として補強した。これにより,ほぼ,問題のなくなった医師法第21条であるが,不用意な改正論(刑法211条1項前段業務上過失致死傷罪を同時に解決しなければ意味はない)が,いまだ存在し,不必要な警察への届け(医師法第21条に基づくと誤解した)が出されている状況にある。今回の法案でも,2年後の医師法第21条を含めた見直しが盛り込まれた。
 法律となった後の実務は,政省令・通知により左右される。今,進行中のガイドライン研究班の役割と責任は大きい。ここで見過ごしては,将来に禍根を残すとの思いがメーリングリスト立ち上げに向かったものであろう。既存組織の頼りなさと現状への危機感が坂根医師らの行動に表れており,組織を超えた画期的な活動へとつながっている。「WHOガイドライン」順守の「現場の医療を守る会」の活動は,まさに正論であり,今後の医療事故調に一石を投じるものであろう。
 話題提供した“医療事故調”メーリングリストは,今後,ますます拡大を続け,ホットな議論の果たす役割は大きくなるであろう。また,同時に「現場の医療を守る会」ホームページにも多くの有益な情報が発信されるであろう。医療事故調制度創設に危機感を抱く有志により設立された,個々人の情報収集・交換・発信の場としてのこの会の果たす役割は大きい。
この「現場の医療を守る会」と「事故調メーリングリスト」が「鹿児島発」であり,医療事故調論議を先導していることをご承知いただき,「現場の医療を守る会」ホームページにアクセスしてみていただきたい。



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