鹿市医郷壇

兼題「傘(かさ)」


(417) 永徳 天真 選




紫南支部 紫原ぢごろ

差しかけた傘が取い持っくれた縁
(さしかけた 傘がといもっ くれた縁)

(唱)そん優しさい心惹かれっ
(唱)(そんやさしさい 心ひかれっ)

 突然ぽつりぽつりと雨が降ってきて、傘を差した男性の前を、傘を持たない女性が雨に濡れながら歩いています。
 親切心から、「どうぞ入ってください」と声をかけ、傘を差しかけて雨宿りの所まで一緒に歩いたのでしょう。この出会いが縁となり、その後夫婦になったのであれば、正に縁結びの傘でした。




上町支部 吉野なでしこ

忘れ傘十羽からげで捨せ方
(忘れ傘 じゅっぱからげで うっせかた)

(唱)一時すればまたうっ溜まっ
(唱)(いっとっすれば またうったまっ)

 人が集まる公共施設などで傘立てを見ると、晴れた日でも傘が数本置かれているので、忘れ物だろうなと思います。
 例外ではなく、病院にも忘れ傘はあるでしょうから、溜まればある期間を待って片付けなければなりません。持ち主が取りに来ない悲しい傘を処分する側の、複雑な気持ちが伝わってくる句です。




 城山古狸庵

破れ傘せ濡れた案山子は震えちょっ
(破れがせ 濡れたおどしは 震えちょっ)

(唱)風邪を引かんな良かどんち心配
(唱)(風邪をひかんな よかどんちせわ)

 田を見守る案山子は、炎天下も、雨の日も風の日も関係なく、立ち尽くしています。その日除け雨除けのためにと、気が利く地主に傘を差してもらっていますが、人間には用無しの破れ傘です。
 当然破れ傘では、雨に濡れてずぶ濡れです。そんな案山子を擬人化した句ですが、哀れに思われたのでしょう。


 五客一席 清滝支部 鮫島爺児医

相合傘まだまだ降れち身を寄せっ
(あいえがさ まだまだふれち 身をよせっ)

(唱)こげなチャンスは滅多てな無かど
(唱)(こげなチャンスは めってななかど)


 五客二席 城山古狸庵

よかぶいが春雨じゃっち畳ん傘
(よかぶいが はるさめじゃっち たつん傘)

(唱)髪が薄し衆なそんた無理じゃっ
(唱)(かんがうししな そんたむいじゃっ)


 五客三席 上町支部 小石 助六
傘ん先くけ曲げっ平然悪餓鬼
(傘ん先く けまげっしれっ われこっぼ)

(唱)物を大事じせち言てん聞かせん
(唱)(物をでじせち ゆてんきかせん)


 五客四席 印南 本作

傘を置っ雨んシャワーを楽しん子
(傘をえっ 雨んシャワーを 楽しん子)

(唱)キャーキャ言ながらぞっぷい濡れっ
(唱)(キャーキャゆながら ぞっぷいぬれっ)


 五客五席 紫南支部 二軒茶屋電停

梅雨時も眺めて楽し傘ん花
(つゆどっも 眺めて楽し 傘ん花

(唱)窓かあ見れば賑こ咲ちょっ
(唱)(窓かあ見れば にっぎゃこせちょっ)


   秀  逸

紫南支部 紫原ぢごろ

曾我殿の傘焼き出せん蝙蝠傘
(そがどんの 傘焼きだせん こもいがさ)

雨上がい傘どま毎度ずけ忘れっ
(雨上がい 傘どまねんず け忘れっ)

名優は蛇の目一本で見得を切っ
(名優は 蛇の目ひとっで 見得を切っ)


清滝支部 鮫島爺児医

傘修理今は買た方が安すで済ん
(傘修理 今はこたほが やすですん)

傘焼っが燃ゆい傘減っ萎びれっ
(かさやっが もゆいかさへっ しなびれっ)

梅雨時邪魔にゃなっどん傘は要っ
(ながしどっ 邪魔にゃなっどん 傘はいっ)


 城山古狸庵

こん暑せ老爺も日傘準備っ出っ
(こんぬっせ おんじょも日傘 しこっでっ)


上町支部 吉野なでしこ

蛇の目傘タンスい仕舞っ出番無し
(蛇の目傘 タンスいしもっ 出番のし)


上町支部 小石 助六

酔払が昨日買た傘を置忘れっ
(よくれぼが きのこた傘を ちわすれっ)


 印南 本作

目い見えん日傘ん効果有ったろか
(目い見えん 日傘ん効果 有ったろか)


 川内つばめ

傘持たん日に限っせえ雨が降っ
(傘持たん 日に限っせえ 雨が降っ)


市立病院支部 甲突五差路

故郷ん親父傘寿ますます意気盛ん
(さとんおや 傘寿ますます 意気盛ん)


薩摩郷句鑑賞 77

ほとびった顔い梅雨の陽を当てっ
(ほとびった つらいながしの ひを当てっ)
              有馬 凡骨

 「ほとびった」というのは、「ふやけた」という意味である。
 今年は春から、まるで梅雨のような雨が続いたけれども、昨日が入梅、いよいよ長雨の季節である。明けても暮れても雨が降り続くと、顔も体もふやけてしまいそうな気がするもの。
 そんな時、雲の切れ間から陽がのぞくと、なんかなつかしいような、ほっとしたような気持ちになるものであるが、それをうまくとらえている。


茶上がいの畦道ち並るだ泥ん足
(茶上がいの あぜみちなるだ 泥ん足)
              中里 飯語

 「茶上がい」は、「お茶を飲むための休憩」のこと。もちろんこれは田植えのことである。
 田植えは大変な重労働だから、十時ごろと、三時ごろはお茶がくるが、それも単にお茶だけでなく、握り飯や団子など、腹拵えのできるものが必要。それを、泥のついたままの足を並べて、みんなでほおばっている姿が目に浮かぶ。
 しかし、この頃は長雨の季節だから、時には立ったままお茶を飲んだり、ばっちょ笠の下で握り飯を食べたりしたものだった。
  ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋


薩 摩 郷 句 募 集

◎8 号
 題 吟 「 痛て(いて)」
 締 切 平成26年7月5日(土)
◎9 号
 題 吟 「 がっつい 」
 締 切 平成26年8月5日(火)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


このサイトの文章、画像などを許可なく保存、転載する事を禁止します。
(C)Kagoshima City Medical Association 2014