鹿市医郷壇

兼題「客(きゃっ)」


(412) 永徳 天真 選




上町支部 吉野なでしこ

上客にゃ女将さんずい出迎えっ
(じょうきゃっにゃ おかみさんずい でむかえっ)

(唱)こいが一流ん妙だおもてなし
(唱)(こいがいちりゅん すだおもてなし)

 高級な料亭や旅館には縁がないですが、テレビなどで、このような光景を見たことがあります。店にとっては、売り上げに貢献していただいている大事な客ですので、その応対も当然といえば当然なことでしょう。
 庶民には、遥か彼方の世界ですが、現実を受け入れた、空虚感が漂う句です。




紫南支部 二軒茶屋電停

寒か晩お客き勧むいまず一杯
(さんか晩 おきゃきすすむい まずいっぺ)
(唱)こいで体を血が駆け巡っ
(唱)(こいで体を 血がかけめぐっ)

 店の客なのか、家を訪れた客なのか迷いましたが、前者だろうと想像しました。
 おそらく、カウンター越しに接客する小さな飲み屋で、主人も男か女か定かではないですが、客は常連客でしょう。
 「温まってください」と、差し出されたお湯割りの焼酎に、笑みも零れます。そんな気配りに、心も温まる句です。




 城山古狸庵

客か帰っ直き火が点た夫婦喧嘩
(きゃかもどっ いっき火がちた みとげんか)
(唱)ごめん言が無で引き分けじゃろか
(唱)(ごめんちゅがねで 引き分けじゃろか)

 客が来る前には、夫婦間で何か揉めていたようですが、そんな素振りも見せずに客と接し、一時休戦となりました。
 そして、用事が済んだ客が帰った途端に、先程の続きです。もしかしたら、まだ木戸口辺りにいた客は、突然の大声にびっくりしたかもしれません。なんとも激しい夫婦の様子が目に浮かぶ句です。


 五客一席 上町支部 小石 助六

偽メニュー食てん旨かち馴染客
(にせメニュー くてんうまかち なじんきゃっ)
(唱)グルメ気取いも大概な舌じゃっ
(唱)(グルメきどいも てげな舌じゃっ)


 五客二席 紫南支部 紫原ぢごろ

客が来っ夫婦喧嘩はひと休ん
(客がきっ 夫婦喧嘩は ひとやすん)
(唱)時間稼っで客か繋がれっ
(唱)(時間稼っで きゃかつながれっ)

 
 五客三席 城山古狸庵

買もせんて味見みゃ忘れん邪魔な客
(こもせんて あじみゃ忘れん じゃまな客)
(唱)美味ち言どん財布あ開かじ
(唱)(うんめちゆどん ふぞあひらかじ)


 五客四席 市立病院支部 甲突五差路

映画館封切ゆすっも客かまばら
(映画館 ふうぎゆすっも きゃかまばら)
(唱)デート中ん衆にゃ都合あ良かどん
(唱)(デートちゅんしにゃ つごあよかどん)


 五客五席 印南 本作

客の苦情商品を見直す良か機会
(客のくじょ しなを見直す よか機会)
(唱)天の声じゃち傾けっ聞っ
(唱)(天の声じゃち かたむけっきっ)


   秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

人気ママ客の懐を良う見ちょっ
(人気ママ 客のつくらを ゆうみちょっ)

土産屋にゃ客が増えてん買ちゃくれじ
(土産屋にゃ 客が増えてん 買ちゃくれじ)

過疎路線客が居らんち廃止しなっ
(過疎路線 客がおらんち はいしなっ)


上町支部 吉野なでしこ

流行っ店客が作った長か列
(はやっ店 客が作った ながかれっ)

急な客き化粧も大概大概茶も一杯
(急なきゃき けしょもてげてげ 茶もいっぺ)


 城山古狸庵

借い相談来た客き呆し焼酎を出っ
(かいそだん 来たきゃきぼやし しょちゅをでっ)


 川内つばめ

新年の年玉貰ろけ幼け客
(新年の 年玉もろけ ちんけ客)


 薩摩郷句鑑賞 72

粟ん餅ものわる煮ればひっとけっ
(あわんもっ ものわるにれば ひっとけっ)
               倉元 天鶴

 「鏡開き」と言えば知っているけれど、「十一日祝」とか、「祝物下げ」(ゆえもんさげ)などと言っても、もう知らない人が多くなってしまった。今日はその祝物下げの日である。
 また、最近めったにお目にかかれなくなったけれど、粟の餅も、独特の風味があっておいしい。ただ、米の餅のように粘りがないし、上手に煮ないと、とろけたようになって形がくずれてしまう。
 「ものわる」は、「うかつに」というような意味。


諄で奴が帰った後で焼酎を出っ
(くでわろが もどったあとで しょちゅを出っ)
                定栄酢味男

 この句の場合、「諄で奴」は、執拗で、うるさい人のこと。いわゆる「じじら」(酔って管を巻くこと)を言う人のことである。
 焼酎癖(しょちゅぐせ)の悪い人に焼酎を振る舞って、正月早々から管を巻かれたんでは座が白けてしまう。だから、そのご当人が帰ってから焼酎を出して、みんなで楽しく飲んだのであろう。
 人間もこのくらい嫌われるようになるとおしまいで、「酒は楽しく飲むべかりけり」である。


女客き女房はちょいちょい顔を出っ
(おなごきゃき かかはちょいちょい つらを出っ)
                大田 麦秋

 「削り掛け」や「繭の餅」(めのもっ)を供えて、小正月を祝う風習も消えようとしている。
 この句は別に正月に限ったことではないのだけれど、年始客の接待に大忙しで、どこへも出られなかった先祖元(本家)の嫁さんあたりが、小正月にちょっと知り合いの家を訪れたと思っていただこう。
 女客とさも楽しそうに談笑している主人。はしたないやきもちもやけないので、用をつくっては応接間に顔を出す奥さんの気持ちを穿った、ユーモラスな句である。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋

薩 摩 郷 句 募 集

◎3 号
 題 吟 「頑張っ(きばっ)」
 締 切 平成26年2月5日(水)
◎4 号
 題 吟 「指(いっ)」
 締 切 平成26年3月5日(水)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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