=== 新春随筆 ===

私  と  桜  島



鹿児島県言語聴覚士会 社会局広報担当
(公益財団法人東風会三船病院リハビリテーション科 言語聴覚士) 
                                 大濱 貴之
 
 私が鹿児島の地に初めて足を踏み入れたのは,今から10年前の春でした。異郷から来た私をソメイヨシノのフラワーシャワーが温かく迎えてくれたのを思い出します。それと同時に初めてみる桜島の神々しさに身震いをした事も懐かしいエピソードのひとつです。
 桜島…その勇ましさは,小心者の私を何度となく励ましてくれました。今回はそんな私と桜島のエピソードをいくつか紹介させていただこうと思います。

エピソード1
「桜島との出会い」

 私と桜島の初顔合わせは上空6000メートルで叶いました。言語聴覚士(以下ST)の道を志し,那覇空港から鹿児島空港へ向かう機内で,無礼にも桜島を見下ろす形で初対面を迎える事となったのです。火口からうっすらと舞う噴煙は,これから新たな道を踏み出そうと意気込んでいる私にとって,情熱を確かなものにする重要な材料となりました。

エピソード2
「どこから見ても存在感のある桜島」

 鹿児島に移住したからには鹿児島の事を深く知りたいと思い,学生時代は鹿児島市内をはじめ南薩〜北薩,大隅など県内あらゆる場所へ足を運び文化や歴史を肌で感じてきました。各地から見える桜島は,どこであろうが,ずっしりとした存在感を示していました。そのカリスマ性を目の当たりにして,いつか私も桜島のような存在になりたいと若い心に闘志を燃やしたのは青い思い出です。

エピソード3
「趣味は桜島鑑賞」

 学生生活というモラトリアムは就職活動という現実によって終焉を迎えます。私は桜島を目前に臨む病院を第1志望に選びました。その時作成した履歴書の趣味の欄,特にこれといった趣味を持っていなかった私は,校舎から桜島を眺めるのを日課としていた事もあり「桜島鑑賞」と記載しました。結果として無事に第1志望の病院から内定をいただけましたが,私の趣味「桜島鑑賞」が奏効したかは定かではありません。

エピソード4
「涙の向こう側に見えた赤い桜島」

 国家試験も無事に合格し晴れてSTとして働き始めた1年目。私の就職した病院には言語聴覚療法部門がまだ無く,新卒1年目にして部門開設の使命をいただきました。業界に対しての知識はもちろん少なく臨床経験も皆無の状態で,若さ故の根拠の無い自信だけを武器に飛び込んだ現場。しかし,患者様の人生の一端を担うという重責は若さだけで乗り越えられる程甘いものではありませんでした。経験の少なさを補うべく,がむしゃらに頭を使いました。患者様にとって本当に必要なリハビリテーションとは何なのか?考えて考えて考えて…どうしても答えが見つからず,他部門にも相談しましたがやはり答えは見つからず。そんな自問自答の日々が半年程続いた頃でした。いつものように帰路に着くべく愛車のエンジンをかけた瞬間,不意に大量の涙があふれてきました。そのまま海岸線を走っていた時に涙の向こう側に見えてきたものは夕日に照らされ赤く染まった桜島でした。その光景は驚く程に美しく優しい表情をみせていました。まるで,なにかに焦っていた私に「落ち着きなさい。そして謙虚に生きなさい」そう諭しているように見え,肩の荷がフワっと消えたのを実感しました。臨床経験が7年目になった今でもキャパ超えの時はあの赤い桜島を思い出し一息つく事にしています。

 長々と私と桜島のエピソードを連ねさせていただきました。我々の住む鹿児島市にはこんなにも広大な桜島がそびえています。時にはドカ灰に頭を悩ませる事もありますが,桜島と共生できることに誇りを持ち日々を過ごしていきたいと思います。
 皆様の目に映る桜島,今日はどんな表情をみせていますか?




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