=== 新春随筆 ===
教 え 子 達 と の 楽 し い 夕 べ
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写真1 John Snow Pub
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写真2 湖水地方風景
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写真3 ピーター・ラビットの世界
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写真4 コッツウォルズ地方風景
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写真5 エディンバラ城
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写真6 グラスゴー大学構内(卒業式)
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写真7 セント・アンドリュース・
リンクスオールドコース
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2013年11月9日,昭和54年卒業同期会同窓会に招かれて挨拶の機会がありましたので,その時の話の内容を以下にまとめてみました。
本日は同窓会にお招きいただき大変光栄に存じております。皆さんと久々にお会いできとても嬉しく思います。時の経つのは早いもので,昭和54年に皆さんを送り出してからいつの間にか三十数年という月日が経ったとはにわかには信じられないような思いです。この間,皆さん方は様々の分野でopinion leaderとして活躍されてきた訳で,私どもはその事を大変誇りに思っています。
私,鹿児島大学在任中には数多くの卒業生諸君とのお付き合いがありましたが,昭和54年卒の皆さん方とは格別のご縁があります。
本日は早速皆さん方からそれぞれの近況についてお聞きしたい所ですが,まず私の近況から手短に思いつくままに報告させていただきます。私は14年前に定年退官後は麻酔科同門会の賛助会員であります植村病院に籍をおいて現在に至っております。週のうち月,火,水,木の4日間午前中はペインクリニック,午後は外科や整形外科などの手術麻酔,そして手術の無い日は午後から病院がバックアップしている養護老人ホームで入居者の健康管理という内容です。当初定年後は自分に何がやれるか格別深く考えていませんでしたが,今から思えば大学でやってきた仕事の延長線上で地域医療に微力を注ぎ,それまでお世話になった社会に少しでも恩返しができることを大変幸せに思っております。診療対象者の多くは80歳以上の高齢者,中には100歳を超える患者さんの麻酔管理も数例経験しています。年間の麻酔症例数は120件程度で「老々介護」ならぬ「老々麻酔」というのが実態です。日進月歩の医学・医療に後れを取らないよう,全国レベルの麻酔やペインクリニックの学会にはできるだけ出席するよう心がけています。実は今日東京での日本蘇生学会から帰ってきたところです。来年2月の老年麻酔学会では14年間に経験した「老々麻酔」の実態について発表の予定です。
老人ホームの回診では聴診器を使って型通りの診察を済ませ,“大丈夫でしたよ”と告げると,“ああ良かった”とにっこり笑顔を見せるお年寄りを見ていますと,何だかこちらが癒される思いです。
胸部病変を探るにはCTがスタンダードになっているような昨今,聴診器で得られる情報はあまり意味のないように思われるかもしれません。しかし,聴診器といえば私にとっては1995〜1997年鹿大で病院長をしていた時の,あるエピソードを忘れることができません。国立14大学病院長会議を鹿児島大学で担当した時のことです。たまたま岐阜大学の病院長がこう発言されたのです。数日前,外来で私が聴診器を当てたお婆さんからこう言われました。“先生,今日は初めて診察をしてもらいました。これまで私を診てくれたお医者さん達は私の方を一度も見ないで器械(パソコン)ばかり触って,薬の処方や検査の指示だけ,それで終わりでした。今日は本当に良かった”と。大事なのはたとえば聴診器という媒体によるスキンシップで,Doctor Patient Relationshipが確立されることです。恥ずかしながら当時,30分待ちの3分間外来診療に近いことをやっていた私はこの話を肝に銘じました。麻酔の現場でも術中にモニターの調子が悪くなると,若い麻酔科医はともすれば患者さんよりもモニターの方へ飛んで行ってしまう。私どもが麻酔を習い始めた頃はこれというモニターもなく,異常を察知した時には反射的に患者さんの脈を触れたものでした。臨床の根幹は目の前の患者さんとの密接なスキンシップを保ち続けることだと思います。
そのほか,近況といえば,今年は薩英戦争から150年を迎えたのを記念して同期退官組の病理の佐藤さん,衛生の松下さん達と6月末から10日間英国旅行に出かけました。その間先程の福田先生のお話にあったように鹿大病院の創設者William Willisの足跡を訪ねたほか,ロンドン,エディンバラ,グラスゴーと回って英国における麻酔学の基礎確立に尽力したJohn SnowやJames Y. Sympson等ゆかりの場所に立ち寄るのもこの旅の主な目的でした。SnowとSympsonの業績については麻酔の教科書に必ず出てくるので,その名前はクロロホルム麻酔の歴史とともに記憶していました。しかし実際にエディンバラ市のプリンセス・ストリートに建立されているSympsonの銅像を見ながら,彼が医師として一般市民からVictoria女王にいたるまで広く慕われていた事を知って感慨一入でした。SnowはSympsonの発見したクロロホルムを使ってVictoria女王の無痛分娩に成功したのですが,彼は同時に疫学の開拓者でありコレラの大流行を終焉させたといわれています。今回John Snow pubのあった場所を訪れましたが,従来pub内にあったSnowゆかりの収納物は残念ながら別の場所に移されていました。薩摩藩の依頼で東北戦争に参加して傷病者に治療を行ったWilliam Willisが,クロロホルム麻酔下に四肢切断を行ったという記述がありますが,これも彼がグラスゴー大学やエディンバラ大学で学んだ当時の先端医療の成果と考えられます。今回の旅行は限られた日程ではありましたが,イングランドでは湖水地方と美しい田園地帯,コッツウオルズ,さらに文豪Shakespeare生誕の地などを,スコットランドではスターリング城やゴルフ発祥の地,セント・アンドリュース(これはjust looking)等を訪れることができたのは幸いでした。
最後に,高齢者の生き甲斐について最近面白い表現が使われていますので紹介します。高齢者が充実した毎日を過ごすには,「キョウヨウ」と「キョウイク」が必要であると,ただし「キョウヨウ」はcultureではなく「今日用がある」で,「キョウイク」はeducationではなく「今日行くところがある」という意味だそうです。そういえば,現在の私にとって,幸せで達成感のある毎日とは「今日行くところがあって,そこには私を必要として待ってくれている仲間がいる」ということです。
皆さんの益々のご健勝とご多幸を祈ります。

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