=== 新春随筆 ===

写  真  修  行



前鹿児島市医師会事務局長
                  馬原 文雄
 
 昨日の雨が嘘のように,空にはオリオンが煌めいていた。





 早朝の4時,車の寝床(寝袋)から這い出して「今日こそはある,きっとある」とわくわくしながら背伸びをする。そして駐車場から目的の会場へ移動する。歩いて40分,途中で不覚にも愛用のカメラを落としてしまい,レンズキャップを失くして,暗い中をうろうろと探し回ったが結局見つからず諦めて歩を進めた。
 会場は,佐賀市嘉瀬川の河川敷。
 私と妻は,友人夫妻と共に初めてのバルーンフェスタの写真を撮ろうと,二日前の11月2日の夕から現地に来ていたのだが,残念ながら昨日は一日雨で,競技も夜間係留も中止となり,昼間からフェスタ会場のイベント広場で地元の酒・料理の試飲や試食を重ね,ほろ酔い気分で過ごした。そして夜は,友人夫妻とともに急ごしらえのテント(ビニールシートなど)の下で雨をしのぎ,あり合わせのもので焼酎を酌み交わす。
 忙しい人生のひと時ではあるが,このような時間を与えてくれた天に感謝したい。
 そしてやっと巡ってきた快晴の空。「いい写真を撮るぞ」と張り切って夜明け前からカメラを構える。朝日が昇る嘉瀬川の堤防を歩くシルエット。何か人生を映しこんでいるようで趣がある。
 そうこうするうち,スピーカーからアナウンスが流れてきた。「風があるため競技が行えるかどうか検討している」とのことで,「エーッなんで」と思わず叫んでしまった。バルーンのフライトには,雨と風が最大の敵らしく,少しの雨でもバーナーの火を消してしまう恐れがあり,また地上では微風でも上空はかなりの風があり,思わぬ方に流されてコントロールできなくなり,いずれも大変危険であるとのことであった。
 祈る思いにもかかわらず,ついに今日も競技は“中止”となってしまった。しかし,そんなこととは知らず観客は続々とつめかけてきており,堤防から河川敷にむけて人,人,ひと・・・。
 そんななか実施本部も,観客の期待に少しでも応えようと,フライトはできないがバーナーで膨らませ,バルーンの体験をしてもらおうという配慮をしてくれた。
 目の前で膨らむバルーン。熱いバーナーの火を浴びながら次々とシャッターを切る。
 競技では,こんなに近くで写真を撮ることは多分できないと思い,ゆっくりと,自分の思いつくアングル・距離からシャッターを切ることができた。恥ずかしながら,ここに,その一部を載せていただいたので皆様のご批評をいただければ幸いです。
 青空に舞い,夜間係留に輝き,そして川面に映るバルーンへの思いは変わらないが,初めての体験として十分に楽しめた。今年は是非この思いを写し取りたいと思う。
 それにしても,いい写真を撮るためには(なんでもそうだと思うが),粘り強く待ち,何度でも足を運ぶことが大事で,自分なりに無理せず楽しみながら写真修行を重ねていきたいと思う次第である。



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