天
城山古狸庵
混浴場湯気で霞んだ婆が一人
(こんよっじょ 湯気でかすんだ ばがひとい)
(唱)期待外れちつうつ湯を出っ
(唱)(期待外れち つうつ湯を出っ)
温泉地でも露天風呂は多いですが、混浴となると、秘境の湯やひなびた湯治場などに限られ、数も少ないようです。
混浴と聞くと、うら若き女性との出会いを期待し、テンションが上がる男たちですが、この句は旅の混浴の湯で、立ち込める湯気の演出もむなしく、期待外れだったという思いが込められています。
地
清滝支部 鮫島爺児医
境騒動い内じゃ外じゃで湯気が立っ
(さけそどい うっじゃそとじゃで 湯気がたっ)
(唱)万年暦どんがここぞち出番
(唱)(まんにょんどんが ここぞち出番)
隣接地との境界立会いでは、測量図や境界漂示の杭などがあればその確認で済みますが、その証明がなければ、当事者の合意で境界を決定することになります。
しかし時には、この句のように互いの認識が食い違い、すんなり合意ができないこともあり、立会い現場でヒートアップしている様子が、よく詠まれています。
人
霧島 木林
寒稽古凄ぜ気合いで湯気が出っ
(寒稽古 わっぜ気合いで 湯気がでっ)
(唱)稽古が終われば餅とぜんざい
(唱)(けこが終われば もっとぜんざい)
小寒から大寒が終わる寒中に行われる寒稽古は、一年で最も寒い時季に行うことで、より精神を鍛える目的もあります。
空手・柔道・剣道などの武道や芸道に、日々練磨する人たちが集まり稽古が始まると、気合いの入ったかけ声とともに、徐々に全身から湯気が立ち上ってきます。そんな圧巻の光景を、よく捉えています。
秀 逸
城山古狸庵
甘酒ん湯気で眼鏡はすりガラス
(甘酒ん 湯気でめがねは すりガラス)
熱燗とおでんの湯気で疲れは飛っ
(熱燗と おでんの湯気で だれはつっ)
頭かあ湯気が出た爺い叱られ方
(びんたかあ 湯気がでた じいがられかた)
清滝支部 鮫島爺児医
湯気立てっ優しゅ待っ居い朝ごはん
(湯気たてっ やさしゅまっちょい 朝ごはん)
あいがとう三食きいっも湯気が付っ
(あいがとう さんしょきいっも 湯気がちっ)
万年青をば蹴飛べた孫い湯気立てっ
(おもとをば けとべた孫い 湯気たてっ)
霧島 木林
冬ん鍋湯気と匂とが食くそそっ
(冬ん鍋 湯気とかざとが しょくそそっ)
保湿じゃち婆も湯気をば顔れ当てっ
(ほしっじゃち ばばも湯気をば つれあてっ)
作句教室
今月は投句者が少なかったので、五客を省略しました。
薩摩郷句は、ある事象を捉えて、その心情を方言で表現する文芸です。他人の作品を鑑賞するだけでなく、自ら作句に挑戦してみてください。作品を生み出す喜び、そして発表できる喜びをぜひ味わってほしいと思います。
薩摩郷句を詠むこと、すなわち句を作ることの第一歩目は、皆初心者です。初心者大歓迎ですし、そんな方々の投句によって、「鹿市医郷壇」を盛り上げてほしいと願っています。
さて、薩摩郷句誌「渋柿」を毎月発行している渋柿会では、昨年の秋に合同句集第十一集目となる「たっばけ」を発行しました。この句集には、渋柿会の会員九十三人の一三九五句が収められていて、その中から、焼酎が大好きな会員の一人が、焼酎に関する句を拾い上げてくれました。酒を飲む情景や酒にかかわるドラマを郷句人が詠んでいますので、その作品を味わってみてください。
酩酊たなあ当初ん遠慮か嘘んごっ
(きけたなあ はなんしんしゃか 嘘んごっ)
有川 南北
少となあ飲酒んでよかがち良か主治医
(ちっとなあ のんでよかがち よかせんせ)
有馬 湧声
今日は二合ち女房ん天気が決むい焼酎
(きゅはにごち かかん天気が きむいしょちゅ)
石塚 律子
治す気が有っとか薬よ焼酎で飲っ
(なおす気が あっとかくすよ しょつでぬっ)
石野 蟹篭
雨続き焼酎が欲しどん婆が睨っ
(あめつづき しょつがほしどん ばがねぎっ)
伊地知 孝
焼しょ酎ちゅん稽け古こ師し匠しょい付ちかんじ一ひと人い前まえ
(焼しょ酎ちゅん稽け古こ師し匠しょい付ちかんじ一ひと人い前まえ)
市来 流星
異常あ無ちカメラ判定い美味か焼酎
(いじょあねち カメラはんてい うまかしょちゅ)
今井 夢紫
言難きこつ焼酎が言わせっ騒動いなっ
(ゆにきこつ しょつがゆわせっ そどいなっ)
入来 創雲
割勘で義理堅て下戸あ顔を出っ
(わいかんで ぎいがて下戸あ つらをでっ)
入來 義コ
僧侶さあも人ん子焼酎を飲っ管巻
(ぼんさあも 人ん子しょちゅを ぬっじじら)
上山 天洲
帰い途ちゃ知たん長尻ん飲ん平客
(もどいみちゃ したんながじん のんべきゃっ)
内野 茶柱
赤提灯直き兄弟でない酔れ同士
(あかちょちん いっききょでない よくれどし)
永徳 天真
休肝日夜中けそろいと盗焼酎
(休肝日 よなけそろいと ぬすとそつ)
大西 学老
割い勘で飲んが言た奴がひん逃げっ
(わいかんで のんがちゅたとが ひんにげっ)
尾崎 若狭
爺が薬や毎晩グッ飲っ焼酎一合
(じがくすや めばんグッやっ しょついっご)
上池 酔人
薩摩郷句鑑賞 65
針供養豆腐ん供養はけ忘れっ
(はいくよう おかべんくよは け忘れっ)
新原 幹竹
地方によっては、十二月八日のところもあるらしいが、今日は針供養の日。一年間に折れた針や、古い針を集めて供養する日である。針納めとも言い、たいてい豆腐に刺して針塚に納めるようである。
ところで、寒い今ごろだと、湯豆腐でもつつきながら晩酌をする男の目には、針供養は結構だけれども、針をいっぱい刺される豆腐の方は、供養しなくてもよいのかな、と思ったのであろう。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋
薩 摩 郷 句 募 集
◎4 号
題 吟 「 寄付(きふ)」
締 切 平成25年3月5日(火)
◎5 号
題 吟 「 用事(ゆし)」
締 切 平成25年4月5日(金)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
鹿児島市加治屋町三番十号
鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp |
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