=== 新春随筆 ===
久留米広域小児救急センター,聖マリア病院小児科と
久留米大学病院訪問記
|
|
鹿児島市小児科医会
川畑 清春・南 武嗣・村上 直樹・太原 博史
|
|
平成24年10月25日,鹿児島市医師会のご協力で聖マリア病院内に設置された久留米広域小児救急センター,聖マリア病院小児科と久留米大学病院小児科,久留米大学病院高度救命救急センター(ER)を視察する機会を得ました。その後鹿児島市夜間急病センターに出向している久留米大小児科医との懇談を行いました。今回は特に前半の施設見学で見聞したところをご報告いたします。
 |
久留米広域市町村圏事務組合
|
久留米広域小児救急センター(鹿児島市夜間急病センターに相当)は聖マリア病院内に6年前に設置されました。それまで聖マリア病院小児科は24時間診療で,小児科医が疲弊し大変であったためこのようなセンターが設置されたとのことです。福岡県内は久留米市,小郡市,大刀洗町,うきは市,大川市,大木町,県境を越えて,佐賀県は鳥栖市,吉野ヶ里町,三養基郡みやき町,上峰町,基山町などで久留米広域市町村圏事務組合を形成し,これらの広い地域の小児救急患者に対応しています(図)。これは派遣する小児科医を減らし久留米大学小児科の負担を減らすとともに,各市町村が同じような施設を保有する無駄を無くすという効果があるそうです。県,国も支援しています。
久留米広域小児救急センター(以下:広域小児救急センターと略)の診療時間は毎日(365日)午後7時から午後11時まで,出向医は久留米大学小児科の医師が3日間(月,金,日),開業小児科医が2日間(火,木),聖マリア病院の小児科医が2日間(水,土)と交代で診療しています。ただ広域小児救急センターに救急車で来院した患者さんと紹介状の患者さんは聖マリア病院の当直医師が診ています。広域小児救急センターの一番のポイントは,トリアージ,採血,点滴まですべて熟練した常勤の看護師がやってくれることです。出務した小児科医は診察した後に指示を出すだけでよく,多くの患者さんに対応でき,またストレスが軽減されています(これは別の話ですが,久留米大学病院の小児科病棟も,採血,点滴はすべて看護師が行い,大学小児科医の負担を軽減し,症例の検討や勉強する時間を確保するようにしているとのことでした)。
広域小児救急センターに外部から出向した医師の診察時には医療秘書がつき,電子カルテ,検査のオーダー,処方箋を入力してくれるとのことです。これらの医師,看護師,医療秘書の手当は聖マリア病院の給料とは別に,参加している広域の市町村(久留米広域市町村圏事務組合)から支給され,医師の給料は平日4時間40,000円,土曜・日曜は4時間50,000円とのことでした。その費用の分担は来院している患者数で割った額を各市町村が負担しているのだそうです。
患者数は平日午後7時から午後11時まで10〜15人程度,土曜・日曜は30人程度。患者さんがどうしても多く,30人を超える時は聖マリア病院の当直医が広域小児救急センターを手伝うそうです。聖マリア病院の当直は夕方から午後11時までは3人(夕方出勤の小児科医1人,当直小児科医1人,初期研修医1人)で,午後11時以降は2人(当直小児科医1人,初期研修医1人)で,小児科医の負担を減らし一方で初期研修に利用しています。処方は1日分,翌日はかならずかかりつけ医に行くよう指示し,あくまでも救急センターであり夜間診療所ではないことを理解してもらっているそうです。午後11時になると「久留米広域小児救急センター」の看板はかたづけられ,翌朝までは聖マリア病院としてさきほどの当直医師2人(当直小児科医1人,初期研修医1人)で診療しています。深夜の患者数は多くても10人前後とのことでした。
聖マリア病院小児科部長の大部敬三先生は「以前は24時間聖マリアの医師だけで時間外を診て大変でしたが,広域小児救急センターができてから聖マリア病院小児科は日本で一番楽な救急病院になりました」と話されたのが印象的でした。
聖マリア病院視察の前に久留米大学病院の小児科病棟,外来そして久留米大学病院高度救命救急センターとドクターヘリを見学させていただきました。病院全体は3年前に落成した病院で明るく活気が感じられ,病院特有の消毒液の臭いも無く,特に小児科病棟は壁面にアートがほどこされていて,まるでホテルのようでした。
そして急遽約束も無しに救命救急室(ER)の見学もお願いしたら救急隊員のようなユニフォーム姿の医師が走ってこられ,1階の診察室から案内していただきました。ERは44床あり手術台が2床でその場で対応できるとのことでした。午後3時というのに隣の部屋のCT室では患者さんが検査を受けていました。広い全面の鉛ガラス越しに患者さんの状態がよく見えました。急変に備えるためとのことでした。患者さんやプライマリ・ケア医が一次救急だ三次救急だと簡単に判別できるわけではないので,ERの隣にCT室がないと頭部や腹部の外傷はもちろん,内科的な患者さんも中等症以上の救急患者はまず診療できません。CT室やMRI室に運んでいる途中で悪化されては困りますからといわれていました。鹿児島市の夜間急病センター制度の限界を感じました。
最後に15階の屋上のヘリポートへ行き,待機中の医師や広域の地図上のモニターと電話応対をする司令室,格納庫とドクターヘリまで案内していただきました。年間800件弱の出動とのことでした。私たちがお礼を述べたら,その医師はまた走って1階のER病棟に帰って行かれたのが印象的でした。

|
このサイトの文章、画像などを許可なく保存、転載する事を禁止します。
(C)Kagoshima City Medical Association 2013 |