随筆・その他

リレー随筆

バーで飲む


東区・紫南支部
(島田ひふ科)    島田 辰彦

 カクテル(cocktail)とは,雄鶏(cock)のシッポ(tail)で混ぜて出したお酒が語源だとか,ブランデーと薬草リキュールを混ぜたものを卵立て(フランス語でcoquetier')に入れて出したのが最初だとか諸説あるものの,複数のお酒を適量に調合し,香料,砂糖などを添加してより美味しく飲めるようにしたものであるということには,誰も異論はないことでしょう。そんなカクテルを楽しむためにはバーに通って飲むのが一番良い方法ですが, なんとなく敷居が高そうだとか, 何を頼めば良いか分らないのでと躊躇しておられる方も多いのではないでしょうか。そこでバー通い歴30年にして本報編集委員になってさらに通う回数が増え, 委員就任最初の年には過去最高の54回, 今年も5月末で17回も池田バーやBAR小原に通っている私のバー通いの一端を好きなカクテルと一緒に紹介してみなさんの参考にしていただければと思い書いてみます。

年初めの一杯
 干支にちなんだ物をオーダーします。定番のソルティードッグ(犬年), ホーセズネック(午年), ちょっとマイナーですがバナナカウ(丑年)などは簡単で良いのですが, 中には候補が思い浮かばない年もあります。そんな時は年末までにインターネットで必死に探し出してレシピコピーを渡して, 年明けまで楽しみに待ちます。ちなみに辰年の今年はドラゴンレディー(ホワイトラム, オレンジジュース, グレナデンシロップ, キュラソー)という奇麗なピンク色のカクテルを飲みました。

春のカクテル「春の嵐」
 チェリーブロッサムという名前からは春を想像できますが, 実物はチェリーブランデーの色のために桜の淡いピンクというより深い赤色で今ひとつピンときません。そこで何か春らしいカクテルないだろうかとお願いして作ってもらったオリジナルが「春の嵐」。ズブロッカ(ズブロッカ草を浸けて香り付けしたウィオッカ)をベースに粗めにマッシュした生苺とグレープフルーツやクランベリージュースを入れて作ったもので, 一口飲むとズブロッカの桜餅のような香りが口中に広がり, グラスの中でイチゴの果肉が動く様子は春の嵐で舞い散る花びらのようにも見える春を本当に感じる一杯です。名前は初めて出来上がった時に一緒に飲んでいた親友の西君が付けました。

夏のカクテル「ミント好き」
 初めて口にしたカクテルは3歳の時に凝り性の父がバーで憶えて作ってくれたミントフラッペ。鮮やかなエメラルドグリーンで口に入れるとミントの清涼感がなんとも言えず心地よく, 幼心にも大人気分を味わったのを憶えています。原体験をくすぐるためか, ミントを使ったカクテルが大好きで5月にはミントジュレップ, 盛夏になるとモヒートを飲みます。ミントジュレップは5月第1土曜に開催されるアメリカ最大の競馬イベントのケンタッキーダービーでの公式ドリンクで, グラス一杯のクラッシュアイスにバーボン, すり潰したフレッシュミントの葉, 砂糖を入れてソーダ割りした清涼感のある一杯。これを飲むと自分の誕生月になったと実感します。ベースをバーボンからラムに変えたモヒートを飲む際には「007 ダイ・アナザー・デイ」でのジェームズ・ボンドのようにキューバ産シガーと一緒に楽しんでいます, チョイ悪親爺っぽく。

流行のハイボール
 このカクテルの由来としていくつかある説の中では,イギリスのゴルフ場のクラブハウスでウイスキーを飲んでいた人が, 急に自分の打つ順が来たことを知らされ, 慌ててチェーサー(ソーダ)に残りのウイスキーを注いで飲んだら非常に美味いと感じた場面に, たまたま打ち損じのハイボール(高い球)が飛んできたからというのが一番好きです。ウイスキーのソーダ割りばかりがハイボールだと思っている人も多いでしょうが, もともとはスピリッツ(アルコール度数の強い酒)をアルコールの入っていないもので割ったものという意味で, 酎ハイ(焼酎ハイボールの略)なども含まれます。以前読んだサントリーのチーフブレンダーだった輿水精一氏のインタビューの記事の中で,ハイボールにすることを念頭にいれて角瓶をブレンドしていると載っていた位ですからサントリーの角ハイが一番のお勧めでしょうか。意外と癖の強いモルトウイスキーなども相性が良く, シングルモルトの雄ラフロイグ(世界で一番ヨード臭の強く, イソジンを飲んでいるみたいだという言う人もいる程ですが英国のチャールズ皇太子御用達品)なども美味しいです。池田バーに行くと, スタッフ紅一点の友ちゃんが名物ロシア漬けと一緒に「角ハイやっています」のロゴ入爪楊枝立てを出してくれることがあるので, その時には迷わず角ハイを注文してください。冷凍庫でキンキンに冷えた角瓶で作る鹿児島で一番美味しいハイボールを飲むことができますよ。

他流試合のカクテル「マティーニ」
 学会などで各地に出かけた際にはその土地の老舗そうなバーを探して訪ねています。チャレンジするのは“King of Cocktail”マティーニ。ジンとベルモットからなる単純なカクテルですが,その作り方には一家言持っている人も多く, 特にジンとベルモットの配合比率に関して言えば,ジンの比率が高くなるほど,ドライ,エクストラドライとなり,イギリス元首相のウィンストン・チャーチルは,ドライベルモットのボトルを横目で見ながら,ジンのストレートを飲んでいたという伝説もあるくらいです。以前, スタアバー銀座で岸 久氏の作るのを飲みましたが,彼は温度の違うジン2種類を使い, ベルモットはグラスにわずかに3スプレーするだけというエクストラドライな物で,美味しいけど少し違和感を憶えました。帰ってきてから池田バーでいつものマティーニを飲んで再認識したのは私のこだわりのマティーニは池田バーの荒川さんのレシピでということでした。

秋のカクテル「古人の詩」
 BAR小原をやっている小原君が, まだ池田バーにいた頃に初めて全国バーテンダー技能競技大会に出品した彼のオリジナルカクテル「古人(いにしえびと)の誌(うた)」は,ジンに巨峰と紫蘇リキュールとブルーキュラソーを使った深い独特な紫色をした甘さ控えめの大人向け和風ショートカクテル。秋の味覚であるブドウを食べる頃になると無性に飲みたくなって作ってもらいます。その後, 彼は数々のオリジナル創作カクテルを作り, 技量を上げていき,「清流」という作品で同じ全国大会創作部門で3位を受賞しました。今でもお店では新たなオリジナル作品を作って提供しています。

冬のカクテルというかマイ定番「ラスティネール」
 カクテル以外で一番好きなのはウイスキー, 毎晩の晩酌にもウイスキーフロート(冷たい氷水の上からそっとウイスキーを注ぐと,比重の関係でウイスキーが水の上に浮くのでストレート, オンザロック, 水割り, チェーサーの順で味わえます)を飲む程です。そんな私が季節に関係なく飲むのがラスティネール。スコッチウイスキーにドランブイ(スコッチウイスキーリキュール)で作るまさにザ・ウイスキーカクテルとでも呼びたくなるようなカクテルで,独特の強い甘みとウイスキーの香りがたまりません。

年末最後のカクテル
 いろいろなカクテルを楽しんだ1年も12月30日の遠征でお仕舞い。最後に相応しい一杯はXYZ, アルファベット最後の3文字が意味するものは最後,これでお仕舞いという意味があります。1年を振り返り, 今年で開業50周年を迎える池田バーの荒川マスターをはじめスタッフの織地君と友ちゃん, そして, そこから独立して立派に自分のお店を切り盛りしているBAR小原の小原君たちに感謝の念を捧げながら飲み干します。

そして一番の魅力
 バーに行くと随所に垣間見られるプロの仕事。酒棚のボトルが奇麗なのも実は毎日始業前にすべてを1本1本丁寧に拭いているためですし, ロック用の大きなまん丸な氷も自分たちで削り出しています。オーダーが入ると瞬時に段取りを考えて必要な酒類を用意する姿,シェーカーを振る際に奏でるカチャカチャという音, 飲み終わったグラスも手際良く洗い, 真っ白な布巾でピカピカに拭き上げていく姿は見ているだけでも心地よいです。

 どうです, みなさん, バー通いをはじめませんか。初めて訪れてどうしようか迷った時は「良く分らないのでお任せで」とお願いすると良いでしょう。好みに対する質問の答えを基にして作ってもらったカクテルを一口飲むとニンマリ顔になることは請け合いです, それにアルコールが駄目でもアルコールフリーのカクテルもありますよ。

 それでは私は書き上げたのでこれから飲みに出かけます, 乾杯!

次号は,すみクリニックの角 純啓先生のご執筆です。(編集委員会)




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