=== 随筆・その他 ===

変な患者さん



中央区・中央支部
(鮫島病院)      鮫島  潤

 ある時,入院患者さんが「同室のIさんは可笑しいです,動作が変ですよ」と言ってきた。見るとなる程,座り方,煙草の吸い方などまるで女みたいだ。話すうちに彼(彼女)が「先生はK(連れ込みホテル)で見掛けましたよ」と言う。これには私も驚いた,全く覚えが無いのだ。しかし話すうちに同名の居酒屋(K)のことだとわかった。別に美人とも思えない彼(彼女)もよく来ていたのだ。天文館周辺の暗がりで一稼ぎしてはKに行ってよく飲んでいたようだ。よくもこんな男に騙される奴もいるものだと感心して話を聞いていた。事が終わってから最後にやっとこちらが男とわかって喧嘩別れになることもあったという。
 数多い患者の中には,亭主が前ばかりで満足しないで後ろから攻めて来るから困ると泣きつく肛裂の奥さんもいれば,先輩から尻を突かれたという美少年もいる。これらを「釜を掘られる」と言っていた。男色(陰間,衆道,おかま)のお陰で肛裂,痔核はよく見られたし,痔核嵌頓という気の毒な患者さんもいる。しかし表面ばかりではない,淋病で粘液を垂らしたり,梅毒で扁平コンジロームを作った者もいる。しかし,これらは昔と違って適切な治療をすれば怖くない。ところが,エイズという強敵が現れた。これは不気味で奥が深いということを泌尿器科の同僚に聞いた。男色が公認されているアメリカや売春のメッカ東南アジア等でエイズが凄い勢いで増加しているといわれるが,日本でも油断はならない。また別にクラミジアという広く潜行する病も若い連中にはびこっているそうだ。
 初めに述べた変な患者さんは現在では既に60歳に近いだろう,現在でもその道の仕事をやっているそうだ。時々無理な仕事をしては痛がって治療に来る。商売として何時までやれるものだろうか。

男色余話
 平安時代,摂関政治の藤原頼道は男色に耽って天皇家および兄弟同士を争いに巻き込んで保元の乱を起こしたことは有名である。彼らに性の欲望と出世への頼みがあった。公家のあとに発生した武家社会にも男色の風習は続き,武家の大将,一城の領主たちは各々稚児を抱えていた,織田信長の森 蘭丸は有名だ。
 人生長生きすれば面白いこともあるものだった。私達が旧制中学校の頃,逞しい先輩達(ゴッテサア)がAKB48クラスの“よか稚児”を追い掛け回すことがあった。また,“稚児稼ぎ”をして,事が済んでから竿を抜いたところが高菜ん漬物(つけもん)が付いて来たと報告する豪の者がいた。昔から土佐には「とんと(稚児)」,薩摩には「義兄弟」という話があった。
 軍隊とか僧侶,船乗り,刑務所など男ばかりの荒々しい全く色気のない社会にはお尻を差し出す例もあったことを聞いている。 
 性の欲望をそんなことで紛らわしている階層もあっただろう。ところが事は同じでも男色という行為に大きな違いがある。武士の行為には義理人情があり真剣そのものだった。家族同士の男の付き合いもあった。「親子どんぶり」なる言葉もある。公家には実用を兼ねた昇進を願う欲望であり,一方庶民のそれは単なる刹那の遊びで済んでいたものと思う。
 現在は性の欲望の捌け口は嫌というほど繁栄している。新宿歌舞伎町には「ひげガール」とか,さらには男性の女性化,女性の男性化,性転換の時代,ニューハーフ,そして同性婚,他方,婚活という変な言葉が生まれることになった。性の乱れを痛感する,馬鹿馬鹿しい話ですが,週刊誌でも見た心算で読み流していただきたい。




このサイトの文章、画像などを許可なく保存、転載する事を禁止します。
(C)Kagoshima City Medical Association 2012