鹿市医郷壇

兼題「物好っ(ものずっ)」


(393) 永徳 天真 選




霧島 木林

物好っち趣味い言われっ頭てきっ
(物好っち 趣味いゆわれっ びんてきっ)

(唱)他人てな迷惑かけちゃおらんち
(唱)(ひてなめいわか かけちゃおらんち)

 物好きとは、普通の人が余りやらない(やりたがらない)事を好んですること、またその人であり、その捉え方はどうしても他人に向けられますが、この句は、言われる立場から詠まれています。
 少し風変りだとしても、個人の趣味に対して、他人に兎や角言われたくないという気持ちが、強く表現されています。




武岡 志郎

骨董市物好っが買た小便壺
(こっといっ 物好っがこた しべんつぼ)

(唱)どけ飾っとかそん心配を焼っ
(唱)(どけかざっとか そんせわをえっ)

 マニアにとって骨董市は、御宝の山なのでしょう。その中で、一人の客が古い壺に目を止め、店主から由緒ある小便壺と聞いて買いました。
 店主も、まさか売れるとは思っていなかったので、その物好きな客に感心したのかもしれません。課題に対する着眼がよく、ユニークな作品です。




城山古狸庵

物好っな可笑しか犬に服こ着せっ
(物好っな おかしかいんに ふこきせっ)

(唱)着ろごっも無か犬も居っかも
(唱)(きろごっもなか いんもおっかも)

 犬を飼っている、飼っていないに拘らず、犬に服を着せることに抵抗を感じる人は多いでしょう。
 少数派の服を着ている犬は、ほとんどが小型犬で、しゃきっとした犬と比べてぬいぐるみのような犬は、服が似合い一層愛くるしいので、愛犬家には自慢です。「可笑(おか)しか犬(いん)に」が、的を射ています。


 五客一席 武岡 志郎

物好っがサイレンの度び見け走っ
(物好っが サイレンのたび みけはしっ)

(唱)現場べないっも知った顔触れ
(唱)(げんべないっも 知ったかおぶれ)


 五客二席 清滝支部 鮫島爺児医

物好っな爺様は御神籤じょ溜めっ居っ
(物好っな じさまはみくじょ ためっおっ)

(唱)どこで買たかもノートい整理
(唱)(どこでこたかも ノートい整理)


 五客三席 紫南支部 紫原ぢごろ

新型が出れば物好か落て着かじ
(新型が 出ればものずか おてちかじ)

(唱)買わんな損ち思もそげな性分
(唱)(こわんな損ち おもそげなたっ)


 五客四席 城山古狸庵

物好っで出せた飲屋が繁盛しっ
(物好っで 出せたのんやが はんじょしっ)

(唱)好っな事つしっ一石二鳥
(唱)(すっなこつしっ 一石二鳥)


 五客五席 霧島 木林

物好っが功を奏せっノーベル賞
(物好っが こうをそうせっ ノーベルしょ)

(唱)耐えた努力が日の目をば見っ
(唱)(たえたどりょっが 日の目をばみっ)



   秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

物好っな買う気は無かて店歩っ
(物好っな こうきはなかて みせあるっ)

物好っの趣味が若さを養の居っ
(物好っの 趣味が若さを やいのちょっ)

物好っな孫ん本せえ線ぬ引っ
(物好っな 孫ん本せえ 線ぬ引っ)

物好っな雨が降ってんすいゴルフ
(物好っな 雨が降ふってん すいゴルフ)


城山古狸庵

何や彼や物好っの血が広ぐい手
(なんやかや 物好っの血が ひろぐい手)

物好っに任しゃ良かがち宛ご役
(物好っに まかしゃよかがち あてごやっ)


紫南支部 紫原ぢごろ

物好っが徹夜で並ん発売日
(物好っが 徹夜でなるん 発売日)

物好っが次々ぎスマホ買い替えっ
(物好っが つっつぎスマホ 買い替えっ)


武岡 志郎

物好っが平和ん御世い城い住ん
(物好っが 平和んみよい 城いすん)

物好っち言われた相手と子分限者
(物好っち 言われたえてと こぶけんしゃ)



 薩摩郷句鑑賞 58

都合ん悪り電話は外でかけ直えっ
(つごんわり 電話は外で かけなえっ)

              田中 弥生

 家族のいるところでは話せない内容の電話ということになると、会社や役所の機密に属することか、相手のプライバシーに関することというような場合などがあろうが、どうもこの場合は、そんなものではなさそうである。
 悪友としめし合わせて飲みに行く話か、馴染みのホステスからの電話なのかも知れない。適当にごまかして一応切っておいて、公衆電話あたりからかけ直したのであろう。敏感な奥さんからは見抜かれているのに、間抜けな男ではある。


早え田植えマッチョンチョゲサ待っつけじ
(はえ田植え マッチョンチョゲサ 待っつけじ)

              上鍋平句郎

 「マッチョンチョゲサ」というのは、ホトトギスのこと。土地によって「てっぺんかけたか」とか、「飛魚(とっびお)がとれたか」とか、「マッチョンチョゲサ」などと鳴くと言われる。
 夏鳥で、自分では抱卵しない。昼夜鳴く鳥だが、田植えの頃最もよくその鳴き声が聞かれる。ところが、この頃早期栽培をするようになったので、ホトトギスの鳴かないうちに、田を植えたというわけである。


苗配い時にゃ尻もてちゃぷっやっ
(苗配い 時にゃしいもて ちゃぷっやっ)

              奥山 青児

 最近早期栽培も増えてきたので、すでに青々とした田も多いわけだけれども、普通の田んぼでは、これからが田植えの最盛期であろう。
 それもほとんどが機械植えだから、田植え風景も変わってしまったが、昔は腰の痛さ、連日の疲れをまぎらすために、歌を歌ったり、世間話をしながら植えたもの。苗を運ぶ役の人は、畦から適当に投げて配ったものだが、時には早乙女達のお尻の下に投げて、わざと泥を飛ばせるような冗談もしたものである。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋

薩 摩 郷 句 募 集

◎8 号
 題 吟 「 全部(ずるっ)」
 締 切 平成24年7月5日(木)
◎9 号
 題 吟 「 考げ(かんげ)」
 締 切 平成24年8月6日(月)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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