鹿市医郷壇

兼題「計算(さんにょ)」


(389) 永徳 天真 選




紫南支部 紫原ぢごろ

握い鮨計算しいしい摘んかた
(にぎいずし 計算しいしい つまんかた)

(唱)長ご口ち入れっ味ず噛ん締めっ
(唱)(なごくちいれっ あずかんしめっ)

 回転寿司だと満腹でも安上がりで済みますが,普通の鮨屋ではそういう訳にもいきません。
 特に好みのネタを単品で注文する場合は,食べる度に価格の足し算をしなければなりません。そんな払うお金のことを考えながらの食事の情景をうまく詠んでいて,中七がよく効いています。




城山古狸庵

天下い先の手取いも計算済ん
(あまくだい さっのてどいも 計算ずん)

(唱)庶民にゃ夢んこいも現実
(唱)(庶民にゃ夢ん こいもげんじっ)

 天下りで,第二の職場,そして高収入が保証された人たちがいます。
 政府の仕分け作業で,この天下りの実態を問題化し,その受け皿である事業団体の縮小や廃止が実施されていますが,それは氷山の一角で,権力と金の構図は,社会に根強く息衝いています。傍観するしかない人々を,精一杯皮肉った句です。




武岡 志郎

結婚当初計算が合わん子が出来っ
(といえはな 計算がおわん子がでけっ)

(唱)疑心が募っ悪か顔色
(唱)(疑心がつのっ わいか顔色)

 妊娠を知り,すぐ溯って計算をした夫には,その事実が記憶にないのでしょう。
 これは非常に意味深な句であり,婚前の男女の付き合い方に関係があるでしょう。願わくば記憶違いであってほしいのですが,白黒の黒だとしたらそれは悲劇です。現実に有り得るドラマを鋭く捉えた,穿った句です。


   秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

地震津波計算を超えた凄ぜ被害
(なえつなん 計算をこえた わぜ被害)

計算どま器械がすっち出来ん九九
(計算どま 器械がすっち でけんくく)

宇宙ん旅行計算通いに行て帰っ
(うちゅんたっ 計算どおいに いてもどっ)

高け飲代無かサービスも計算にぇ付っ
(たけのんで なかサービスも さんにぇちっ)


紫南支部 紫原ぢごろ

リーマンで計算が狂た全世界
(リーマンで 計算がくるた 全世界)

赤ひげは計算にゃ合わん病人も診っ
(赤ひげは 計算にゃおわん ひともみっ)

ぼけちょいが計算ん分な間違げなし
(ぼけちょいが 計算ん分な まっげなし)


城山古狸庵

如何な風い計算をすればこん予算
(いけなふい 計算をすれば こん予算)

年収の計算で決まっ見合話
(年収の 計算で決まっ みえばなし)

呆え計算赤字が並るだ年度末
(ぼえ計算 赤字がなるだ ねんどまっ)


武岡 志郎

耄碌してん金の計算は止むたせじ
(どもしてん ぜんの計算は やむたせじ)

勝っ計算ごろいと大損三代目
(かっ計算 ごろいとうぞん 三代目)


《雑 吟》

武岡 志郎

アメリカん国益じゃねかTPP
(アメリカん こくえっじゃねか ティーピーピ)


 作句教室

 今月は投句者が少なかった為に,五客を割愛しました。
 兼題によっては,薩摩郷句が作り易いもの,作り難いものがあるようです。それは,その題材が生活の中で身近であるか,馴染みがあるかで違うようです。
 今月の兼題「計算(さんにょ)」も,難しい題だったような気がします。難しいということは,着想がなかなか浮かんでこなかったり,閃かないということです。
 この閃きこそが作句に影響を及ぼしますので,閃かなければ閃くまでの思考の繰り返しです。難しい題こそ,思考する甲斐があるというものであり,柔軟な頭になるように,作句の積み重ねが大事ということだろうと思います。
 次の作品は,平成11年の南日本薩摩狂句大会の兼題「計算(さんにょ)」の入選句です。見方,考え方を変えれば,いろんな着眼はあるようですので,参考にして下さい。

人は良が計算が早えで嫌われっ
(人はえが 計算がはえで きらわれっ)

             有馬 凡骨

損得の計算が出来じ平止まい
(しんそんの 計算がでけじ ひらどまい)

             塚田 黒柱

計算違げ遺産どこいか大て負債
(計算ちげ 遺産どこいか ふておっか)

             山下 明良

また女児そいもダブルち計算違げ
(またおなご そいもダブルち 計算ちげ)

             小森 寿星

計算違げボインな居らん露天風呂
(計算ちげ ボインなおらん 露天風呂)

             堂園 三洋

飯す食だす計算で行たて素茶一杯
(めすくだす 計算でいたて すじゃいっぺ)

             鈴木 芳子

暇人が他人んボーナス計算しっ
(ひまじんが ひとんボーナス 計算しっ)

             那加野黎子


 薩摩郷句鑑賞 55

寝忘れっ髪ま手で撫でっ駅き走っ
(ねわすれっ かま手で撫でっ えき走っ)

             長瀬ヨシ子

 「寝忘れた」というと,寝るのを忘れてしまったように聞こえるが,鹿児島では「寝過ごした」ことである。誠に面白い言葉だと思う。
 髪をけずる暇もなく,手で撫でつけながら駅へ走っていく朝寝坊の姿が目に浮かんでくるが,洗面や歯磨きはしたのかなとおかしくなる。


身長が短けで着物は端折っ着っ
(こだくいが みしけでいしょは つぶっきっ)

             野間口鈴女

 「こだくっ」というのは,短く切ることである。牛馬に与える草を短く刻むことを,「草をこだくっ」というし,柴を適当な長さに切り揃えることを,「べらこだくい」という。
 転じて,身長の低いことを,「こだくいが短(みし)け」というが,誠に面白い表現である。「つぶっ」は,この場合は揚げをして着るくらいに解した方がよいだろう。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋

薩 摩 郷 句 募 集

◎4 号
 題 吟 「 名刺(めいし)」
 締 切 平成24年3月5日(月)
◎5 号
 題 吟 「 匂(かざ)」
 締 切 平成24年4月5日(木)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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