天
城山古狸庵
庭先で見掛けた鶏が御馳走せ出っ
(にわさっで 見掛けたといが ごっせでっ)
(唱)堅て肉じゃっで あん老鶏
(唱)(かてにっじゃっで あんおんじょどい)
昔の田舎では、ほとんどの家で鶏を飼っていて、昼間は庭で放し飼いにしている所も多いでした。
正月の客に出される鶏の刺身や煮付けの料理も、その中の一羽が犠牲者で、目の前の御馳走を見て、そう思われたのでしょう。懐かしく、また情景描写にも味があり、リズム感のある句です。
地
清滝支部 鮫島爺児医
御馳走様そん一声が嬉し女房
(ごっそさん そん一声が 嬉しかか)
(唱)出い料理やいっも感謝して食っ
(唱)(でいじゅやいっも 感謝してくっ)
料理の種類はいろいろとありますが、献立表があるわけでもなく、何よりも栄養のバランスが第一で、予算もあることですので、毎日家族の為に献立を考える主婦は、大変だろうとお察しします。
一生懸命作った料理を出して、みんなの心からの御馳走様の声を聞くと、また張り切らざるを得ないでしょう。
人
紫南支部 紫原ぢごろ
御馳走をば食過ぎっ増えた贅沢病
(御馳走をば くすぎっ増えた ぜいたっびょ)
(唱)粗食の衆いな 縁の無かこっ
(唱)(そしょっのしいな 縁のなかこっ)
御馳走の基準は人によって違い、それは食生活の環境や経済力が影響を及ぼしています。庶民感覚での御馳走と言えば高級食材のステーキや会席料理などですが、それらを口にするのは希なことです。
一方で、御馳走を好んで食べる人の中には、偏った栄養の取り過ぎで病気になる人もいます。警鐘を鳴らす句です。
五客一席 城山古狸庵
正月の御馳走はスーペ予約済ん
(しょうがっの 御馳走はスーペ よやっずん)
(唱)楽じゃい後は食いばっかい
(唱)(だっじゃいあとは たもいばっかい)
五客二席 清滝支部 鮫島爺児医
披露宴御馳走をば先き吟味しっ
(披露宴 御馳走をばさき 吟味しっ)
(唱)どうじゃこうじゃち 始まっ評価
(唱)(どうじゃこうじゃち はいまっ評価)
五客三席 城西 桃花
食台で弾ん会話が家ん御馳走
(食台で はずん会話が えん御馳走)
(唱)一家団欒ぺちゃくちゃ喋っ
(唱)(一家団欒 ぺちゃくちゃしゃべっ)
五客四席 紫南支部 紫原ぢごろ
目刺で御馳走は不要ん焼酎肴
(がらんつで 御馳走はいらん しょちゅしおけ)
(唱)何処産じゃろかこら美味めこっ
(唱)(どこさんじゃろか こらうんめこっ)
五客五席 霧島 木林
三が日御馳走が多けで腹も出っ
(三が日 御馳走がうけで 腹もでっ)
(唱)秤の針も三キロオーバ
(唱)(ちきいのばいも 三キロオーバ)
秀 逸
清滝支部 鮫島爺児医
御馳走いも産地をば聞っ箸しょつけっ
(御馳走いも 産地をば聞っ はしょつけっ)
団子飯が御馳走じゃったよ戦時中
(団子飯が 御馳走じゃったよ 戦時中)
晩酌にゃ目刺があれば御馳走じゃっ
(だいやめにゃ 目刺があれば 御馳走じゃっ)
正月どま御馳走どん食っ寝っ過ごそ
(しょがっどま 御馳走どんくっ ねっ過ごそ)
城山古狸庵
何よっか話が御馳走同窓会
(ないよっか 話が御馳走 どうそかい)
爺が御馳走豆腐一丁と焼茄子
(じが御馳走 おかべいっちょと やっなすっ)
先ず一杯御馳走は後ち焼酎を注っ
(まずいっぺ 御馳走はあとち しょちゅをちっ)
紫南支部 紫原ぢごろ
総入歯にゃ軟らし食物がよか御馳走
(がんぶいにゃ やらしくもんが よか御馳走)
銀飯が一の御馳走ん終戦時
(ぎんめしが いっの御馳走ん 終戦時)
伊敷支部 矢上 垂穗
御馳走をば鷹が横取い龍は泣っ
(御馳走をば たかがよこどい りゅうはねっ)
霧島 木林
作やせじ今時か御馳走店で買っ
(つくやせじ いまどか御馳走 店でこっ)
薩摩郷句鑑賞 54
賽銭が少ねかったか凶を引っ
(さいせんが すっねかったか 凶をひっ)
下本地狂二
除夜の鐘が鳴り終わらないうちから、神社や寺には初詣の人々が押しかける。無病息災を祈り、開運を願うのは人情の常というものであろう。
ところが、人間は欲が深いから、山ほどのお願いをしながら、十円玉ぐらいしか投げ入れないので、神仏も、「そう都合よくは参らぬぞよ」と、おみくじに凶をお出しになったのである。
今はほとんど「おさいせん」と言うが、昔は「おさんせん」と呼んでいた。
初荷じゃち担げ込まれた酔れ亭主
(初荷じゃち かたげこまれた よくれてし)
佐土原 隆
かねては昼の日なかから酔っぱらっているわけにもいかないけれど、「正月ごあんさお」というわけで、朝っぱらから天下御免の大酒を飲んだのであろう。
実際には、友人に支えられながら、家まで送られてきたのであろうが、「担げ込まれた」という誇張が、この場合効果的である。そして、「奥さん、初荷ごあんど」と言って、玄関を開けたのであろう友人の姿もユーモラスで、いかにも正月らしい。
焦れずい刮っ貰ろでた七日雑炊
(こがれずい こせっもろでた なんかずし)
村田 子羊
七日の早朝、「若菜打ち」というのをしたものだ。私も三十年くらい前に佐多で見た記憶があるが、最近はほとんどないのではあるまいか。
その若菜を入れた「七日ん雑炊」を食べると、健康に育つというので、七歳になった子供が、近所を七軒回って貰い歩く。だから「七とこずし」というのだが、これは今でもまだ行われているようである。
「こさっ」は「刮ぐ」のなまりで、この場合「残らずみんな」というような意味。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋
薩 摩 郷 句 募 集
◎3 号
題 吟 「 苦情(くじょ)」
締 切 平成23年2月6日(月) ◎4 号
題 吟 「 名刺(めいし)」
締 切 平成24年3月5日(月)
◇選 者 永徳 天真
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鹿児島市加治屋町三番十号
鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
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