=== 新春随筆 ===

「どじょう」と緩和ケア



北区・上町支部
(日本尊厳死協会かごしま名誉会長)
               内山  裕

 平成23年8月29日,私はテレビの前で,次の首相を選ぶ民主党の代表選の行方を見守っていた。「しがらみや人間関係より国民の思いを踏まえた投票を」と訴え,「思惑ではなく思いで,下心ではなく真心で,論破ではなく説得で」と誓った野田佳彦候補が逆転勝利を収めたのだったが,私は勝利の要因は,演説の巧みさ,とりわけ相田みつを氏の作品「どじょう」を引用した感性にあるのではないか,と感じている。

  どじょうがさ 
   金魚のまねすることねんだよなあ


 作者はこう書いている。「どじょうはどじょうとしてほんもの,金魚は金魚としてほんもの。どじょうが金魚のまねをした時,にせものになるんです。あなたがあなたであるかぎりほんもの,ほんものより,にせもののほうがカッコいい,と錯覚して,一生をダメにしてしまう人間が多いのではないか,と私は思います。」
写真 1 おかげさん【軽装版】




写真 2 筆者作成の年賀状

 新首相誕生以来,相田みつを氏の作品集は急遽増刷に次ぐ増刷,東京にある相田みつを美術館は来館者が急増。思わぬ反響に関係者は驚き,新首相の「泥くさい」活躍に期待を寄せているという(写真1)。


 ところで,私は昨年の年賀状に相田みつを氏の作品を使用させて貰った。日本尊厳死協会かごしま 納 光弘会長の日展入選作品「明けゆく」に配して,印刷した詩はこうである。

       「うん」
  つらかったろうなあ
  くるしかったろうなあ
  うん うん
  誰にもわかってもらえずになあ
  どんなにかつらかったろう
  うん うん
  泣くにも泣けず
  つらかったろう
  苦しかったろう
  うん うん


 緩和ケアの場では「何かをすることではなく,傍にいてあげることである」とよく言われる。
 絶望的な状況に置かれている人に,何もできなくても,傍にいて,手を握ったり,優しく肩をさすったりするだけで,ささやかな支えになることを私達は体感している。
 間違いなく訪れる終末の時を想うとき,私には相田みつを氏の詩情が懐かしいものに想えてならない(写真2)。













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