天
武岡 志郎
将来きゃ重役噂じゃったがまだ主任
(さきゃじゅやっ 噂じゃったが まだ主任)
(唱)ないごてじゃろち噂どんしっ
(唱)(ないごてじゃろち 噂どんしっ)
同期の中で、一番早く主任に昇進した頃は、秀れた発言力や行動力に皆も注目し、将来は重役にはなるだろうと社内で噂になっていたのでしょう。
しかし、その後どこでどう歯車が狂ったのか、今はもうその面影すらありません。人生の機微が、下五の「まだ主任」で、効果的に表現されています。
地
紫南支部 紫原ぢごろ
同窓会友の噂でひと弾ん
(どうそかい どしの噂で ひとはずん)
(唱)天国き行たち知らじ驚っ
(唱)(てんごきいたち しらじたまがっ)
同窓会での再会は、卒業後のそれぞれの人生の縮図が見えたりして、その変化に驚きもありますが、懐かしい学生時代の思い出話に時が経つのも忘れます。
そこでまた話題になるのが、出席していない友のことです。「どうしているのだろうか」と、その噂で盛り上がっている様子がよく詠まれています。
人
城山古狸庵
何処け行てん此処ばっかいちすい噂
(どけいてん ここばっかいち すい噂)
(唱)俺も噂いなっちょらせんか
(唱)(おいも噂い なっちょらせんか)
単にその人を話題にする噂もあれば、事実かどうか疑わしい事柄について、興味本位に言いふらす噂もあります。
後者の噂は、口の軽い人が「ここだけの話」と、前置きをしてばら撒いたり、時にはおもしろおかしく誇張されたりもします。そんな噂を、つい口に出してしまう、その状況がよく捉えられています。
五客一席 城西 桃花
耳の穴を穿っ噂話しょ聞っ
(みんのすを ほじくっうわさ ばなしょきっ)
(唱)誰かい話しょすっつもいじゃろ
(唱)(だいかいはなしょ すっつもいじゃろ)
五客二席 清滝支部 鮫島爺児医
言な言てん鍵が掛からんとが噂
(ゆなちゅてん かっがかからん とが噂)
(唱)他人ん事じゃち 口つ滑らせっ
(唱)(ひとんこっじゃち くつすべらせっ)
五客三席 武岡 志郎
傘せ入れっ好か仲じゃっち噂せなっ
(かせいれっ よかなかじゃっち うわせなっ)
(唱)縁ぬ結んだそん相合傘
(唱)(縁ぬ結んだ そんあいえがさ)
五客四席 城山古狸庵
尾鰭が付っ噂一人が歩ん出っ
(ひれがちっ 噂ひといが あゆんでっ)
(唱)驚げた全で真実と違ごが
(唱)(たまげたまっで まこっとちごが)
五客五席 原良 龍虹
引越ん挨拶よっかも先き噂
(ひっこしん えさっよっかも さき噂)
(唱)敷かれ亭主じゃちそげな目で見っ
(唱)(しかれてしじゃち そげな目でみっ)
秀 逸
清滝支部 鮫島爺児医
噂いな嘘と真実が混ざっ居っ
(噂いな 嘘とまこっが まざっちょっ)
噂より強し頼もしなでしこじゃ
(噂より つよしたのもし なでしこじゃ)
悪り噂拭わんにゃ次ぎゃ遠えバッジ
(わり噂 ぬぐわんにゃつぎゃ とえバッジ)
紫南支部 紫原ぢごろ
何処ずいも旨めち噂せな駆けっ行っ
(どこずいも うめちうわせな かけっじっ)
バーゲンの噂を聞けば走い出っ
(バーゲンの 噂を聞けば はしいでっ)
原良 龍虹
親が言う噂話を子も聞ちょっ
(親がゆう 噂話を 子もきちょっ)
ご近所ん噂を知らん俺一人
(ご近所ん 噂をしらん おいひとい)
武岡 志郎
噂でな鬼嫁言どん虫し怖っ
(噂でな 鬼嫁ちゅどん むしびびっ)
城山古狸庵
セクハラん噂で降じた社長ん椅子
(セクハラん 噂でおじた しゃちょん椅子)
《雑 吟》
武岡 志郎
平和利用じゃっが恐ろし原子力
(平和りよ じゃっがおとろし げんしりょっ)
作句教室
今月号の作品の中に、次のような表現がありましたので、検討してみます。
「噂(うわ)そしっ」「噂(うわ)す知(し)らんは」
まずこれを、共通語に直してみますが、「噂をする」「噂を知らないのは」ということだろうと思います。
そこで問題となるのが、この共通語の「噂を」という助詞「を」をともなう表現が、方言で、「噂(うわ)そ」とか「噂(うわ)す」という表現になるかどうかという点です。
方言での助詞「を」のことばの短縮は、一部にしかなく、それは、助詞「を」の前にくる名詞の語尾が、五十音の中のイ段とウ段の、き・く・し・ち・つ・るなどに限定されています。
語尾き「駅を」駅(え)く〔きょ〕出(で)っ
語尾し「足を」足(あ)す〔しょ〕洗(あ)るっ
語尾ち「口を」口(く)つ〔ちょ〕挟(は)すん
語尾る「春を」春(は)ゆ〔 よ 〕待(ま)っ
したがって、花・店・外などのような、助詞「を」の前にくる名詞の語尾が、五十音の中のア段・エ段・オ段については、「花(は)な買(こ)っ」「店(み)せ閉(し)めっ」「外(そ)と見(み)っ」などと、方言の話しことばではなく、ことばが短縮されないので、共通語と同じ助詞「を」を使うことになります。
「花を買(こ)っ」「店を閉(し)めっ」「外を見(み)っ」
「噂」も語尾がア段であり、「噂(うわ)そしっ」や「噂(うわ)す知(し)らんは」とは言わないので、「噂をしっ」「噂を知(し)らんとは」という表現が正しいと思います。
ちなみに、助詞「に」の場合の短縮の形は多く、次のような表記となり、送りがなとなる「せ」「き」「せ」「て」が、助詞「に」の働きをしているということになります。
語尾がア段「噂になる」噂(うわ)せなっ
〃 イ段「駅に着く」駅(え)き着(ち)っ
〃 エ段「店に行く」店(み)せ行(い)っ
〃 オ段「外に出る」外(そ)て出(で)っ
薩 摩 郷 句 募 集
◎2 号
題 吟 「 計算(さんにょ)」
締 切 平成24年1月5日(木) ◎3 号
題 吟 「 苦情(くじょ)」
締 切 平成23年2月6日(月)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
鹿児島市加治屋町三番十号
鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
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