随筆・その他
ピ エ ー ル 遠 藤 !?
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中央区・城山支部
(高見馬場山口クリニック)
山口 芳史
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回ってきました,リレー随筆。上山先生,村岡先生,新牧先生,福田先生と来て,本来なら飯田先生か江川先生で,私は殿に控えるべき立場ですが,福田先生からのご指名で,「お前,ピエール遠藤でも書けや」ってことで引き受けさせて頂きました。
「ピエール遠藤」ご存知ですか? 違うんです,「マイク小西」なんです。福田先生がおちょくってそう言うんです。ゴルフ好きな方はご存知でしょう。最近では,石川 遼が2年前初めてマスターズに臨むとき指導を受けたレッスンプロです。あの時は賛否両論ありましたが,「遼君が俺の弟弟子か !?」と色めき立ったものですが,遼パパとマイク先生の意見が食い違い,契約解消となりました。古くは岡本綾子,パティ・リゾ,マーク・オメーラなどを指導しています。
8年ほど前に,マイク先生の弟子にあたる東浦正光さんと知り合い,マイク先生のSNS(Simple Natural Square)メソッドにのめり込んでしまいました。というか,最初はマサさん(東浦氏)のスウィングに惚れ込んで,そうなりたい一心でした。一番近いのは岡本綾子のスウィングでしょうか。マサさんは岡本さんがUSLPGA(全米女子プロゴルフ協会)ツアーの賞金王になった頃のキャディもしていたので,自然と似たのもあるでしょうし,同じ先生の指導なので似るはずでもあります。
平成4年の初め頃,医師会病院に出張していたとき,先輩に誘われゴルフを始めました。当時私は,医学部の後半から始めたビリヤードに熱中していたのでゴルフに手を出したくない,ビリヤードに集中したいと申し上げたところ,「じゃあお前は日曜は毎週日勤当直かオンコールだ!」「いや,それはちょっと…」「じゃあゴルフするんだな !?」てことで,先輩が早速中古クラブを手配してくださり始めることとなったのでした。
それまでにも,打ちっぱなしに行ったり,一回だけラウンドもしてましたので,これは手を出すとハマるぞ,みたいな魅力は感じていました。実際始めてみると,自然の中で,語らいながら,18ホールで終わるし(ビリヤード場は24時間営業で,学生時代は最高連続40時間撞いたこともありました),すっかりハマってしまったのでした。
それからというもの,ありとあらゆるゴルフ関連の雑誌,書籍,ビデオなど買い漁り,完全に頭デッカチとなってしまい,レッスンプロにも数人習いましたが,その人なりの経験論,対症療法的な教えに馴染めず続きませんでした。
そうこうしているうちにあっという間に10年が過ぎ,そこそこのスコアで回れるようにはなりましたが,相変わらず日替わりの方法論を試す日々でショットもスコアも安定しません。70台が出てもたまたまで,自分の実力と感じません。そろそろ情報に振り回されず,自分流を確立しなければと思っている頃でした。マサさんと出会うことになります。
マイク先生のSNSメソッドは,もちろんそれまでにも雑誌や本・ビデオでわかったつもりでいましたが,実際直接指導を受けてみると,目からウロコが何枚,いや何百枚落ちたでしょう!それはいまだに続いているのですが,経験論や方法論ではなく,全てが科学的で論理的,原因と結果が全てクリアーに説明されます。どんな質問にも明確な回答があります。10年かけて自分なりに頑張ってきましたが,全てを捨てて一からこれにかける決心をしたのでした。
SNSメソッドでは,ドライバーからパターまで全て同じ理論ですので,全く白紙からのスタート。しかもマサ先生は東京在住ですのでレッスンを受けられるのは,年に一度か二度,良くなったと思って張り切って上京して見てもらっても,実はズレの帳尻合わせを見抜かれやり直し。いつしか,スコアはどうでも良く,いわばスウィングオタクと化してしまいました。
私は4月〇〇日,50歳になりました。気分は20代のまま(?)ですが,体の衰えはジワジワ感じる年頃になってきました。SNSメソッド習得にはまだまだ時間が掛かりそう,いや無理かもしれない。このままでは,ゴルフゲームとしての結果を出せないまま年をとって行くし,SNSメソッドは続けるがラウンドだけは気持ちを切り替えて,スコア重視で頑張ろう,って事で,一念発起昨年10月某ゴルフクラブのメンバーになり競技に参加することにしました。それから,毎月月例競技に参加していますが,まだまだ結果が出ません。結果は出ないけど,腹は出てきて見苦しいし,シェイプアップも兼ねて練習増やして頑張らねば!ってとこです。
私の使用クラブは下手なくせに,一見プロみたいなんです。ほとんど特注物か限定物で何かしら改造してあります。
自分の専門は消化器内視鏡ですが,道具を使うことについてはゴルフと同じです。10数年前,内視鏡の先端に装着するフードが気に入るものがなく,オリンパスの市販品を歯科用の道具を買ってきて削って使ってみたり,粘膜下層剥離術用に検尿スピッツを使ってデバイスにしたり。そういう自分に合うよう手を加えるのが好きなんでしょう。
思えば元来物を作ったり,工作したりが好きで,幼稚園の頃サンダーバード2号が欲しくてプラモデル作りを始め,アポロ8号の帰還を夜中親父と見て感動し,宇宙飛行士に憧れ,早速アポロのプラモデルも作りました。実は去年,バンダイから「大人の超合金シリーズ」でアポロ11号が限定発売されゲットしました。5万を超える値段でしたが,あの頃の興奮を思い起こさせてくれました。
巨人の星の「大リーグボール養成ギプス」も作りましたが,バネに身が挟まって飛雄馬みたく素肌には使えませんでした。
中一の時,ブルース・リーにハマり,市販の八角形に面取りされた二本の棒を紐でつないであったヌンチャクの角を落とし丸く削り,黒く塗装し,紐を鎖に換えブルース・リー仕様にしました。
大学に入って始めたベースも,フェンダーのジャズベースのボディを刳り貫いてアクティブサーキットを組み込んでマーカス・ミラー仕様にしました。下手すれば,当時30万相当のジャズベースがパーです。金は無いのに,思い切ったことをしたもんです。
こんなですから,ゴルフクラブも自分だけの,SNSメソッドに最適なものにしたいのです。しかし,いまのクラブは技術の進歩でスウィングの欠点をカバーできるように小細工されたものが溢れており,使う気になれません。タイガー・ウッズや石川 遼がマッスルバック・アイアンを使い,ドライバーも小ぶりのヘッドを使うのはあのスウィングには当然必要なギアだからで,そもそも見た目一緒でも市販品とは全く別物のオリジナルです。SNSメソッドを極めたマイク先生や,マサさんですらなかなか良いクラブが見つからないそうです。もし,「これがいいから使え!」と言ってくれたら楽なんですが。私のスウィングはまだまだ固まってないので,正直いまのクラブが適切かわかりませんので,マサさんに試打してもらい,確認してもらいます。でもそこそこだけど,最高とは言えないようです。ミスがミスとしてはっきり出るけど,ナイスショットの時は最高の感触といい球が出る,そんなクラブを使って行きたいと思ってます。
話はちょっとそれますが,ゴルフクラブの業界でも日本の技術は世界一と言ってもいいらしいです。高反発クラブが流行ったことがありましたが,飛びすぎるので,現在では使用出来なくなりました。高反発にするためには極限までクラブフェースを薄く,しかも強度を維持しなければならず,その技術が日本のとある製作所の特許で,世界中のメーカーは特許料を払わなくてはならない状況だったために,実の所は,日本企業の独占を避けるためもあって高反発禁止になったという経緯があります。
遠藤製作所というクラブヘッドの製作会社があります。奇しくも福田先生が言った「ピエール遠藤」にかぶってますが,一世を風靡した,「セイコーSヤード」「ミズノE300」など,当時プロアマ問わず飛ぶとの評判だった名機を生んだ会社です。先の高反発技術も確かここだったと思います。
最近では,「ブリヂストン」「ヤマハ」,海外ブランドでも「テーラーメード」「ナイキ」「キャロウェイ」など大手メーカーの高級品に属するクラブヘッドの多くはここで製作されてます。一般ユーザーはメーカーでクラブを選びますので,遠藤製作所のことはあまり知られておらず,カタログにも載りません。
一般的にはクラブメーカーが技術開発して,製造を工場に依頼します。メーカーが工場に対して技術指導を行い,メーカーが設計した通りに工場は商品を仕上げる。しかし,遠藤製作所はメーカーより先に技術開発をするので,メーカーから製作依頼が来たときに,自社開発した技術をメーカーに提案します。一般の工場が製作のみを行うのに対して,遠藤製作所は技術を付けてメーカーに渡すのです。
しかし製造コストは技術料も入り高額になってしまいます。メーカーとしては景気低迷対策で,利益率を上げて数を売りたいので,遠藤製作所より安い海外工場(MADE IN CHINAも多いです)に振り替えたりして,却ってそれが裏目に出て,売れなくなった事例もあります。「ブリヂストン」がそうで,過去のヒットしたクラブを検証したところ,全て遠藤製作所が作ったことがわかり,現在のX-DRIVE701シリーズ以降はまた遠藤製作にもどし,順調に売上を伸ばしています。
その遠藤製作所が自社ブランドとして立ち上げたのが,「EPON GOLF」です。
ドライバーに設計されているフェイス・クラウンなどは部分によって厚みを変化させています。それも0.1ミリ単位で。EPON GOLFのヘッドは精密性を問われるこの肉厚を自社の設計・製造技術によりコストを惜しまず製造しています。「少しでも多く仕入れてください。その為には多少のことは目をつむります。」不景気の昨今ではよく聞く話です。「当社のクラブは大量に販売していただく必要はありません。御社のペースで取り扱ってください。乱売されるようなことが無いように,インターネットショッピングモールでの取り扱いは控えてください。自社ホームページでの掲載は問題ありませんが,実勢販売価格の表示はおやめください。一番大事なことはユーザーへのフィッティングを必ず行ってください。ヘッドの完成度には自信を持っていますので,わかっていただける方には,EPON GOLFは必ずご理解いただけます。」EPON GOLF担当者の言葉です。
コストダウンを図るためにドライバーヘッドは主に鋳造で製造されます。現在の技術ではEPON GOLFの精密さは鍛造でしか無理なようです。また,チタン鍛造のできる工場が少なく,「精密に」との言葉を付け加えると世界に遠藤製作所しか無いようです。
他にも,三浦技研,共栄ゴルフなど特に軟鉄鍛造アイアンヘッドの有名な製作所もあります。
シャフトメーカーもフジクラ,グラファイトデザイン,三菱レイヨンなど世界中のプロゴルファーも採用しています。ちなみに,タイガー・ウッズのクラブはナイキ製ですが,ドライバーヘッドは遠藤製作所,アイアンヘッドは三浦技研,ドライバー・シャフトは三菱レイヨン製です。SNSメソッドを学ぶ仲間の集まりを「BGG CLUB」といいますが,その最新4月号会報にも「EPON GOLF」の記事が載り,そこからも一部引用しました。
SNSメソッドではアドレス(ショットする為の構え)が適正であることが大前提です。もちろん他の理論でもほとんどはそうだと思いますが,なぜそうなのかが明確なんです。ですので,普段から良い姿勢を心掛けること,良い姿勢で歩くことを強調されます。
マイク先生は日本人の子供の姿勢の悪さに将来の日本を憂い何とかしようと,「姿正道」と題する講演会を子供を持つ親御さんを対象に開催しておられます。実際はゴルフ好きのお父さん方が集まり,にわかゴルフレッスン会になることもままあるそうですが。あの辛口のデビ夫人も講演会に来て感激したらしいです。
良い姿勢とは良い骨の位置であり,良い骨の位置関係なら無理のない筋肉の働きが起こり,血流も良くなり,神経活動も内臓機能も良くなるはずです。日常の診療でも患者さんを壁立させて,受け売りで良い姿勢の指導をしたりしてます。多分,診察介助のナースは早く捌けとイライラしていることでしょう。
ゴルフしない先生方には全くもって興味の無い話で申し訳ありませんでした。また,ゴルフの上手な先生方には,下手の戯言と思って大目に見てください。
最後に,東日本大震災で,日本は戦後史上稀に見る危機に瀕しています。ゴルフの話に興じている場合では無いかもしれません。そういえば遠藤製作所も東北ですが,何とか被災を免れたようです。出来れば被災現場をこの目で見て脳に焼き付け,何か医者として,人としてできることをしたい,皆さん同じ思いをされているのではないでしょうか?鹿児島の県・市医師会からは早速救援に出動されました。しかし私共は現実的には日常を今まで通り粛々と生きるしかありません。せめて頭の片隅にでも震災のことを刻みこんでいつも忘れないように。今回の震災に限らず,忘れてはならない歴史を再認識する機会にもなったと思います。
花見は自粛せず,東北の日本酒をいっぱい飲んで楽しんでください,それが一番の復興支援です,と言う酒蔵の声がありました。
いずれ時が来たら,東北のゴルフ場まで出かけて行ってラウンドし,遠藤製作のクラブを購入し,日本酒もしこたま飲むとします。
| 次回は,なかむら内科病院の中村俊博先生のご執筆です。(編集委員会) |
SNSメソッドとは?
Simple(単純な動作は)
Natural(誰にでも自然に)
Square(正確にできる)

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