鹿市医郷壇

兼題「化粧(けしょ)」


(376) 永徳 天真 選




伊敷支部 矢上 垂穗

持明様の優しさを継っ化粧直し
(じめさあの 優しさをつっ 化粧なおし)

(唱)笑るっおじゃした穏やかな顔
(唱)(わるっおじゃした おだやかなつら)

 島津家十八代家久の奥方持明夫人は、器量に恵まれませんでしたが、その人間性が尊敬されていたそうです。
 鹿児島市立美術館の敷地内にその持明院様の石像があり、毎年十月五日の命日には、この像におしろいや口紅をぬって、優しかった夫人を偲んでいます。その情景を促えた着眼がよかったです。




清滝支部 鮫島爺児医

桜島ん雪化粧噴煙よっか見映えしっ
(しまんけしょ 噴煙よっか 見映えしっ)

(唱)なんつあならん素晴らし景色
(唱)(なんつあならん 素晴らしけしっ)

 地元に住んでいる人は見慣れていますが、帰省する人たちには、感慨深い存在の鹿児島のシンボル桜島です。
 ドカ灰で悩ますこともある噴煙を上げる勇壮な桜島より、雪化粧をした上品な桜島が、一層美しいと見惚れている様子が素直に詠まれています。今年の冬も、きっと見せてくれることでしょう。




 城山古狸庵

夜の蝶ん息苦すない化粧ん臭
(よいのちょん いっぐるすない 化粧んかざ)

(唱)女ん園ん匂がプンプン
(唱)(おなごんそのん にえがプンプン)

 夜の蝶とは、クラブやスナックなどのホステスさんのことで、美しく化粧をし、着飾った女性が接客をして癒してくれます。しかし、中にはきついにおいの香水をつけた女性もいて、息が詰まりそうになったという体験句のようです。
 化粧も時に、不快なかおりの臭いになる場合があるということのようです。


 五客一席 武岡 志郎

バスん中化粧ん前後ワンマンショ
(バスん中 化粧んまえあと ワンマンショ)

(唱)降じっ時いな別人の如っ
(唱)(おじっ時いな べっじんのごっ)


 五客二席 城山古狸庵

こん歳いなれば鏡も見らじ化粧
(こん歳い なればかがんも みらじ化粧)

(唱)パッパッパッち手慣れたもんじゃ
(唱)(パッパッパッち 手慣れたもんじゃ)


 五客三席 紫南支部 紫原ぢごろ

化粧してん地金が出った里育っ
(化粧してん 地金がでった さとそだっ)

(唱)一目で分かい難儀した顔
(唱)(ひとめでわかい 難儀したつら)


 五客四席 霧島 木林

長ご化粧をし過ぎで肌は荒れたない
(なご化粧を し過ぎで肌は 荒れたない)

(唱)鏡む見いたび付かすい溜息
(唱)(かかむみいたび つかすいういっ)


 五客五席 清滝支部 鮫島爺児医

化粧してん皺は隠せん高齢しけなっ
(化粧してん 皺は隠せん としけなっ)

(唱)顔れ年輪が刻まれた皺
(唱)(つれ年輪が 刻まれた皺)



   秀  逸

 城山古狸庵

化粧上手天文館にゃ沢山美人
(けしょうじょし 天文館にゃ ずばっシャン)

バスん中化粧しい忙こ茶髪娘
(バスん中 化粧しいせしこ ちゃぱっおご)


紫南支部 紫原ぢごろ

田舎芝居子役も可愛か化粧をしっ
(田舎しべ こやっもむぞか 化粧をしっ)

サーカスのおどけピエロん厚化粧
(サーカスの おどけピエロん あつげしょう)


清滝支部 鮫島爺児医

化粧無しで美人に見みゆった結婚当初
(化粧無しで シャンにみゆった といえはな)


武岡 志郎

年齢しつれっ化粧品代は大概な程
(としつれっ 化粧品代は てげなひこ)


霧島 木林

外出も化粧はてげてげ我家の姉
(がいしっも 化粧はてげてげ うっの姉)



 薩摩郷句鑑賞 44

鬼火焚ん匂を牛いも嗅ませっ
(おねっこん かざをべぶいも かずませっ)
               岩ア美知代

 六日の夜か、七日の早朝または夕方、田んぼや河原などに、孟宗竹などを心柱にして、薪を積み、寄せ集めた門松などをのせて火を焚く。竹がはじけて大きな音を立てると、子供たちは鬼を追っ払う喚声をあげたものである。
 この火にあたったり、この火で焼いた餅などを食べると、無病息災で過ごせると言われた。
 またこの火であぶった笹を持ち帰って、牛馬に食べさせると、牛馬も病気や怪我をしないとも言われた。それを詠んだのがこの句である。


芹がもへ春ゆ嗅ますい七日雑炊
(せいがもへ はゆかずますい なんかずし)
               筧  三平

 「七草がゆ」のことを、鹿児島では「七とこずし」とか、「七日んずし」という。七歳になった子供が、近所の家を七軒まわって、この「七日ん雑炊」を貰ったものである。
 昔は旧暦だから、春の七草を摘みに行って、この七日ん雑炊に入れたのであろうが、今ではいろんな野菜が使われているようである。しかし、川に行って摘んできたセリを入れることによって、春の匂いがしたととらえたところが面白い。


朝寝女房滾らん鍋を開けどえっ
(あさねかか たぎらん鍋を あけどえっ)
               村田 子羊

 昔は親元や妻の実家をはじめ、親戚の家を日を決めて「年頭回(ねんつめ)い」をしたもので、特に鏡餅を持って行かなければならない所など大へんなものだった。また、それらの親戚を招く日もあるわけだから、親戚の多い家は十日過ぎまでかかったものである。
 最近は寄合い正月ですませる所が多いので、主婦などものんびり正月が過ごせるから、つい朝寝癖がついてしまって、始業式の朝など、この句のようなことも起こりかねないだろう。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋


薩 摩 郷 句 募 集

◎3 号
題 吟 「友達(どし)」
締 切 平成23年2月7日(月)
◎4 号
題 吟 「損(そん)」
締 切 平成23年3月7日(月)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892−0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会『鹿児島市医報』編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp



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