随筆・その他
芝 刈 り
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北区・上町支部
(中村レディースクリニック) 中村 安俊
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Q「趣味は何ですか?」
A「芝刈りです。」
Q「ああ,ゴルフですね。」
A「いえ,芝生管理の芝刈りですよ。」
Q「は〜?」
学生時代にカナダのアルバータ州エドモントンという街でホームステイした経験があります。そこは住宅地全体が芝生で覆われており,休みの日の朝にはホストのお父さんが庭の芝刈りをしていたものでした。お国柄や環境によるものでしょうが,学校や公園をはじめ,あらゆる施設が美しい芝で覆われており日本人からすると夢のような街並みでした。その頃から芝生への憧れがあったのかもしれません。
ゴルフをされる方々は芝生に接する機会はありますが,日本では自宅が芝で覆われているなんてなかなかないことでしょう。
そういう私も産婦人科有床診療所のビルの最上階が自宅で,芝生のある庭などとは無縁の生活をしていました。ベランダは130平米程度と結構な広さはあるものの洗濯物を乾かす以外の使い道は無く,それどころか夏はコンクリートが熱せられ反射熱も加わって大変な暑さでした。
ところが4年前に鹿児島市が屋上緑化を推進して最高50万円まで補助されることをきっかけに,屋上に芝生を張ることにしました。今では全国的に空港,デパート,銀行,病院,学校をはじめ,一般住宅でも屋上緑化が進んでいます。
まず選んだ芝は暑さや乾燥に強く,管理のしやすい姫高麗芝です。屋上は地上6階なので自分で張ることは不可能。当然業者に頼みました。業者により施行方法は多少異なるのかもしれませんが簡単に説明します。
初めにコンクリート全体に防根シートを張ります。これは芝の根がコンクリート内に侵入するのを防ぐためです。その後は必要な物品をクレーン車で一気に屋上に搬入させました。芝生の床土は普通の土でも構わないのですが,建物に重量負荷がかからないようにエコグリーンマットというウレタンマットのような土の代わりとなる軽量物を敷き詰めます。その上にビルソイユというこれも軽量な土を敷き詰め,そして芝生を張り目土を被せて完成です。コンクリートの表面から芝生までの厚さはわずか7〜8cm程度です。芝が根付くまでの1ヶ月間は毎日散水が必要なので梅雨直前に張るのが理想的です。
芝生を育てる環境としての好条件は日当たりが良いこと,水はけが良いことです。通常屋上は日光を遮る物が何も無いので文句なしです。水はけに関しては,屋上そのものが雨水が排水口に向かって流れるように設計されているため,排水口が詰まっていない限り如何なる豪雨でも芝生に水溜りができることは有り得ません。ゴルフ場のグリーンでさえ大雨の時は水溜まりができますので,そういう意味では屋上は芝生を育てる絶好の環境と言えます。その他,地上ではモグラや犬猫の糞尿被害もあると聞きますが,屋上ではそのような心配も御無用です。
さて,芝張りは業者に任せるとしても管理は自分でしないと莫大な維持管理費がかかってしまいます。芝生の管理の基本は大きく3つ,散水,施肥,芝刈りです。散水は,わざわざホースを持って散水する必要はありません。園芸店に売っているスプリンクラーを使えば蛇口を捻るだけです。しかし姫高麗芝は暑さや乾燥に強いので今年のような暑い夏でも,たまに降るにわか雨程度で十分です。結局8月は一度も散水はしませんでした。施肥は,一般的には美しい芝生をキープすることにこだわらなければ不要です。しかし地上と違って屋上では地中の厚みが無い分,栄養分も少ないため施肥は2ヶ月に1回程度,園芸店に売っている芝生用の肥料を適当に撒いています。そして芝刈り。芝刈りは芝が伸びるから刈るのではなく,美しい芝生に仕上げるために刈ります。芝の根は匍匐茎と呼ばれ,竹の根と同じ様に横へ横へと地表近くを這うように伸びていきます。その地中の分節した茎から垂直に茎が伸び,そこに葉が生えます。そして芝を頻回に刈れば刈るほど活性化されてその密度が増し,きめ細かい美しい緑の絨毯となっていきます。ゴルフ場のグリーンは3mm程度の高さに毎日1〜2回刈られているはずです。芝は常に伸びていますので,朝一番と夕方とでは当然ボールの転がりも違ってきます。また,芝生の管理は雑草との闘いとも言われ,管理を怠ると芝生なのか雑草なのか分からないほど悲惨な状態となってしまいます。ところが嬉しいことに,屋上には雑草が生えません。これは雑草の種子が屋上まで飛んで来れないからと思われます。雑草処理で苦労している人の気持ちが分からないほど雑草とは無縁で,雑草を見つけるのに苦労するほどです。これらの事より屋上芝生は素人にも管理しやすい環境と言えます。夏芝は冬は休眠期に入るため冬の間の管理は全く不要です。年中管理するよりも管理しなくて済む時期があった方が楽です。それでも鹿児島の場合は10月までは緑を維持し11月頃から色が薄くなり始め,実際に緑を楽しめないのは12月から2月までの3ヶ月程度です。そして毎年3月には萌芽が始まります。
最初は何の知識も無いままだったため芝生に関する本を読み漁っていましたが,芝生の管理も4年目となり「好きこそ物の上手なれ」で,最近は手抜き管理をしながらもゴルフ場のフェアウェイ並には管理できるようになりました。他の植物も同じだと思いますが,芝生は愛情を注げばそれなりに美しくなりますし,そうでなければ悲惨な結果となってしまいます。芝生を自分で管理してみて,ゴルフ場のグリーンをプレイに支障をきたすことのないようキープすることが如何に大変で職人技であるかがよくわかります。ゴルフをされる方々はグリーンキーパーのことを考え,ご自分のボールマークぐらいはマナーとしてキチンと直していただきたいと思います。
屋上芝生の本来の目的は建物のヒートアイランド現象を抑えることですが,リビングから芝生を眺めたり,裸足で歩いたり,友人を呼んでBBQパーティーを開いたり,ゴルフのアプローチの練習をしたりと,ストレスのたまる産科医療の中で癒し空間となっています。
因みに当院が依頼した業者さんは,
株式会社 五反共楽園
〒892-0871 吉野町5450-1 電話099-243-0061
です。興味がある方は,話しを聞いてみてください。
| 次号は、天保山内科の橋口恭博先生のご執筆です。(編集委員会) |

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