鹿市医郷壇

兼題「刺身(さしん)」


(365) 永徳 天真 選




錦江支部 城山古狸庵

年金日刺身ぬしこた爺が御膳
(年金日 刺身ぬしこた じが御膳)

(唱)月一じゃいが有難てこっじゃ
(唱)(つきいっじゃいが あいがてこっじゃ)

 「しこた」とは、準備したとか用意したという意味です。習慣になっているとはいえ、夕食の献立を考える奥さん方の苦労は大変なことだろうと思います。
 老夫婦の食卓は、平生は質素なのでしょうが、年金日はリッチな気分になって、鯛の刺身が添えられました。庶民のささやかな生活感が出たほのぼのとした句です。




紫南支部 紫原ぢごろ

ふぐ刺身遠慮しいしいがばっ取っ
(ふぐ刺身 遠慮しいしい がばっとっ)

(唱)こら美味かち驚った舌
(唱)(こらうんまかち たまがった舌)

 高級料理の代名詞とも言えるふぐ刺身は、一般の人は滅多に口にすることはありません。数人で囲む会食で、大皿に盛られた超薄切りの美しい刺身に、箸を付けるのはもったいないような気さえします。その緊張感の伝わりや、刺身が箸にからまっている様子がよく捉えられている滑稽な句です。




上町支部 吉野なでしこ

晩酌も美味か刺身で飲ん過ぎっ
(だいやめも うまか刺身で のんすぎっ)

(唱)君も飲めよち女房ても酌
(唱)(わいも飲めよち うっかてもしゃっ)

 鹿児島で晩酌と言えば焼酎ですが、その肴を晩酌をしない私が思いつくままに挙げてみると、豆腐(おかべ)、白和(よごし)、水雲(もずく)、塩辛、蒲鉾、薩摩揚(つけあ)げ、目刺(がらんつ)、刺身(さしん)など、いろいろとあるようです。この中で一番の肴は魚や鶏の刺身で、ぬったぬったしていない新鮮な刺身に、舌鼓を打ちながら楽しく飲んでいる実感の句です。


 五客一席 伊敷支部 谷山五郎猫

刺身よか蒲鉾が合た大焼酎食れ
(刺身よか 蒲鉾がおた うじょちゅくれ)

(唱)肴にゃ何じゃい小言ちゃ言わじ
(唱)(あてにゃないじゃい こまごちゃゆわじ)


 五客二席 清滝支部 鮫島爺児医

幼魚刺身可哀想か言うて食わん孫
(ちぎょ刺身 ぐらしかちゅうて くわん孫)

(唱)調理ゆっとを見ちょったたろで
(唱)(こしたゆっとを みちょったたろで)


 五客三席 紫南支部 紫原ぢごろ

トロ刺身おてちき食たが支払れが心配
(トロ刺身 おてちきくたが はれがせわ)

(唱)本鮪なあん万円かも
(唱)(ほんまぐろなあ んまんえんかも)


 五客四席 上町支部 吉野なでしこ

新鮮け刺身どげな料理よか誉められっ
(にけ刺身 どげなじゅいよか ほめられっ)

(唱)手もかけんで良自然食品
(唱)(手もかけんでえ 自然食品)


 五客五席 錦江支部 城山古狸庵

刺身せか有れば晩酌五合飲っ
(刺身せか あればだいやめ ごんごぬっ)

(唱)今日も機嫌の良か大の魚好っ
(唱)(きゅもごっのよか だいのいおずっ)


   秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

河豚刺身味は良かどん毒が心配
(ふぐ刺身 あっはよかどん どっがせわ)

キビナゴは刺身で酢味噌焼酎い合っ
(キビナゴは 刺身で酢味噌 しょちゅいおっ)

何言てん刺身が一番の鯛の料理
(なんちゅてん 刺身がいっの たいのずい)


錦江支部 城山古狸庵

今釣った鯵の刺身で焼酎を飲っ
(今釣った あっの刺身で しょちゅをぬっ)


上町支部 吉野なでしこ

手も入らじ客が喜くだ美味め刺身
(手もいらじ きゃっがよろくだ うめ刺身)


伊敷支部 谷山五郎猫

何の魚刺身になっと判い難き
(ないのいお 刺身になっと わかいにき)


 作句教室
 薩摩郷句誌「渋柿」の巻頭言では、これまで故三條風雲児先生が、薩摩郷句についての指針を示されてきました。その中の一つを紹介いたします。
詠むに値する素材
 薩摩郷句は人間風詠であり、人間批判の詩である。だからわれわれの生活の中に、その素材はいくらでも転がっているわけだから、詠もうと思えば何でもネタになる。勿論世の中には、下品なことや卑猥なことも少なくないので、そういう素材を促えたら、下品な言葉や卑猥な言葉で表現してもよいではないか、という意見も出てきそうである。
 しかし私はそう思わない。「詠むに値する素材」「詠む値打ちのある事象」を促えるべきだと思う。薩摩郷句も文芸の端くれである。文芸という以上は、それなりの素材を、文芸にふさわしい言葉で表現すべきであろう。
 文芸として発表する以上、読み手に共鳴され、共感を得られるものでなければなるまい。つまり作品が作者を包容する社会に受け入れられ、認められた時、はじめてその価値が出てくるものであることを忘れてはなるまい。「何を」「どんな言葉で」表現するかということは、最も大事な基本であると思う。


 薩摩郷句鑑賞 33

角を出す妻ん鬼にな銭ぬ撒っ
(つのを出す かかんおんにな ぜんぬめっ)
             松元 片栗

 節分のことを、鹿児島では「節替(せっが)わい」といって、昔は芋飴を食べたり、厄年の人が十字路に小銭をまくなど、独特の習慣があったようだ。ところで「鬼は外」などと豆でもぶっつけようものなら「角妻(つのかか)どん」の角がなお出るので、小銭を撒いたのである。これで「厄払(やっば)れ」終了。


不精者火鉢ち跨がっ団子あぶい
(ふゆしごろ ひばちまたがっ だごあぶい)
             川崎とろろ

 最近は火鉢にもめったにお目にかかれないけれど、股火鉢をきめこむ寒がり屋もいたものである。団子(この場合餅のことである)を焼きながら、その火鉢に跨って、火にあたっているのだから、まさに不精者、不作法者というか、始末の悪い寒がり屋である。その股の下から、醤油付け餅(しょいつけもっ)の香ばしい匂いがしてくる情景は、思っただけでも噴き出したくなる。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋


薩 摩 郷 句 募 集

◎4 号
題 吟 「 餞別(せんべっ)」
締 切 平成22年3月5日(金)
◎5 号
題 吟 「 貝掘い(けほい)」
締 切 平成22年4月5日(月)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:t01-arimura@city.kagoshima.med.or.jp
ホームページ:http://www.city.kagoshima.med.or.jp/


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