=== 新春随筆 ===
父 親 に な り ま し た |
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鹿児島県言語聴覚士会理事
鹿児島医療技術専門学校 言語聴覚療法学科
福永 陽平
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平成21年9月26日、予定より1週間早く父親になりました。長崎での里帰り出産でしたが喜びの瞬間に立ち会うことができました。
出産前日の一コマです。「今から教え子の○○君と飲むけど良いかね?」と妻にメールを送ったのは既にビールを1杯飲んだ後でした。「私の分も楽しんで来んね!」と妻から励ましのお言葉を頂き、妻の分もと張り切って酔いも最高潮を迎えた頃、妻からメールがありました。「ちょっと血の出たけん、今から病院に行ってくる」というものです。予定日は1週間後で、前日の妊婦検診の時は10月中旬までずれるとの連絡を受けていた私は「血って何の?」と馬鹿な質問を妻に返してしまいました。
アルコールが抜けるとともに何の血なのかに気付き始めたのですが、この状態で車に飛び乗り高速を走ったら、前科者パパになってしまうことは間違いなしです。「酔っておりました」ということで妻には許してもらうことにし、その夜は眠りにつきました。
「昼頃には産まれる」と朝5時に妻から電話がありました。その後しばらく、動物園のトラのようにキッチンと洗面所間を行ったり来たり。興奮冷めやらぬまま車に乗り長崎市の病院に着いたのは11時前でした。
薄暗いLDR室に入り、妻の腰をさすっていた助産師さんに状況を尋ねると、子宮口は十分なのに赤ちゃんが下がっていないとのことでした。疲労困憊の妻のそばに座り、妻のいきみに合わせて頭と手を握って手伝うのですが、赤ちゃんはなかなか下がって来ません。1時間後、入室してきた先生に妻の涙の懇願が始まりました。「先生お願いします。切って下さ〜い。一生のお願いです。」出会ってから8年になりますが、このような声色と表情で訴える妻を1度も見聞きした事はありません。人が人を産みだすことの大変さを感じるとともに、私を生んでくれた母への感謝の気持ちが湧きました。
午後1時を過ぎた頃、2人の医師が仰々しい機器類とともにLDR室に入って来ました。ちょっとだけ診るということで義母と共に退室を促されました。しばらくして、掃除機をかけるような音が聞こえ、元気な赤ちゃんの泣き声と妻の「私の赤ちゃん。可愛い。」という声がそれに続きました。喜びいっぱいの義母のハイタッチに涙で答えながら、心の中で妻と娘にありがとうを言いました。
初めてわが子を抱いた時、喜びとともに別の思いも浮かびました。この子が後20年もしたら自分の手を離れるという寂しさです。娘が産まれてすぐに知人の結婚式に参加しましたが、新婦さんが自分の娘のように感じてしまい嗚咽がでるほどに泣いてしまいました。嫁に出す父の気持ちになるのはまだ先の話ですが、そんな日が来るまで、私も子供の手本となれるように子どもと一緒に成長して行きたいと思っています。

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