=== 新春随筆 ===

国民のための政治

東区・紫南支部
(今村病院分院) 

     中島  晢
 現在の世相は全ての分野、すなわち個人、親子、兄弟姉妹、団体を問わず対立、不合理な摩擦等が多い。その最大の現象は政府の行政刷新会議における、いわゆる事業仕分けのやり方である。勿論世の中はみんな仲良し、御友達で全員が同じ考えで同一行動をとる事はあり得ず、若しそのような状態なら人類は進歩しないと言われている。従って合理的な人生哲学、思想心情、知識等に基づいて切セッ磋サ琢タク磨マし侃カン侃カン諤ガク諤ガクと議論するも良し、我が道を行くも良しである。しかし世の中の現実はあまり理詰で生きてゆくと政治にしろ、はた又事業や学問にしろ(いわゆるガリ勉で友達もいないタイプ)殺伐とした人間関係が構築されてしまう。医療の分野では医師同士が相手の立場に立って対話、協力、共感等が無いと医療連携がうまくゆかないであろう。同様に国民の幸福、健康のための政策は自民党、民主党、その他の政党も違いはない筈である。ただそれぞれの目的に達する手段、考え方の経路(Pathway)が異なるだけである。単に相手のやり方、考え方に反対の為の策動は賛成できない。このような立場から現在の世相をみるとどのようであろうか。例えば先だって行われた政府の行政刷新会議の事業仕分けのやり方も一考を要すると思われる。何故なら本来主権者の我々国民はどこかに置き去りにしたような感が無きにしもあらずである。確かに仕分けチームの分析で納得できる項目も多くあったが査定後に日常生活上不利な立場になる国民をどのように救済するかという行政上の委員会も設置すべきであろう。いわゆるマニフェスト(Manifest)にはこのような考慮が欠如しているように感じられた。現代社会で今、言われている事は人間関係やその他の面でルーブリケーション(Lubrication)(潤滑油を意味し、従って種々の摩擦や軋アツ轢レキをやわらげる事)が不足していると言われている。その事が小は個人と個人から国民と政府、政党と政党、そして大は国家と国家のぎくしゃくとした関係をもたらしている。我々医療従事者の診療や日常生活でも最近心身共にゆとりが少なくなり患者さんとの心のこもった意志疎通(Mindful Communication)を伴った診療が困難となっているようである。アメリカにおいても、特に医療の第一線で頑張っている、なかんずくプライマリーケア医(Primary Care Physician)はその60%が個人的に心身共に疲ヒ労ロウ困コン憊パイの状態にあり、いわゆる燃え尽き症候群(Burn-out Syndrome)を呈していると報告されている。このままの状態では患者さんの不満、医療ミスの増加、その結果の医療訴訟のリスクの高まり等が懸念されているが、我々にとっても他人事とは思えない。これらの解決、特に患者さんとの関係でストレスの元凶を除去するには患者さんとの間で従来の説明と同意(Informed Consent)のやり方よりも対等の話し合いの関係、いわゆる(Narrative Consent)の確立がより重要だとされているが、それにはそれなりの時間とエネルギーを要しさらに1日に診察治療する患者数の制限もあり、そう簡単ではないであろう。アメリカのミネソタ州ロチェスターにあるメイヨークリニックのTait Shanafelt准教授によると臨床医は国家的な医療制度改革が進むなかで今後数十年間さまざまな困難に直面するだろうと指摘し、さらに臨床医の多くは仕事を休んだり診療範囲を狭セバめたり、あるいは退職するなど仕事から離れる事によって燃えつき状態に対処していると述べている。同准教授は医師には医療行為の中で最も神聖で重要な側面、すなわち患者の健康を回復させたり苦痛を軽減させる行為を継続していく事が求められるとも記述している。どの政党による政策と言えども政権政党はこのような実態に基づいて医療政策を立案すべきであろう。かつて英国の哲学者で且つ法学者のジェレミ・ベンサム(Jeremy Bentham、1748−1832)は「最大多数の最大幸福」なる原理を主張しこれは道徳と立法の基盤であるとした(The greatest happiness of the greatest numbers is the foundation of morals and legislation)(Wikipediaより)。すなわち良い法律をつくるためには良い議会にする必要があり、真に良い議会となるには多数の国民の政治参加が望ましいと述べている。我々も現在の政治の有り方や政策立案に、もっと関心を持って自ら仕分け人になったつもりで選挙権を含めた国民の権利を行使し、その他大いに政府に「物申す」意識を涵カン養ヨウしたい。科学関係予算の削減とか医師処方の漢方薬の保険適用から除くとかの発想など私には全く理解できない。平成22年は理想的な、国民全体が幸せを享受できるきっかけの年になるよう期待しています。




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