1. プロローグ
旅心に誘われて9月末から10月初旬にかけて、“秋色のCanadian RockiesとMaple紅葉ハイキング”という8日間の旅に出かけた。成田19:30発のAir Canadaで翌朝11:30バンクーバー空港に到着(時差16時間)、国内線でカルガリー空港へ飛び、車で約2時間かけてバンフに到着した時はすでに19時を過ぎていた。実はバンフには1972年7月、2年間の米国留学を終え帰国の途中家族と共に訪れたことがあり、なんと36年ぶりのsentimental journeyであった。今回は11名のツアーの一員としてバンフ周辺の黄葉を鑑賞しながらの山歩きが目的だが、2008年8月後期高齢者(今更ながらむかつくネーミングではある)の仲間入りをしてしまったので、一行の中では心ならずも最高齢者となっていたようである。
2. バンフ
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写真 1 バンフの街
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バンフは標高1,380m、カナディアン・ロッキー観光の大きな基点の一つで、町はランドル山(この地でキリスト教の伝道に一生を捧げたRundle牧師の名前がつけられている)とカスケード山に抱かれるように広がっている。ホテルやレストラン、ショッピングモール、それに先住民の歴史や文化を物語る博物館などにも事欠かない。Banff International Hotelに3泊したが、ホテルといえば、36年前に初めて訪れた時にはサルファ山の中腹に位置し、さながらヨーロッパのシャトーを思わせるBanff Springs Hotelに宿泊した記憶が残っている。今回はボウ滝(マリリン・モンロー主演の映画“帰らざる河”のロケ地に使われた)の近くから相変わらぬその威容を遠く眺めただけであったが、このホテルのすぐ近くにボウ河と自然の起伏を利用した美しいゴルフコースがあり、日本人の利用客も多いとか。
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写真 2 バンフ スプリングス ホテル
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3. 大陸横断鉄道
アルバータ州の東西を縦断する形で鉄道が走っており、ジャスパー以外にバンフに停車するルートがある。実はバンフ駅の周辺では深夜でも警笛を鳴らし、貨物列車の運送中にこぼれた小麦目当てにバッファローや鹿などの野生動物が線路内に入って来て列車に撥ねられないよう注意を促している。動物達を守るため自然保護団体が穀物業者に強く働きかけた結果とのこと。
4. グルメ
カナディアン・ロッキーの東に広がる平原地帯は、世界的に有名なアルバータ牛のふるさと。2日目にホテルの夕食のメニューにステーキが登場したが、その味の程はむしろ3日目の夜、街に出かけてトライしたバッファロー(アメリカン・バイソン)の方が肉質は想像以上に柔らかく美味であった。バッファローといえども今では牧場で飼育されているのであろう。
5. ヤムナスカ・メドー黄葉ハイキング初日(標高差500m、歩行距離往復9q、5〜6時間)
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写真 3 ヤムナスカ山
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| 写真 4 アスペンの黄葉 |
その昔先住民がよく狩をしたカナナスキスの岩山の近辺までポプラの深い森の中を歩く。途中黄金色に黄葉したアスペンの葉と白樺そっくりの白い幹のコントラストがとても美しい。途中には急な登りもあり息があがるが、やがて森を抜けると遙か遠く山々が繋がり、眼下には見渡すかぎり草原と湿原が広がっている。見晴らしの良い緩やかな斜面からはハート型をしたその名もハート・レークが眺められた。この日のハイキングの到達地点である垂直に聳え立つヤムナスカ山(2,800m)の岩場ルートの直下で、折からの強風に吹き飛ばされないように気を配りながら、大きなおにぎり2個が入ったボリュームたっぷりの和風ランチを残さず平らげる。帰りは同じルートでゆっくりと下山する。午後はボウ河の激流とその背景をなす遠く雪を戴いた山々の雄大な景色を観に行く。
6. ハイキング2日目、レイク・ルイーズからリトルビーハイブへ(標高差500m、10q、5〜6時間)
ロッキーの宝石と称されるレイク・ルイーズの名前の由来は、湖畔に映るビクトリア氷河(つまりビクトリア女王)が残した湖に女王の娘ルイーズの名前がつけられたとガイドが説明してくれる。後程出現するアグネスも娘の一人とか。レイク・ルイーズの右手を迂回して歩くうちに、湖畔に映る唐松林がさながら鏡面像のように映るミラー湖から登りになる。途中唐松の美しい黄葉と、所どころ見え隠れするレイク・ルイーズのエメラルドグリーンに輝く湖面を眺めながら歩くうちに、やがてリトル・ビーハイブ(2,210m)に着く。山頂からはロッキーの山々が壮大な自然のパノラマとなって眼前に迫る。下山途中レイク・アグネス湖畔で、湖面に映る美しい景色を見ながらピクニックランチを食べる。同じルートで下山してハイキングを終了した後、美しい氷河湖モレーン・レイクへ移動する。湖を囲むテンプル山、テン・ピークスや沢山の山々から流れ込む水を常時満々と蓄えているモレーン・レイクの眺望を欲しいままにする。
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写真 5 レイク・ルイーズ
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写真 6 ロッキーの山と唐松の黄葉
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写真 7 レイク・アグネス
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写真 8 モレーン・レイク
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7. 旅行4日目
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写真 9 ハンツビルの湖とホテル
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7:45バンフを出発、カルガリー空港から11:35国内便でトロントへ向けて、広大な北米大陸を西から東へ3時間の時差を消化しながら飛ぶ。17:00トロント空港に到着。
バスでトロントの市外を北西へ走ること約300q、すでにとっぷりと日の暮れたハンツビルの静かな美しい湖の畔にある、Hidden Valey Hotelに到着したのは20:40であった。
8. アルゴンキン州立公園内ハイキング
元々カナダは人口密度が世界で2番目に低い国であり、この公園にしても入口から出口まで60qもある実に広大な面積を占めており、全山真っ赤に萌えるスケールの大きな紅葉鑑賞が目当てで、遥々カナディアン・ロッキーから移動して来た次第である。さらに美しい森と湖を散策しながら、あわよくばムース(アメリカへら鹿)やビーバーなどの野生動物にも出会えるかもしれないという強い期待感がある。
9. ルックアウトトレイル(約2qコース)〜ビジターセンター
紅葉の主役はほとんどが楓で、カエデにはサトウカエデ、レッドメープル、ウリハダカエデなどがある。その中でも鮮やかな紅色の色彩を示すのはレッドメープルで、さらにオスとメスがあって、美しいのはオスのレッドメープルだそうである。ところで、カナダといえばメープルシロップをすぐに思い浮かべるが、サトウカエデ(sugar maple)の樹液を40倍に濃縮して精製したものが、メープル・シロップとなる。
以上がアルゴンキンの案内役を務める現地のnaturalist佐久間氏から、森の中を歩きながら最初に教わったメープルについての基礎知識である。生憎の雨模様の天気ではあったが、森の樹々の空間を真っ赤に埋め尽くすメープル紅葉の林と、まるで絨毯を敷き詰めたような真っ赤な落ち葉の堆積を目の前にして、あまりの美しさに思わず感嘆の声を上げる。ランチの後で、佐久間氏から州立公園内に生息するムース、ビーバー、狼などの動物達の生態系について説明を受ける。因みに狼について興味のある話を聞いた。すなわち、世界中で国立公園指定第1号のイエローストーン国立公園(数年前、留学中の次男一家と訪れた)では、かつて狼による放牧羊の被害に対して徹底した駆除が行われた結果、狼が完全に絶滅してしまった。ところが、これまで狼の餌になっていた鹿が異常に繁殖してしまい、植物が大量に食い荒らされて、今度は植物の生態系に大きな影響が現れた。そこでアルゴンキンから狼20頭をイエローストーンに移し繁殖させたところ、現在では200頭にまで増えて、それと共に動植物の生態系全体が以前のように回復したそうである。このことは野生動物の生態に人間が安易に手を加えることの愚かさを如実に示すものといえよう。午後からビーバーポンドトレイル、2qコースを歩きビーバーダム2カ所を見物し、ハートウッドトレイルに至る。それにしてもビーバーは土木事業の類稀なるエキスパートではある。そして森の内外、湖の周辺の紅葉度まさに100%といえる鮮やかな彩りで、地元のガイドの話ではこれだけ完璧な紅葉はこの時期でも珍しいとのこと。一同大いに満足。
10. アルゴンキンハイキング2日目 ロックレイク、ブースズロックトレイル(5.1qコース)そしてエピローグ
天気もすっかり回復して、カエデ、トウヒ、カバ、ツガの森と湖、ビーバーダムなどを観察しながら歩く。途中でムースの足跡と狼の糞を見つける。高台から眺める湖周辺の全山紅葉の景色は、さすがカナダならではのスケールの大きな一幅の紅葉図というべきか。この雄大な景色はちっぽけなカメラでは到底撮りきれない感じである。
13:50ビジターセンターを出発、17:25トロント空港近くのDouble Tree Hotelに到着し全員で最後の夕食をとる。カナダ産ワインに心地よく酔い、今までに無く会話が弾む。夕食を済ませた後、近頃トロントで人気上昇の寿司ピザを食べてみたが中々の美味であった。このメニューを日本に持ち帰って商売すれば、おそらくヒット商品になるのでは?翌朝アイスワインやメープルシロップなどの土産を沢山提げて、トロント空港より直行便で秋色濃いカナダでの思い出を一杯胸の内に抱えながら帰国の途へ就いた。
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| 写真10 ガイドを囲んで |
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写真11 紅葉と湖 |
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