=== 新春随筆 ===
夢 と 希 望 を も っ て |
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アメリカの大統領選挙も無事に終わり、バラク・オバマ氏が次期大統領に選出されたが、民主・共和両党の正副大統領候補4名全員が自分自身の健康に関しての報告を選挙民に公表しなかった事が話題になっている(The
candidates have not been sufficiently open about their health.)。全員が健康に全く問題が無かったので公表しなかったのか、それとも逆に何か健康に異常があるのではと報道されている。
最近アンチ・エイジングという言葉が盛んに言われているが人間年をとってくると髪はうすくなり、白髪、しわ、皮膚のしみ、老眼等の出現は自然な事だと理解し、自然のままに、心身共にあるがままに健やかに暮らすべきであろう。
我々医師は時として「出来るだけの事はやって下さい」という患者さんの家族の要求に、気持ちが分からないでもないが自然の摂理にそぐわないような気がして困惑する場合がある。
高齢化の現象はわが国では政治を行う際には医療や福祉の問題と関連させて国の政策の優先順位の第一に位置づけて政策を行うべきであろう。加齢を積み重ねて「美しく老いる」事は名誉で、誇るべき事であり、いわゆる高齢者の方々はもっと胸を張って正々堂々と、若者を睥睨へいげいしながら生きる権利がある。現在の日本の繁栄をもたらしたのは我々だという自負心も持つべきであろう。それには勿論完全と言わないまでも、日常生活は家族や他人の助けなしで送れるだけの健康が必要であるが、この点においてこそ我々医療人の存在価値がある。
世界一の長寿国となった日本国だが国の医療政策は「美しく老いる」事に適切に対応しているとは思えない。多くの医師が過労の状態にありながら職務に対する責任感・義務感、そして人間愛にあふれてまじめに医療に取り組んでいる。然るに我が国の首相は何を血迷ったか全国知事会議で「医師は社会常識がかなり欠落している人が多い」と発言したそうである。私の耳には自分の事をおっしゃっているのではないかと聞こえたのであるが、案の定週刊誌等に「首相のマンガ脳」だとか、出身大学の学習院大学のOBからも「マンガばかり読んで、学習院の恥、おばか首相」と言われる始末である。
その他「俺は自分の金があるからホテルのバーで毎晩酒を飲んで云々…」や「たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」発言等、何とも評価の仕様がない。首相一族の経営する医療機関のドクターの方々の判断を知りたい。我々は大人の対応であまり気にせず聞き流したほうが良いかも知れない。我が国の指導者は現代社会の早い変化について行けないのかも知れない。
GNP(国民総生産)世界第2位、外国保有資産第1位、外貨保有高は中国についでわずかの差で第2位、国連分担金はアメリカについで第2位の大国である。そして世界でトップクラスの長寿国でもある。このような国をリードして行く、賢明で実行力のある指導者の出現がまたれる。
現代の国民生活は衣・食・住の三原則に情報・交際・遊びが加わって6原則によって成り立っていると言われている。どうやら我が国の首相は全てにめぐまれた環境に育って庶民の日々の生活における努力を御存知ないようである。国連の世界人口推計によると2050年には世界の人口は約91億人となり平均寿命・高齢化率共に現在より上昇傾向にあるという。高齢化率(60歳以上の人口)は3倍近くに増えると予測されている。我が国はこの数字以上の高齢化率となるであろうが何も懸念する事なし。大いに高齢者の培った長年の経験と英知を利用し、長寿国を堅持する医療制度で我が国を発展させる目標を我々が持つべきである。政治はあまり当てにしないほうが良い。
医療政策は全世界の多くの国でそれぞれ問題をかかえているようである。広く知られているのがアメリカには公的健康保険といったような制度は無く(老人及び低所得者に対する政府の補助的な保険、すなわちメディケア、メディケイドはある)約6千万人の無保険者がいる事、乳幼児死亡率が先進国の中で一番高い(日本やスカンジナビア諸国よりかなり順位が低くて29位)である事、いわゆる女性の産休の制度がやはり先進国の内で最低(オーストラリア:1年間、但し給料はなし。ベルギー:15週、75.8%の給料。カナダ:17週、55%の給料。チェコ:28週、69%の給料。フィンランド:18週、65%の給料。フランス:12〜26週、100%の給料。ドイツ:14週、100%の給料。イタリア:5ヵ月、80%の給料。日本:14週、60%の給料。スペイン:16週、100%の給料。スウェーデン:78週、80%の給料。そしてアメリカは12週の産休しか与えず、その間給料は無し(unpaid)である。)であり、その反面、医師を近頃よく耳にするミシュランのレストランのような格付け(例えば契約者が3千5百万人といわれる医療保険会社Wellpointは医師を30点満点で評価するシステムを作っている。)や患者が医師について不満・苦情を書き込むことができるウェブサイトもあって、これは診療費の支払い高にも影響し、医師の側ではこのようなランク付け制度は最も質の高いケアに対してではなく診療費が最も安い医師に高い評価を与えているにすぎないと主張している。
一方、発展途上国ではせっかく国費を使って養成した医師がアメリカや英国に出稼ぎ(その国に医療保険制度がなく、国民も医療費が払えないため)に行く始末である。看護師も又然りの状態で、この件に関しては我が国も出稼ぎ先の国となろうとしている。最近はさらにもう一つの現象としてインターネットで自覚症状に基づいて検索し、一番重症の自己診断(例えば頭痛があれば脳腫瘍だと短絡した自己診断をしてノイローゼになる)をする傾向があると言われている。この現象はHypochondriasis(ハイポコンドゥライアシス:心気症と訳される事が多い)になぞらえて(Cyberchondria…サイバーコンドゥライア…インターネットの症状により診断する情報から最悪の病気を自らにくだしノイローゼになる)と最近呼ばれている。主として頭痛と胸痛に関する自己診断の病気が多いとの事でマイクロソフト社の統計によるとアクセスの約2%(25万人)が健康状態に関するもので(他の統計では利用者の4分の1との報告もある)。かくの如く人類社会から病気が無くなるという事はあり得ず、各国共に医療に関しては種々の問題をかかえているが我々も問題に立ち向かう努力と強い意志・団結が必要である。
医師不足や医療環境の悪化は熱意だけでは解決できないが、少なくとも希望を持って新年を迎え、日本の医療の未来は我々の手に取り戻すよう皆で協力して行きましょう。我々は永久、現存の政治家や首相はその内にいずれ消え去るのですから。
栄光は我々の前途にあり!

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