随筆・その他
猫 に 小 判 か ? 後 章
(新しいオーディオシステムの稼働)
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本誌今年8号の緑陰随筆に「猫に小判か?(新しいオーディオシステムに寄せて)」という小文を掲載して頂いたが、その後章:果して小判は認識されたか?である。
KLIMAX DSはその設定に必要と思われる無線LAN子機などを取り揃えて待っていたが、思ったより早く納品された。
新しいオーディオプレーヤー・DS(デジタルストリーム・ネットワークプレーヤー)はNAS(ネットワーク機能を持ったハードディスク)に蓄えた音源を用いるが、DSとNASをコントロールするPDA(小型の携帯情報機器)とパソコン及びインターネット、これ等5種をネットワークして連携する。最初NASを(僅かながらハードディスクの動作音がするのでオーディオ室から遠ざけたいのと、リッピングに都合が良いので)2階のルーターの傍に置き、1階のDSその他とは無線LANで通信する積りであったが、拙宅は鉄筋2階家なので、密度の高い音楽ファイルを飛ばすのには無線LANは遅すぎて、所謂トラフィック・ビジィーの状態となり失敗であった。
色々試行錯誤を重ねたが、最終的には次の設定で完璧に稼働するようになった。1階のDSとNASを無線LAN親機のルーターに有線LANで繋ぎ、その親機と2階のブロードバンドルーター(インターネットと他のデスクトップパソコンが接続している)とはPLC(コンセントから家庭内交流100vの電線を介して離れた所にあるコンセントに高速通信を行う小さな機器)で接続されている。PDAとパソコン(無線LAN機能を持った)は無線LAN親機とwirelessで接続し、そのルーターを介してDS及びNASと交信する。実際の運用は、PDA(又はモバイルパソコン)でNASのデータを呼び出し、プレーするファイルを選び、DSで(D-A変換して)プレーさせる。その前に、パソコンのCDドライブにCDを入れ、リッピングソフトを用いてロスレスでNASにWave又はFlacのFormatとして蓄える。CD(全てのCDでは無いが)のタグ情報(CD名、アーティスト名、年代、カバーの絵など)はインターネットから取り込んで保存される。LINN RECORDのスタジオマスターの音源はサービスでNASに入れてくれており、他のソースからの音源はインターネットでダウンロードしてNASに蓄える。今のところ、高音質(ロスレス)の音楽配信販売サイトは少ないが、将来は、多くのレコード会社が新しい曲だけでなく保存してある名演奏のスタジオマスター音源を配信するだろうと言われるので楽しみにしている。
設定に手間取ったが、果してDSの音は如何か? 数多くの作曲者・指揮者・演奏者・オーケストラ、同じ演奏者・指揮者でも録音年の異なるもの等、色々試して聴いているが、前章でも述べたように、同じCDの音源から取ったものなのに、こんなにも違うものかと驚くことが多い。一部を聴こうと思っても、つい、全曲を聴いてしまう。唯、元のCD音源以上の音は出ないのは当然であるが、素晴らしい演奏の場合、レコーディングの良し悪しを超えた感激の度合いはDSで更に高まる。ジネット・ヌボー(僅か30歳の時飛行機事故で夭折したフランスの天才ヴァイオリニスト)の残された録音は、当時は未だモノラルで録音技術も幼拙なものだが、彼女のショパン・ノクターンを寝る前に聴くと感激が残って中々寝付けない。ラベルのツィガーヌやブラームスのヴァイオリン協奏曲等も諏訪内やハイフェッツ以上に感激する。
内田光子のサントリーホールでのベートーベン・ピアノソナタコンサートではラストスリー、30・31・32番、即ち、ベートーベンが最後に作曲した三つのソナタを弾いて、「沈黙の彼方に消えてゆく」という劇的なフィナーレを演じたこと、鹿児島県医師会報H18年11月号の「名演奏に涙する(続)」に書いた。Artur Pizarroというポルトガル生まれの有名なピアニストが、同じ3曲を録音したもののスタジオマスターがこのNASに入っているので、内田のCDをリッピングしたものとで聴き比べてみると、スタジオマスターのダウンロードはさすがに美しい音色ではあるが、Pizarroの演奏は内田のように胸に迫ってくるものを感じない。内田の演奏を聴いていると、サントリーホールでのコンサートのあの感動が蘇ってくる。
先日発売されたばかりのサイモン・ラトル指揮、ベルリンフィル演奏のベルリオーズ・幻想交響曲のCDが入荷したので、早速リッピングした。NASにはミュンシュ指揮・ボストン交響楽団(1954年)、カラヤン指揮・ベルリン交響楽団(1975年)の幻想交響曲も入れてあるので、この三様の幻想交響曲・第2楽章を聴き比べてみた。それぞれの指揮者・オーケストラによる特徴・優劣をDSは良く再生してくれるが、ミュンシュ・ボストンは54年前の録音で、録音に多少の瑕疵はあっても、最も美しく心に響く演奏である。このミュンシュ・ボストンの幻想交響曲は49年前ニューヨークのカーネギーホールで生演奏を聴いているので殊に印象深い。
DSにはCDドライバーは無いので、PDAのディスプレー上でタッチペンを用い、NASに保存してある音楽ファイルを呼び出してプレーするだけであるが、容易に好きな曲の好みのトラックを選んで楽しむことができる。
N響アワーで韓国の女性ヴァイオリニストがチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を上手に弾いていたのに刺激されて、手持ちの3人のチャイコフスキー・ヴァイオリン協奏曲をDSで聴いてみた。諏訪内晶子が1990年チャイコフスキー国際コンクールで優勝した時のガラ・コンサートのCDはライブ録音で状態は余り良くないのだが、18歳の諏訪内の演奏は若さと希望に溢れたもので、チャイコフスキー・コンクール史上最年少で、審査員全員一致の優勝であったことが、さすがにと頷かれた。2004年アンネ・ゾフィー・ムターがウィーンフィルと弾いたのはベテランの味があり、ハイフェッツがシカゴ・交響楽団と協演したのは1957年の古い録音であるが、余人をもって代えがたい絶妙の演奏である。
オペラのアリア等ヴォーカルも良い。マリア・カラス、ドミンゴ等の歌声はDSならではの響きを持っている。トゥーランドット・トスカ等のアリアは感動的で、オペラの映像を見たい衝動に駆られる。その他ノン・クラシカルのスタジオマスター(殆ど24ビット、96kHzの高音質)もNASに入っているのでジャズ等も楽しみたいと思っている。CDからリッピングした森山良子の歌声は素晴らしく、初期に出した「この広い野原いっぱい」を聴いたコーラス団員のある女性は思わず涙をこぼされたし、長野冬季オリンピックの開会式で世界中に流された「When Children rule the World(明日こそ、子供たちが・・・)」は当日の興奮を思い起こさせる。
唯、DSを聴いていて、オーケストラのフォルテで音が濁るとか、LP党が嫌うデジタル音を感じることも偶にある。然し、これはCD(デジタル録音、デジタル再生)の持つ宿命か、或いは、パワーアンプで増幅されたアナログ音が帯域分割されてそれぞれのスピーカーに入ってゆく際50%位のロスと、又、歪みもあるというが、DSの様な精巧なプレーヤーはこのパッシーブ・スピーカーの弱点を顕示してしまうのかもと思う。アクティーブ・スピーカーは既に実用化されているが、この場合、各スピーカーに個々のパワーアンプが付いており、プリアンプからのソースは電子的に帯域分割が行われ、それぞれのパワーアンプで増幅されてスピーカーを鳴らすので、プレーヤーの出力が殆ど100%スピーカーからの音になるという。前のプレーヤー・UNIDISK 1.1でアクティーブ・スピーカーを鳴らすデモに立ち会ったことがあるが、その時はプレーヤーの弱点が出て、アクティーブの良さが味わえなかった。KLIMAX DSでアクティーブ・スピーカーを鳴らしたらどんなことになるだろうか?興味は尽きないが、そこまで行くと「病膏肓に入る」ということになり、余命を考慮しなければならない。
とにもかくにも、KLIMAX DSは私にも小判であることが認識され、古今の名演奏を良い音で楽しめる幸せを有難く思っている。

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