天
錦江支部 城山古狸庵
孫煩悩手術ちゃさせんち爺は叫っ
(孫煩悩 しじゅちゃさせんち じはおらっ)
(唱)涙を出せっ医者しぇ頼ん込ん
(唱)(なんだをだせっ いしぇたのんこん)
お孫さんが病気で、それも命にかかわる重病なのかもしれません。元気になる為には手術が必要だと、診断の医師から家族にそのことが告げられたのでしょう。
愛する孫の体にメスが入れられる痛々しさを思うと、本当に手術でないといけないのかと詰め寄り、手術に反対する祖父の気持ちが、生々しく詠まれています。
地
上町支部 吉野なでしこ
捨てぜりふ煩悩ん無かち溜息く衝っ
(すてぜりふ 煩悩んなかち ういくちっ)
(唱)気持ちゃ届かじ残念じゃらい
(唱)(きもちゃとどかじ 残念じゃらい)
人間関係の難しさを感じさせられます。
人と人が普通に良い関係を保っていたのに、何かの利害関係がこじれてしまったのか、ある事で意見の食い違いや衝突があって、一方的に激怒したのでしょう。
聞きたくもない捨てぜりふに、思いは通じなかったかというむなしさが詠まれていて、真実味がよく出ています。
人
伊敷支部 矢上 垂穗
色男増ゆい煩悩い心配と後悔
(色男 ふゆい煩悩い せわとくけ)
(唱)俺どま持てじ心配どま要らじ
(唱)(おいどまもてじ せわどまいらじ)
持てない男も辛いでしょうが、持てる男も辛いだろうなと、想像はできます。
男女関係を観察していますと、持てる男はとにかく忠実(まめ)です。そのアタック精神は、まさに鳥の求愛のようです。
一方色男は自然体で持てて、その持て過ぎる色男の悩みが羨ましいやら、反面同情したくなるようなユニークな句です。
五客一席 紫南支部 紫原ぢごろ
横道者の横綱ね育えたくそ煩悩
(おどもんの よこづねおえた くそ煩悩)
(唱)甘め親方を嘗め限い嘗めっ
(唱)(あめ親方を なめかぎいなめっ)
五客二席 武岡 志郎
きかん太郎れ拳骨つ呉るっ爺の煩悩
(きかんたれ とんこつくるっ じの煩悩)
(唱)頭て愛情を叩っ込ませっ
(唱)(びてあいじょを たたっこませっ)
五客三席 大崎町 植村聴診器
反抗期親ん煩悩が煩しゅし
(反抗期 親ん煩悩が やぜろしゅし)
(唱)成長過程親離れじゃっ
(唱)(成長過程 親離れじゃっ)
五客四席 錦江支部 城山古狸庵
煩悩かけ育えた子供な見ちゃくれじ
(煩悩かけ おえたこどんな 見ちゃくれじ)
(唱)親が思ごっいかんとも娑婆
(唱)(親がおもごっ いかんとも娑婆)
五客五席 清滝支部 鮫島爺児医
良か友人も嘘を言われちゃ煩悩無し
(よかどしも 嘘をゆわれちゃ 煩悩のし)
(唱)一時か顔も見ろごっも無か
(唱)(いっとかつらも 見ろごっもなか)
秀 逸
清滝支部 鮫島爺児医
煩悩も無北朝鮮とアメリカ仲良ゆしっ
(煩悩もね きたとアメリカ なかゆしっ)
犬猫も煩悩掛くれば上手も懐っ
(いんねこも 煩悩かくれば うもなちっ)
老夫婦煩悩無か小言平然言っ
(おんじょみと 煩悩無かぐぜ しれっゆっ)
大崎町 植村聴診器
両方とめ煩悩も無顔倦怠期
(まんぼとめ 煩悩もねつら 倦怠期)
煩悩も無亭主の賄賂で見栄を張っ
(煩悩もね てしの賄賂で 見栄を張っ)
紫南支部 紫原ぢごろ
オレオレい煩悩ですたっ騙されっ
(オレオレい 煩悩ですたっ だまされっ)
人道の煩悩で北朝鮮い米送い
(人道の 煩悩できたい こめおくい)
伊敷支部 谷山五郎猫
勝手猫けけ死ん前へなっ涌っ煩悩
(かってねけ け死んまへなっ わっ煩悩)
ネオン街ゆ煩悩ん魂徘回っちょっ
(ネオンがゆ 煩悩んごろた さるっちょっ)
上町支部 吉野なでしこ
捨て猫い煩悩が移っミルクやい
(捨て猫い 煩悩がうつっ ミルクやい)
錦江支部 城山古狸庵
煩悩ん無猪ん雑煮を食残せっ
(煩悩んね ししん雑煮を くのこせっ)
武岡 志郎
若け客きな婆ん煩悩で沢山盛っ
(わけきゃきな ばばん煩悩で ずばっもっ)
作句教室
課題の「煩悩(ぼんの)」は解釈のしかたが少しむずかしく、作句に頭を悩ませてしまいました。改めて辞典で意味を調べてみますと、国語辞典では「仏教修業、精神安静のじゃまとなる一切の欲望・執着や怒り・ねたみなど」とあり、橋口満著の鹿児島方言大辞典では 「愛情・思いやり・かわいげ・親愛感、仏教語のボンノウ(煩悩)の転義、転訛」とあります。他に取り上げられていることばは、ボンノガネ、ボンノガキユイ、ボンノヲカクイ、ボンノンナカなどがありました。
投句の作品を見ますと、ほとんどが、方言で使われている「ボンノ」の意味で作句されていました。今回出題にあたっては、本来の「煩悩」と方言の「ボンノ」では意味あいが異なることは頭にありましたが、方言の意味も含む広義にとらえた「煩悩」としました。しかし、ことばの解釈の混乱をさせないためには、方言で使われる「ボンノ」は、「愛情(ぼんの)」と字を当てた方が分かりやすかったのかもしれません。
「愛情(ぼんの)」で投句された方もありましたが、今回は「煩悩(ぼんの)」で統一いたしました。
薩摩郷句鑑賞 12
入試前亭主の卵も子い食せっ
(しけんまえ てしの卵も 子いかせっ)
小石 巌
高校入試も、今月から始まる私立高校を皮切りに、三月にかけて息の抜けない日が続くことであろう。また、その家族にとっても落ち着けない時期である。流感で寝込まなければよいが、疲れてコンディションをくずさねばよいがと。
この句は、受験生をもつ母親の気持ちを、ユーモラスに描きながら、笑えない真実味もある。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋
薩 摩 郷 句 募 集 ◎4 号
題 吟 「 薬(くすい) 」
締 切 平成20年3月5日(水)
◎5 号
題 吟 「 髭(ひげ) 」
締 切 平成20年4月4日(金)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892−0846
鹿児島市加治屋町三番十号
鹿児島市医師会『鹿児島市医報』編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:y-ishigaki@city.kagoshima.med.or.jp |
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