=== 新春随筆 ===
今 こ そ 薩 摩 か ら『 医 療 一 揆 』を |
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中央区・中洲支部
(堂園メディカルハウス)
堂園 晴彦
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私は最近講演で、患者さんに「患者一揆」を起して欲しいと訴えています。
私達がいくら医療再生を叫んでも、患者さんは「また、医者が金儲けのため」としか思ってくれません。全国の病院、診療所の前に
「私達は厚労省のご指示通りのことをしております」
と、張り出したいくらいです。
以前は薩長同盟を実現した坂本竜馬に憧れ「医師会と厚労省同盟」実現の立役者を夢見ていましたが、最近は、大塩平八郎のように「患者一揆」を扇動しようかと思っています(笑)。皆が、最後は磔だから止めろ、と言ってくれますが。
司馬遼太郎氏は「医学が変えた日本」のなかで、
「鎖国が国是の江戸時代において、医学は『人助けの技術』であると同時に、西洋を知るための『装置』でもあった。この装置を通じて日本に移植された『自由』、『平等』、『民主主義』といった考え方は、その後、幕末の日本を大きく揺るがすことなる」と、1988年順天堂大学での講演で語っています。
日本の医療の将来を危惧している時、李啓充先生の文章にめぐり合いました。映画「シッコ」でもわかるように、アメリカの医療の失敗を私達医師会が国民に語ることで、製薬会社と保険会社と厚労省に牛耳られそうな日本の方向性を国民に示したいものです。
以下、李先生の論文の抜粋です。
Power to the Seniors!
李 啓充(医師/作家(在ボストン))
(週間医学界新聞〔連載〕アメリカ医療の光と影
第90回2006年8月21日第2695号より)
『私は、当地で種々雑多の雑誌を購読している(略)。私が、配達されるのを一番に楽しみにしている雑誌は『AARP・ザ・マガジン』である。
米国では、50歳以上の壮・高年層は、全人口の4分の1を占めるが、このうち約半数、3 , 5 0 0万人がAARP(American Association of Retired Persons)会員であるといい、全会員に配布される機関紙『AARP・ザ・マガジン』は、雑誌として「世界最大の流通数」を誇っている。
| 国民に真実を伝えるために、医師会で毎月、せめて季刊で無料の雑誌を作成し、外来か街頭で配布してはどうでしょうか。鈴木厚志先生は自著を日本医師会総会で配布しています。 |
◎AARPの果たしてきた役割
この雑誌、高齢者・高齢者予備軍に対する生活・財政上のアドバイス等、内容に興味が尽きないことはもちろんだが、表紙も毎号おもしろい。例えば、今年5/6月号の表紙を飾ったのは、元ビートルズのポール・マッカートニーだった。「When Paul is 64」のキャプションが添えられていたが、名曲「When I'm 64」にちなみ、6月に64歳になったマッカートニーに表紙を飾らせたのは言うまでもない。マッカートニーの表紙を見ながら、私は、「ジョン・レノンが生きていたら、全共闘のヘルメットをかぶらせて、『Power to the Seniors!(高齢者に権力を!)』とキャプションを振ったのだろうか」と夢想にふけったものだった(レノンは、71年に「Power to the People(人民に権力を)」をリリースした時、ジャケット写真で、「叛」と書かれた全共闘のヘルメットをかぶった)。
私が高齢者の政治活動を鼓舞するレノンの表紙写真を夢想したのも、AARPは高齢者アドボケートとして、政治活動にもきわめて積極的だからである。例えば、第2期政権発足時、ブッシュ大統領が内政の目玉政策として「公的年金民営化」を打ち出した時も、「ヨーロッパで民営化した国では、年金運用の手数料を得た民間会社だけが潤い、国民は損をした」と猛反対するキャンペーンを展開した。最大のステークホルダーたる高齢者・高齢者予備軍を代表するAARPが反対に回ったため、ブッシュは、その目玉政策をあっという間に潰されてしまったのだった。(略)
| 無料雑誌の表紙には白血病から生還した渡辺 謙や喉頭癌から復帰した忌野 清志郎、腎臓癌の手術を克服しリングへ立った小橋健太等を起用し、医療の力を国民に知らせるアピールも必要でしょう。 |
高齢者の医療保険については、65年に連邦政府が税金で運営するメディケアが創設され現在にいたっているが、市場原理で医療が運営されている米国にあって、こと、高齢者の医療保険に限っては「皆保険」が建前の日本よりも手厚い制度が用意されているのも、AARPが存在したことがその最大の理由となっているのです。
◎いま、すべきこと
翻って日本の現状を見た時、日本では、医療がおかしな方向へ向かおうとしているのに、最大のステークホルダーたる高齢者には、政治的パワーが一切認められていないように見えてならない。先般国会で成立した医療制度改革関連法案にしても、高齢者の声がまったく聞こえてないまま、国会を通過してしまった。日本にもAARPに相当する組織が存在していたならば、医療制度改革にしても、財務省・財界の「ゴリ押し」がここまでまかり通る結果にはならなかったのではないかと思えてならない。
いま、団塊の世代が高齢者・高齢者予備軍を形成していることは、日本も米国も変わらない。AARPが巨大なパワーを握り、医療や年金を守っている米国の団塊世代と比較した時、「学生時代はヘルメットをかぶって暴れ回るほど元気な世代であったはずなのに、日本の団塊世代は、自分たちの命を守るべき医療がおかしな方向へ向っていることについて、何でこんなにおとなしくしていられるのだろうか」と、私には不思議でならない。
| ここまでアメリカの医師に書かれ、私は「はい、お説御尤も」と、薩摩の人間として黙っているわけにいかず、この文章を書いています。 |
日本の医療は、今、激務のために「燃え尽きて」退職する勤務医が後を絶たないことを見てもわかるように、積年の医療費抑制政策のつけが祟って、いよいよ「崩壊の危機」に瀕しています(すでに、小児科・産科領域では医師不足によるアクセスの障害が始まっている)。医療が崩壊した暁に一番の被害を蒙るのが、高齢者・高齢者予備軍であることは言うまでもないし、いまこそ、最大のステークホルダーが日本の医療崩壊を食い止めるために立ち上がるべきではないでしょうか?
| 私も以前3年間ほど体調を崩していました。在宅医療や夜間診療を厚労省は推進していますが、医師不足の現在、医師をディスポとしか考えていないのか、と言いたいです。 |
医師団体にしても、「政権党に擦り寄るかどうか」などという議論をしている暇があるのなら、現在そして未来の高齢患者のために一肌脱ぐぐらいの気概を示してもいいはずだし、医療者たちこそが日本版AARP設立運動の先頭に立つべきだと思うのですがどうでしょう?
| 医師会で政治家を応援するより、国民に現実をアピールした方がはるかに票にむすびつくと思っているのは、私だけではないと思います。 |
「昔とった杵柄」ではないが、ヘルメットをかぶり、「Power to the Seniors!」のシュプレヒコールを叫ぶとしたら、いまほどふさわしい時はないのだから……。
私達医師会員は政治家に迎合することなく、一致団結し政党ではなく政策を選択し、実行されなければ毅然とした態度で責任を追及する時期に来ているのではないだろうか。
『Power to the Doctors!』
を今年の鹿児島市医師会の合言葉として、国民のために一致団結して、頑張りましょう。 |
※編集委員会註:□内には著者:堂園先生の所感が記されております。

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