新春随筆

一 老 医 者 の 正 夢 ?
城山支部
(厚地記念放医研理事長) 厚地 政幸

 医療技術の進歩と相俟って、医療検査器具(device)の発達には目を見張るものがあります。私が医者になりたての頃の病院は、患者様方を“検査という名の拷問”を行う場所と見間違えるばかりの現場も目撃しましたし、又私自身がその患者様方を苦しめる術者の一人でもあり、時々今もって患者様方を苦しめたなあと、慚愧の念に堪えない思いが一杯あります。
 幸いにして、先程述べました様に検査道具(tool)の発達により、現在では患者様方には優しい検査器具で正確に病巣を発見できる様にもなりましたし、また生体工学の発達により分子レベル、genomeレベルで疾病の予見もできる様にもなりました。
 昔は症状が出揃って診断ができたら名医であり(この時は末期症状である)、つい最近まで、症状の1つか2つ出てから患者様方は病院を受診され、そこから疾病探しが始まるわけですが、その時に発見されたがんの多くもすでに手遅れの状態でありました。しかし、現在は検査機器の発達により、症状が出ない時期に、例えばがんであれば、がん細胞の塊が胎児期或いは乳児期の段階で発見・治療できる時代に突入して来ています。脳神経外科領域でも未破裂脳動脈瘤がクモ膜下出血を起こす前に発見できますし、予防的な治療も出来ています。まだ治験段階ですが、この未破裂脳動脈瘤も動脈瘤の入口の動脈にステントを置いてくるだけで、クモ膜下出血も予防できるという治療法が期待されています。またGamma Knife(3次元定位的放射線治療器)の導入により、開頭することなく容易に転移性脳腫瘍等は治療することが可能となり、患者様のQOLの向上に非常に有用な治療法となっています。
 この様な状況を見て、2年前の日本病院脳神経外科協会主催の第8回日本病院脳神経外科学会会長として,“究極的にからだ(脳、生命)にやさしい検査から治療まで”というテーマで学会を主催いたしました。21世紀の前半は、予防的(超早期)に治すという流れが定着してくると思ったからです。例えばがん検査は、がん年齢に達した健康人にPET-CT、内視鏡、細胞診、採血による腫瘍マーカー等を組み合わせて検査すれば90%前後のがんが超早期に発見できる様になり、体幹部の臓器がん等は4次元ピンポイント放射線治療器で1週間前後の外来治療のみで治療できる時代が始まろうとしています。実際に平成18年10月1日から厚地記念臨床放射線診断治療研究所(所長:朝倉 哲彦 鹿児島大学名誉教授)のUASオンコロジーセンター(センター長:植松稔)でこのhandmadeの4次元ピンポイント放射線治療器(Super Focal Unit)で臓器がんの治療を開始しました。現在のところ順調な滑り出しをみせています。この治療の1症例1症例がupdateでdataとしてEBMの積み重ねを続け、5年後にその成果が発表できれば、がん撲滅戦線に対する1つの橋頭堡を確保できたことになり、画期的出来事になるのではないかと期待しています。私自身も一人のがん患者になったときのことを考えると自分にもその恩恵にあずかることができるかもしれないと思うと、身が震えるほどの興奮をおぼえます。また将来的にはこの4次元ピンポイント放射線治療器が、がん治療の主流になっていくのではないかとの期待もあります。
 これが本年の正夢になってくれることを念願しつつ、このような先端医療の仕事に一開業医でありながら、その一端に加わることができたことに感謝の念で一杯です。できることなら、もう少し長生きし、どの様に推移していくか裏方として見守りたいものです。



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