新春随筆
年男:還暦を迎えるにあたって |
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中央区・甲東支部
(岩尾病院) 中村 尚人
(S22.8.26生)
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先日、鹿児島市医報編集委員会から来年は亥年で昭和22年生まれの年男との由、何か書くようにとの御依頼があった。前回の年男から、当たり前の話だが、12年、長いようで短かったという思いである。前回の年男の時も、同様な御依頼があり、苦し紛れに何か書いたが、つい先日のことのようである。今回はお正月のおめでたい、お屠蘇気分の、日の出の勢いのようなことを、書きたいところであるが、昨今の日本の社会情勢や医療を取り巻く環境の悪化で、うつ気味なのか、本音を言うと、「ついに来ました、来てほしくなかった、還暦の年男」という心境である。50代後半から、身体的変化が、目、耳、等の高性能の感覚器に次第に表れ、皮膚、毛髪、歯牙等の外胚葉系の著明な変化により、老化が確実に進んでいることを自覚する。また、頭脳の回転や身体の動きなどにミスマッチが生じ、これらに伴う、大脳皮質の抑制力の低下で、怒りっぽく、協調力のない状態が生じ、余裕や忍耐力が失われていく自分に気付く。まさに男性の更年期とも言える状態である。しかし、還暦が近づくにつれ、同世代のものは、大なり小なり、皆、悩んでいることに気付き、少し気を取り直し、誰もが通り過ぎなければならない試練なのだと、諦めとも、居直りとも言える気分になってくる。還暦はこのような状態で迎えるわけである。したがって、この節目を逆に、建設的、積極的な見方に立って考えると、これまでの60年の人生を御破算にして、コンピュータでいう、イニシャライズないしフォーマットすることによって、これからの人生を真っ新な状態にして歩んで行ける、人生最大のターニングポイントと考えることである。まさに、暦を振り出しにもどし、生まれ変わるという、人生のリセットポイントと考えた方が良さそうである。思えば、長くて、短かった、この60年を反省し、なさねばならぬことを行わなかった非礼の数々をお許し頂き、まずは是を持って終了とさせていただき、新たな思いでスタート出来る節目の年と考えることである。では、これからの人生はどうあるべきか。12年を一巡りとすると、還暦から後ろに1回折り返すと48歳、2回折り返すと36歳という年齢になる。一方、今度は逆に前に1回折り返すと72歳、その先に折り返すと84歳となるがこれは無理かも知れない。
この時間の感覚を考慮して、36歳と48歳の当時の自分から、現在の60歳を迎えようとする自分を、どの程度、想像出来ていたのか。考えることすらしていなかったかも知れない。こう考えると、次の年男、次々の年男の自分の姿は、やはり、ほとんど、見当も付かないことになる。したがって、これからの人生は、1年、1年が更に大切なものになるわけで、現在の自分の健康に感謝しつつ、無念の思いで消えていった数多くの同僚に黙祷し、そして、多くの立派な先輩方の後ろ姿に学びながら、これからの人生に立ち向かっていく、その様なものにしたい。従って、還暦とは、元旦の輝かしい初日の出を浴び、美しく大きな桜島に向かって、深呼吸をする、その様な時間と考えたいものである。

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