=== 随筆・その他 ===


「冷え」とSilent Anemia(かくれ貧血)
東区・郡元支部
(デイジークリニック) 武元 良整

はじめに
 急に寒くなると「冷え」を訴えて漢方相談が増えます。「冷え」の背景に貧血が知られていますが,「潜在性の鉄欠乏状態」や「潜在性のビタミンB12欠乏と葉酸欠乏」も冷えと関連があります。いわゆる「Hbが正常域にある」Silent anemiaを治療する事により「冷え」が改善した症例を経験したので紹介いたします。

症例 1:20歳代,女性
 主訴:冷え,頭痛。
 現病歴:数日前から嘔吐,冷汗もある。昨年は6カ月間無月経。
 最近は生理順調。気になることはアザができやすい,常に頭痛あり。
 朝食は時々摂取。婦人科は未受診。なんとなく不調である。
 体重変化が激しい。22歳:45kg,26歳:57kg,28歳:52kg。
 背景:7年前に禁煙,機会飲酒,運動は学生時代に弓道歴9年。身長158cm,体重52kg,BMI20.8。
 漢方的所見:四肢冷感,歯痕舌あり,右臍傍痛,胸脇苦満あり。
 末梢血検査:来院時CBC(complete blood count)では貧血なし。図1の血液像で赤血球の多様性を認めます。つまり,小球性と楕円赤血球から鉄欠乏状態,さらに大球性赤血球からはビタミンB12と葉酸値の低下を疑いました。

RBC:430万/μL,Hb:13.2g/dL,MCV (mean corpuscular volume:平均赤血球容積):89.1f L,MCH(mean corpuscular hemoglobin:平均赤血球血色素値):30.7pg,PLT(血小板数):30.8万/μL

 臨床経過:血液生化学検査では,フェリチン軽度低値(22.9ng/mL),血清ビタミンB12値は177pg/mL(基準値180-914)と低値,葉酸値も4.8ng/mL(基準値4以上)でした。「鉄欠乏状態」に対して鉄剤投与し,さらに「ビタミンB12と葉酸」の補充治療したところ,治療開始1カ月後には冷え,頭痛だけでなく,なんとなく不調という「訴え」も改善しました。1カ月後のCBCは以下のように改善。漢方は内服困難にて継続投与できず。

RBC:457万/μL, Hb:14.2g/dL, MCV:90.2f L,MCH:31.1pg,PLT:26.4万/μL

図 1 末梢血液像-「大球性赤血球」「小球性赤血球」「楕円赤血球」を認める。
(末梢血液画像は鹿児島市医師会臨床検査センター血液検査室へ依頼し撮影いただきました)


症例 2:30歳代,女性
 主訴:冷え,倦怠感,頭痛。
 現病歴:小学校の頃からの冷えで来院。数年前から倦怠感も感じる。
 背景:2年前に禁煙,飲酒歴:毎日ビ-ル350ml,運動はしていない。軟便傾向。身長150.5cm,体重45.9kg,BMI20.3。
 漢方的所見:腹証では両臍傍痛あり。
 末梢血検査: CBC(complete blood count)では貧血なし。図2の血液像で小球性と正球性正色素性赤血球さらに大球性赤血球が散見されます。

RBC:434万/μL,Hb:13.3g/dL,MCV:89.91f L,MCH:30.6pg,PLT:22.4万/μL

 臨床経過:血液生化学検査で,フェリチンは軽度低値(22.4ng/mL),血清ビタミンB12値も309pg/mLと軽度低値。鉄剤投与に追加して「ビタミンB12」もやや低値のため,両者を静注にて補充治療,治療中であるが冷え,倦怠感など軽減。漢方では人参湯+五苓散を内服継続中。飲酒も冷えの一因となりうるため休肝日が必要と指導。

終わりに
 症例1は漢方治療希望され来院でしたが,残念なことに漢方エキス製剤の内服継続が困難でした。幸い,1カ月後には鉄剤,ビタミンB12そして葉酸内服にて冷え,肩こり,頭痛などの症状が改善しました。症例2は漢方的に水毒と腹部の冷えがあるため,漢方投与し,さらに「かくれ貧血」を鉄剤とビタミンB12投与にて治療しました。
 冷え,頭痛などを訴える症例では,Hb値が正常範囲であっても「潜在性の鉄欠乏状態:かくれ貧血」の事が多く,血清フェリチン値を検査する意義があります。末梢血液像で「大球性」の赤血球を観察したなら,ビタミンB12,葉酸を精査し,不足していれば補充する事で「冷え」が改善した2症例でした。

図 2 末梢血液像,大小不同1+あり,多染性1+
(末梢血液画像は鹿児島市医師会臨床検査センター血液検査室へ依頼し撮影いただきました)




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