=== 新春随筆 ===

       MRI超音波画像融合前立腺生検システム
           (UroNav; ウロナビ)の紹介





医療法人真栄会 新村病院 画像センター 黒木 嘉典
医療法人真栄会 新村病院 泌尿器科 新村友季子

<はじめに>
 2017年5月,にいむら病院では国内初導入となるUroNav(ウロナビ)を導入いたしました。UroNav(MRI-超音波画像融合前立腺生検システム)は自動車に広く応用されているGPSを用いたナビゲーションシステムと類似の電磁式トラッキング・ナビゲーションシステムを活用することで生検標的の正確な位置情報を術者に提供することができます。
 UroNavの非常に高い生検癌陽性率は前立腺MRI画像診断の進歩と正確な穿刺技術とにより実現されたものです。

<MRIによる前立腺癌の診断>
 2016年12月,米国泌尿器科学会は米国腹部放射線学会議との共同声明において,前立腺癌疑い例のフォローアップに前立腺MRIおよびMRI画像情報を用いた狙撃生検を行う旨の勧告を行いました。そしてここで狙撃誘導技術の性能と同時に問われるのが前立腺MRIの画像診断能力です。にいむら病院では前立腺専門の画像診断医による世界標準の検査・読影法であるPI-RADS(Prostate Imaging Reporting and Data System)に準拠した画像解析が採用されており,臨床的意義のある前立腺癌の診断を目指しています。

<UroNavによる穿刺技術>
1. 正確な位置情報
 前立腺周囲に限局した微電磁場を形成し,超音波プローブに取り付けたナビゲーションセンサーの信号をリアルタイムに解析することで,超音波プローブの位置情報(方向・奥行き・傾斜)を正確に把握することができます。
2. リアルタイム性の高い立体的な融合技術
 前立腺をはじめとする生体の大部分は硬質の鉄などの金属や骨と違い容易に変形します。特に前立腺は直腸内の経直腸プローブなどによる圧迫で変形することは日常の検査でもよく観察されます。UroNavは変形の程度を考慮し,外的圧迫のないMRI画像との高度な融合(弾性融合;Elastic fusion)を実現しています。これにより従来の非弾性融合(Rigged fusion)とは一線を画す正確な位置情報の融合が可能となりました。
3. 優れたガイド機能
 前立腺MRIにて指摘された標的の位置を正確にリアルタイム超音波画像上にフュージョンさせた画像と同時に標的が明示されたリアルタイム超音波画像に相当する断面のMRI画像(MPR;再構成画像),矢状断のMRI画像が表示されます。術者はリアルタイム超音波画像に表示された標的を狙って生検を施行することで,正確な狙撃生検が可能となります。リアルタイムで観察することで標的の穿刺を確実に評価し,随時穿刺経路を修正することが容易です。
 また,従来の系統的生検に対しても有効なガイド機能を有しています。UroNavは前立腺を自動的に右葉と左葉をそれぞれ6カ所,合計12カ所に分割し,最適な生検領域をリアルタイム超音波画像上に表示することができます。これにより経験の少ない術者を効果的にサポートすることができ,経験のある術者では術者ごとの生検領域のばらつきを減らすことが可能となります。
4. わかりやすい生検データ管理
 生検前のPI-RADSに準拠したscoringデータはPSAや存在部位を含め専用の画像処理装置(DynaCAD)に保存されます。生検時の画像データは自動的にUroNavに保存され,生検後のデータも生検部位を3Dデータとして専用の画像処理装置(DynaCAD)に保存されており,MRI上に生検軌跡をフュージョンさせることも可能となっています。これらの生検データの一元管理により,読影へのフィードバックが容易となり,また次回生検時の計画にも重要な参照データとして利用することができます。

  
図 1 2D-T2強調像 横断像 図 2 拡散強調像(b factor: 2000)横断像
図 3 ADC map(b factor: 2000)横断像 図 4 Dynamic study早期相 横断像
 図1〜図4:60歳代・男性。PSA: 4.844ng/mLと高値。前立腺左葉中部から尖部レベルにかけて10mm大の辺縁域腹側にT2強調像にて三日月型の均一な低信号域が認められる。同部は拡散強調像にて拡散制限を認め,ADC mapでは低信号を呈し,Dynamic study早期相にて造影効果が認められる。PI-RADS ver.2にてCategory 4,T2前立腺癌と診断した。

<にいむら病院におけるUroNavの初期成績>
癌の見逃し(GS>_7) 5症例/60症例 8.3%
癌が指摘された結節 Sensitivity: 86.7% Specificity: 100%

 UroNavを導入することで最新のPI-RADSに準拠したMRI診断と相まって,従来の系統的生検(当院での癌陽性率:35.1%)と比較して生検癌陽性率が著しく向上させることができました。特に従来の生検では組織の採取が困難であった前立腺腹側に存在する癌の生検に有用でした。

<まとめ>
 このようにUroNavは無駄な生検・再生検を減少させ,臨床的に意義のある癌を非常に高い精度で診断することが可能であり,患者負担の軽減と医療費抑制に大きな貢献をすると推察されます。
 にいむら病院では前立腺癌の診断から生検,そしてダヴィンチによるロボット支援下前立腺全摘術と最新で正確かつ患者負担低減・医療費抑制を実現するシームレスな前立腺癌診療の実現が可能となりました。

図 5 UroNav狙撃生検時モニター像
 図5:MRIにて指摘された標的に対する狙撃生検および系統的生検が施行された。狙撃生検時のUroNavモニター像では上段左側にリアルタイム超音波画像,上段右側にMRIの再構成矢状断画像,下段右側にリアルタイム超音波画像に相当するMRIの再構成画像が表示されている。それぞれの画像に標的がマークされている。生検後病理で標的部の生検コアからGS: 3+4が確認された。

図 6 UroNav生検コア3D画像
 図6:UroNav生検コア3D画像。生検コアおよび標的が前立腺を含め3D表示がされている。これにより標的と生検コアとの関係を3Dで把握することが容易である。また,画像は自由に回転させることが可能である。

図 7 前立腺全摘術後肉眼像
 図7:ロボット支援下前立腺全摘術が施行された。全摘肉眼病理像にて生検前にMRIで指摘された場所に一致しGS: 4+3の前立腺癌が認められた。





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