=== 随筆・その他 ===


シリーズ医療事故調査制度とその周辺(10)

-日本医療法人協会医療事故調ガイドライン(2)-
中央区・清滝支部
(小田原病院) 小田原良治

 前号で,「医療事故調査制度の施行に係る検討会」(以下「施行に係る検討会」と言う)の叩き台となった「日本医療法人協会医療事故調ガイドライン(現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会最終報告)」(以下医法協案と言う)について,「2.報告対象について」までを掲載した。今回,「3.院内調査の方法」以下について記載したい。前回と同様,本文は,そのまま,「です・ます」調で記載するが,解説を加える部分(#)については,「である」調の記載とした。

3.院内調査の方法
 改正医療法第6条の11第1項は,『病院等の管理者は,医療事故が発生した場合には,厚生労働省令で定めるところにより,速やかにその原因を明らかにするために必要な調査(以下この章において「医療事故調査」という。)を行わなければならない。』としており,「医療事故」につき「原因を明らかにする」ための調査を行う義務を課していますが,必要な調査とはいかなるものでしょうか。
 『1.当ガイドラインの原則』で述べたように,本制度は医療安全の確保が目的で,医療機関ごとの性格にあわせ自律的な調査を行うべきです。
 院内調査の方法についてのポイントは,①医療安全確保の視点から行い,過誤の有無に着目したものであってはならないこと,②管理者が施設の実情とケースに応じて調査項目や調査主体を決めること,③調査項目・調査主体はさまざまなバリエーションがあり,画一化すべきでないことです。
 なお,報告書の要否や報告書・調査資料の扱いを含め,非懲罰性と秘匿性については重要な問題であるため別項で扱います。
 当ガイドラインでは,以下のように提言します。
1)調査の目的は医療安全の確保であること
 原則③で示しましたが,本制度は医療安全の確保が目的で,紛争解決・責任追及は目的ではありません。条文上も,調査は「原因を明らかにする」ために行うとしていますので,医療安全の確保のために調査を行うことに注意する必要があります。
 繰り返しになりますが,ヒューマンエラーによる事故に対しては,処罰をもって対応しても効果はなく,幅広く医療事故・ニアミス事例の情報を収集し,原因分析を行い,医療安全委員会で実行可能かつ実効性のある再発防止策をとることが重要で,しかも,医療安全目的で収集した情報が,責任追及に用いられないよう担保することが必須です。
 しかし,上記のような考え方は,国民や行政機関に十分理解されているというにはほど遠い状況で,原因分析と再発防止といった調査の結果が,院内や院外からの責任追及に利用されるリスクが高いことに注意が必要です。残念ながらこれまでにも院内での調査結果が医療従事者の責任追及に使われた事例は枚挙にいとまがありません。
 事故調査がこのような結果をもたらすのであれば,熱心に原因分析と再発防止を行う誠実な医療従事者が選択的に処罰されるという,きわめて理不尽な事態に至ることを意味し,本制度は全く機能しないものとなるでしょう。
 以上から,本制度での調査は医療安全の確保を目的とすることに常に留意する必要があります。そして,過誤や過失の有無に着目したものであってはなりません。過誤や過失の有無に言及するのは,紛争解決・責任追及のための調査です。
2)施設ごとに事案に応じて行うべきこと
 原則⑤で示したように各医療現場に即して,現場に密着した形で院内調査を行うべきですが,医療機関の規模によって,職員の数や専門職の種類には大きな差があり,調査にかけられる人員の数や時間も大きく異なります。また,事案によって必要な調査の項目や,調査をどの程度詳細に行うかという程度が異なります。
 そして,原則⑥で示しましたが,本制度により医療現場の負担を増やし,医療崩壊を加速することがあってはなりません。
 以上から,管理者は,施設ごとの事情を考慮し,かつ,事案の内容に応じて必要な調査項目と,調査主体,調査の詳細さを決定すべきです。
3)院内での通常の医療安全対策は別途これまでどおり行う
 原則⑥のイで述べたように,医療安全のための院内での既存制度として,一部の医療機関では医療事故情報収集等事業に参加することが義務付けられ,また多くの医療機関において,医療安全確保のため,医療に係る安全管理のための委員会(いわゆる院内医療安全委員会)の開催,医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずることが求められています(医療法施行規則第1条の11第1項第2号,4号)。
 院内での通常の医療安全対策は,既存のこの制度に基づく常設の院内医療安全委員会において再発防止策を検討し,必要に応じて医療事故情報収集等事業を活用します(次頁再発防止策の検討・対策の流れ図参照)。
 本制度に基づく調査は,アドホックの院内医療事故調査委員会において行いますが,ここで得られた結果についても,再発防止策の検討については,従来の制度を活用して常設の院内医療安全委員会での検討を行うべきです(次頁再発防止策の検討・対策の流れ図参照)。
4)院内調査についての提言
 前記のように,院内調査の方法については,各施設ごとに,事案ごとに決定すべきですが,目安として,以下のような調査方法を提示します。
 ア 調査項目
 ① 臨床経過
  客観的な事実関係を以下の方法を含めて確認します。
 ・カルテ,画像,検査結果等を確認します。記録については,誤記・脱漏がないか否かをチェックし,誤記・脱漏があった場合は,訂正・補正等の追加記載をし,記載した担当者,日付けを必ず記入します。
 ・関係者のヒアリングは必ず行います。その際には関係者の責任追及の結果をもたらさないよう,秘密保持に特に留意します。
 ・解剖・Ai(死後画像撮影)については,解剖前にどの程度死亡の原因を医学的に判断できているか,遺族の同意の有無,解剖・Ai実施により得られると見込まれる情報の重要性などを考慮して実施の有無を判断します。
 ② 原因分析
  死亡に至った理由を分析します。医療安全確保のための分析であるため,可能性のある複数の原因を列挙することが重要で,特定の理由に絞り込む必要や,理由の中での可能性の多寡を記載する必要まではありません。
 * 再発防止策
  当該医療機関の人的物的資源の条件を踏まえて,当該事案から実行可能かつ実効性のある再発防止策を立てることは容易ではありません。法律上も再発防止策を立てることまでは求められていないことも,その表れと考えられます。この点については,前述のように,従来の制度を活用し,院内医療安全委員会で検討します。



 イ 調査期間
  まず,医療事故の発生を知った場合,医療事故が予期しなかったものかどうか現場の意見を踏まえて検討し,必要があれば1カ月をめどにセンターに報告します(「発生報告」といいます)。
  また,報告後の調査については,あまり期間が経過すると当事者の記憶が薄れるなど,調査自体が困難になりますので,2カ月程度以内に調査を終えて報告する(「調査結果報告」といいます。)ことを目安とします。なお,遺族との間で紛争が生じた場合などは,管理者の判断で調査を中断することができるものとします。
  ただし,解剖が必要な事例では,解剖結果が調査の前提となりますので,解剖結果が出るまでの期間は上記の調査期間からは除くべきでしょう。
 ウ 調査主体
  各医療機関ごとに,事案の内容に応じて調査を行うメンバーを選びます。医療事故に関わった当事者を調査主体から除外する必要はありません。医療安全目的でのレベルの高い調査を行うためには非懲罰性と秘匿性の確保こそが重要であることはWHOドラフトガイドラインが推奨するところで,医療安全の分野の確立した考え方です。
  当事者を除外する必要があるのは,責任追及を行う場合ですが,本制度は医療安全目的で行うもので,紛争解決・責任追及を目的とするものではありませんし,医療現場に即した調査が必要です。さもなければ,医師が1人の診療所では院内調査を実施することが不可能になってしまい,まかり間違えば調査の名のもとに外部者による責任追及が推し進められることになりかねません。
 エ 調査進捗報告
  院内調査を中心となって行っている者は,当該管理者に必要に応じて調査の進捗・管理報告を行うものとします。上記の2カ月の目安のうちに調査が終了しない可能性が生じた場合や,解剖結果報告書作成に多くの時間を要している場合には,管理者は,既に報告をしたセンターもしくは支援団体,及び遺族に対して,調査終了が遅延する旨を報告するよう努めます。

 #院内調査は,院内で現場に密着して行うべきことを述べている。また,センター機能として,膨大な予算をつぎ込んで,新たな組織を作る必要のないことを主張した。既存の医療事故情報収集等事業により,日本医療機能評価機構がヒヤリ・ハット事例の収集分析を行っているので,死亡事例についても,院内で匿名化した上で,他のヒヤリ・ハット事例とともに日本医療機能評価機構に報告することにより,再発防止を図るべきであると考えている。新しいセンター機能創設は税金の無駄遣いであるとの主張を筆者らは行って来たのである。

4.院内調査と非懲罰性・秘匿性(調査結果報告)
 改正医療法は,院内調査の方法について具体的に定めるものではありません。また,センターへの報告,遺族への説明についても,具体的に定めるものではありません。各医療機関は,院内調査を行った場合に調査結果報告書を作成する必要があるのでしょうか。また,作成した調査結果報告書をどのように取り扱うべきでしょうか。
 調査結果報告書についてのポイントは,①作成は必須ではないこと,②記載する内容は事実を記載し,再発防止策については記載すべきでないこと,③調査結果報告書は匿名化し,センターと遺族以外には開示しないことです。
1)調査結果報告書は法律上必須ではないこと
 本制度は医療安全を目的とするものですし,施設の性質・事案の内容に応じて対応すべきことから,法律上も,調査結果報告書を作成するよう求める文言はなく(大綱案第22では,報告書の作成を必須のものとしていました。)院内調査につき調査結果報告書作成は必須ではありません。
 医療安全確保のために必要なのは,情報の集積と分析であり,遺族への説明は医療安全とは直接関係ありません。原則①で述べたとおり,遺族への説明は,医療の一環として行うべきものです。
2)調査結果報告書を作成する場合の記載事項
 調査結果報告書は,医療安全の目的で作成されるものですが,患者さん・社会からは,その内容が紛争解決・責任追及について述べるものだとの誤解を受けるおそれが強く,過去の事例においても医療安全目的の調査結果報告書が責任追及を誘発することが再三ありました。
 このため,調査報告書には原則として診療経過の客観的な事実の結果のみを記載します。原因分析について記載する場合は,可能性のある原因を複数記載することとします。再発防止策は,常設の院内医療安全委員会で検討すべき事項であり,医療事故調査報告書には記載しません(ただし,院内事故調査委員会委員長は,調査結果報告書とは別に,当該病院等の医療安全委員会委員長及び管理者に対してのみ,再発防止策の提言を伝えることができるものとします。)。
 また,調査結果報告書の内容については,事故に関与した医療従事者に対し,事前に告知してその確認を求め,その意見を調査結果報告書に記載しなければなりません。なお,センターへの事前確認は不要です。
3)秘匿性の確保
 ア 匿名化
  医療安全確保の目的での情報収集には,個別の医療機関や患者さんの個別情報は不要です。このため,センターに調査結果報告書を提出し,もしくは情報提供を行う場合には,医療事故情報収集等事業と同様に,匿名化した上で情報提供を行うものとします。
 イ 第三者への非開示
  本制度は医療安全の確保が目的ですので,第三者に対して個別事例についての公表(ホームページへの掲載,記者会見等)は必要ありません。
  調査結果報告書は,遺族とセンター以外には,裁判所・検察庁・警察署・厚生労働省・地方自治体などの行政機関その他一切の公的機関,その他のいかなる者に対しても,調査結果報告書を開示できないものとします。なお,それ以外の資料はもちろん,調査結果報告書も,民事訴訟・行政事件訴訟・刑事訴訟・行政処分の証拠とすることができないし,これを公表することもできないものとします。これらの秘匿性については,各病院が院内規則で定めを設けて掲示すべきと考えます。関係者には,厳密な守秘義務を課すべきです。
 ウ 強く保護すべき資料
  医療安全目的での分析には,率直な意見交換と,個人の責任追及がされないことをシステムとして担保することが必須です。このため,調査結果報告書には結論部分を記載し,院内での意見交換の内容など,検討の前提となる内部資料については,強い保護が必要で,一切外部に開示すべきではありません。このような資料を開示すれば,率直な意見交換や十分な情報収集ができなくなり,医療安全確保の目的が全く達成できなくなるからです。過去の裁判例でも,これらの資料は秘匿性が保護されています。
  具体的には,医療従事者からの聞取り記録・委員会等の議事録・内部検討のための意見書などを開示してはなりません。

文書提出命令に関する裁判例
①事情聴取部分(さいたま地裁平成15年3月25日決定,東京高裁平成15年7月15日決定):当事者からの事情聴取を記載した部分につき文書提出義務を否定しました。
②第三者の意見書(東京高裁平成23年5月17日決定):組織内での検討のために依頼した院外の医師の意見書につき,文書提出義務を否定しました。
*国公立病院と私立病院の提出義務についての扱いは実質的に同様です。

5.院内事故調査の支援体制について
 改正医療法6条の11第2項は,『病院等の管理者は,医学医術に関する学術団体その他の厚生労働大臣が定める団体(法人でない団体にあつては,代表者又は管理人の定めのあるものに限る。次項及び第6条の22において「医療事故調査等支援団体」という。)に対し,医療事故調査を行うために必要な支援を求めるものとする。』と定めていますが,どのような場合にどのような支援を求めることができるのでしょうか。
 『3.院内調査の内容』で述べたように,本制度は医療安全の確保が目的で,医療機関ごとの性格にあわせ自律的な調査を行うべきで,調査内容も各医療機関に委ねられますが,解剖やAiの実施,安全学の専門家など,各医療機関独自には確保が困難な場合がありますので,医療安全目的での調査に必要な専門家のサポート体制の確保を費用面も含めて行うことが必要です。
 院内調査の支援についてのポイントは,①原則として医療事故の生じた医療機関で調査を完結できるよう努力をし,安易に外部の専門家に丸ごと依頼しないこと,②医療安全目的での調査のうち,各医療機関で確保が困難なもの(解剖及びAiの実施,安全学の専門家など)については各医療機関からの要請に応じてサポートできる体制を確保する必要があることです。
 当ガイドラインでは,以下のように提言します。
1)院内での調査完結を原則とすべきこと
 原則⑤より,医療安全目的での調査は,院内調査が中心で,医療現場に密着し,医療機関ごとの特性に合わせて行うべきです。また,原則⑥より,調査が医療現場に過剰な負担をかけないよう配慮しながら,事案に応じた調査をすることも必要です。このため,どのような調査が必要かの判断は各医療機関で行うべきです。
 また,調査の実施についても,できる限り当該病院等のスタッフで調査を完結できるよう努めます。自立性と自律性の原則に鑑み,安易に,第三者の専門家に丸ごと依頼するようなことは避けなければなりません。
2)多様なサポート体制確保の必要があること
 ア 解剖・Ai
  前記のように院内での調査完結が原則ですが,医療機関の規模も様々なものがあり,特に中小規模の医療機関においては,必要と判断した調査が独自には実施できないこともあり得ますので,このサポート体制の確保が必要です。特に解剖の実施については専用の施設と専門の医師の確保が必要ですので,大規模病院を中心に地域ごとにサポート体制を確保する必要があります。
  Aiについても,同様のサポート体制が必要です。
  解剖の実施は事案によっては調査の上で非常に重要な役割を果たしますが,解剖の実施施設と専門の医師は限られていますし,解剖の実施には少なくない費用が発生します。必要な場合に必要な調査を行うためにも,制度として解剖実施施設の確保に努め,解剖等の費用を負担すべきです。各医療機関や,解剖実施施設が負担すべきものではありません。
 イ ニーズに応じた多様な支援団体
  専門家の支援を求める場合,管理者は,自らの医療機関の性質に応じ,かつ当該事案に適した専門家を求めるよう努めなければなりません。
  地域性,専門性,規模など医療機関ごとの性質の多様性を考慮し,医療機関の自主性を尊重すべきですから,医療機関が,多様な支援団体から選択できるようにする必要があります。
  なお,本制度は責任追及のためのものではなく,過誤や過失についての判断は必要ないばかりか,紛争解決・責任追及を招き有害ですので,法律家の参加は必要ありません。

 #本制度の目的は,「医療安全の確保」であり,個人の責任追及のものではない。院内事故調査結果報告書は,事実のみを記載して,再発防止策は記載せず,再発防止策は,常設の院内医療安全委員会で検討すべきである。また,調査結果報告書は,センターと遺族以外に開示すべきではない。遺族への説明は,医療の一環として行うべきものであり,現場医療者など関係者については,匿名化が必要であろう。本制度は,結果として,責任追及の制度となってはならず,過誤や過失についての判断は行うべきではない。
 必要な支援を,支援団体に求めるに際しては,医療機関の判断で,適切と思われる支援団体に対し,必要と考えられる支援を求める必要がある。適切な支援団体は,当然,医療機関の判断で異なることが考えられるが,医療機関が,「医療事故の判断など制度全般に関する相談」について,どこに支援を求めるかは重要な問題である。相談先は,「施行に係る検討会」の議論の結果,最終的に,センター,職能団体・病院団体,大学病院等,関係学会とされたが,センターが相談を受けることに関しては,利益相反の疑いがある。かねがね,どの支援団体に相談を行うかということは,各医療機関で,十分に検討しておく必要があろう。日本医療法人協会加盟の医療機関については,日本医療法人協会に支援を求めることをお勧めする。鹿児島市医師会では,医療事故調査制度サポートセンターを開設した。医療事故調査制度への対応の相談窓口として設置したので,ご相談いただきたい。

6.院内調査結果のセンター及び遺族への報告
 改正医療法第6条の11第4項では,『病院等の管理者は,医療事故調査を終了したときは,厚生労働省令で定めるところにより,遅滞なく,その結果を医療事故調査・支援センターに報告しなければならない』とし,改正医療法第6条の10第2項で「遺族」として,『医療事故に係る死亡した者の遺族又は医療事故に係る死産した胎児の父母その他厚生労働省令で定める者』と定め,『病院の管理者は,前項の規定による報告をするに当たっては,あらかじめ,遺族に対し,厚生労働省令で定める事項を説明しなければならない』として,遺族への事前説明を求め,同法第6条の11第5項では,『病院等の管理者は,前項の規定による報告をするに当たっては,あらかじめ,遺族に対し,厚生労働省令で定める事項を説明しなければならない。』として調査結果についての説明を求めています。それぞれ誰に,どのような説明を行うべきでしょうか。
 センター及び遺族への報告においてのポイントは,医療安全の確保が目的であることから本制度での報告の主な対象はセンターとされていることです。
1)センターへの調査結果報告が中心とされていること
 本制度は医療安全の確保を目的とするものですので,院内での検討を行い,センターに情報を集めることでその目的は達成され,遺族に対する説明は医療の一環としてされるものです(原則①)。条文上も,調査結果の報告はセンターに対して行うものとされ,遺族に対して調査結果の報告が求められているわけではありません。本制度での医療機関からの報告は,センターに対して主に行うものです。
2)センターへの調査結果報告
 センターには客観的な事実の結果を報告します。センターにおいては,既存の制度と連携しつつ,多数の類似事例に対してヒューマンエラーの専門家を交えた分析を行い,再発防止策を検討するものとします。
3)遺族に対する事前説明
 遺族とは,死亡した患者さんの法定相続人とします。ただし,法定相続人全員への説明は不要で,法定相続人のうち,死亡した患者さんの療養看護に努めたいわゆるキーパーソンに説明すれば足ります。
 また,遺族に対する事前説明は,本制度の仕組みの概要と,当該医療事故についてセンターに報告することへの同意取得に関するものとします(医療事故情報収集等事業参照)。事前説明の段階で,事実経過や原因分析について説明する必要はありません。
 解剖の承諾については,当該管理者が解剖を必要と判断した時は,病理解剖の担当機関,場所,遺族が負担すべき費用の額を示して,遺族の承諾を得るよう努めます。ただし,遺族の一部が異議を述べた時は,病理解剖を実施してはなりません。
4)遺族に対する調査後の説明
 ア 説明内容

  当該病院等の管理者は,遺族(一部で可)に対して,診療経過の客観的な事実の結果を説明します。再発防止策は説明する必要はありません。
 イ 説明方法
  当該病院等の管理者は,諸事情に鑑みて適切と考える方法で,口頭または書面にて説明します。
 ウ 遺族へ渡す報告書(記載様式等)
  (ア) 口頭にて説明の場合
   口頭で説明した内容をカルテに記載し,遺族の申請があればそのカルテを開示します。
  (イ) 書面にて説明の場合
   書面は,院内調査結果報告書自体であるか,院内調査結果報告書の趣旨を踏まえて病院等の管理者が新たに作成した文書であるか,を問いません。

 #解剖を行う必要がある場合については,従来通り,病理解剖を行うべきであり,解剖の承諾を求める際にも,病理解剖である旨を明示すべきである。
 遺族に対する説明については,「施行に係る検討会」の終盤で,一旦確定した文言が,外部からの圧力により変更されたことから紛糾し,最終回の「施行に係る検討会」で合意に至らなかった。その後,厚労省が各構成員間の調整を行い,やっと,「とりまとめ」の公表に至るのである。

7.センター業務について
 改正医療法第6条の16はセンターの業務につき定めていますが,その業務内容はそれぞれどのようなものでしょうか。
 センター業務についてのポイントは,①院内調査が中心であって,センターはそのサポートをする立場で,院内調査に優越するものでは決してなく,かつ制度開始による医療機関の負担の重さを考慮すると,センターではなく各医療機関に人的物的資源を配分すべきこと,②本制度の適用となるのは各医療機関の管理者がセンターに発生報告をした場合に限ること,③各医療機関の性質ごとの違いを踏まえ,集積した情報に基づき,個別的ではなく,実行可能かつ実効性ある再発防止策の提案に努めるべきことです。
1)センターの位置づけ
 繰り返し述べているところですが,本制度は院内調査を中心とするもので,センターは決して院内調査に優越するものではありません。
 また,各医療機関の人的物的資源は限られ,本制度の開始により各医療機関の負担は相当重いものになりうること,センターは既存制度の機能と重複することを考慮すると,人的物的資源は,センターではなく,できるだけ各医療機関に重点的に配分すべきで,センターの業務は限定したものにすべきです。
2)院内調査結果報告の整理及び分析と報告
 改正医療法第6条の16第1号は,『収集した情報の整理及び分析』をすることとし,同2号で『前号の情報の整理及び分析の結果の報告を行うこと』としています。
 ア 整理・分析
  報告された事例の匿名化・一般化を行い,データベース化,類型化するなどして類似事例を集積し,共通点・類似点を調べ,傾向性と優先度を計ります。
  当該病院等の実情に応じた自主性・自律性を尊重し,院内調査結果報告書の充足度については,形式的整理と文面の検証にとどめます。院内調査内容介入にあたる相談・確認は控えなければなりません。
 イ 整理・分析結果の報告
  ここでの医療機関への報告は,「収集した情報の整理及び分析の結果」を伝えるものであることに注意が必要です。すなわち,個別事例についての報告ではなく,集積した情報に対する分析に基づき,一般化・普遍化した報告をします。
  集積されていて優先度の高い類型の事故につき実行可能かつ実効性のある普遍的な再発防止策を立てることができた場合,当該病院等その他の医療機関に提案します。
  ただし,医療機関の規模や性質により実行可能性は異なります。センターは,上記の普遍的な再発防止策を提案する場合,それぞれの医療機関が,それぞれの体制・規模等に合わせて選択できるよう,少なくとも医療機関の規模に合わせた複数の再発防止策を提案しなければなりません。
  また,センターは,各医療機関がこれらの提案が自施設に適合するか判断をする際に重要な情報を提供する必要があります。具体的には,再発防止策を取る場合に必要な人的物的コスト,再発防止策の有効性,再発防止策を取らない場合にどのようなリスクがどのような確率で生じるかと言った,リスクベネフィットについての情報提供が望ましいと考えられます。
  なお,当該病院等の実情にそぐわない再発防止策の提案は,当該病院等や医療従事者に対する名誉毀損や業務妨害の結果を招く恐れがあることに留意し,細心の注意を払わなければなりません。
3)センター調査に係る事項
 ア センター事故調査開始は管理者の発生報告が必須

  条文の順序からしても,また,センター調査が「医療事故」を前提としていることからも,また立法過程での厚労省による説明からも,改正医療法第6条の17の規定は,医療機関の管理者からセンターへの発生報告がされたことが前提となっています。
  なお,センター調査の依頼は,遺族または当該医療従事者もしくは当該病院等の申出に基づき当該病院等に一元化して行うこととします。期限は,院内調査結果の遺族への説明があった日から1カ月以内とします。
 イ センター調査の開始
  (ア) 院内調査実施中

   院内調査を実施している最中は,発生報告から1年以内は,遺族はセンター調査を依頼することができないものとします。本制度は当該病院等の自主性・自律性に基づく院内調査を中心とするものだからです。ただし,発生報告から1年を超えて,合理的な理由なく院内調査が終了しない場合,遺族はセンター調査を依頼することができます。
  (イ) 院内調査終了後
   遺族が「当該病院等を信用できない」こととか「院内調査の結果に納得がいかない」ことを理由とする場合には,既に,紛争状態にあるため,センター調査を依頼することができません。センターも,このような依頼を受託してはなりません。本制度は,医療安全の確保を目的とするもので,紛争解決や責任追及の目的ではないからです。
 ウ センター調査の内容
  センター調査は,院内調査が適切な手続きで行われたか否かを検証することに重点をおいて行うべきで,問題がある時には原則として院内調査の補充またはやり直しを行うべきとの結論を出すべきです。したがって,自ら新たな調査を一から行うのは,院内調査結果に重大で明らかな誤りがあって,かつ,当該病院等自身ではやり直しが著しく困難であると当該病院等自身から申し出があったという特段の事情が存在する場合に限られるべきです。
 エ 医療機関からの資料提供
  院内調査実施中で発生報告から1年以内は,センターからの調査協力の求めに対して,病院等の管理者はこれを拒むことができます(そもそもこの場合センターは調査協力を求めることができません)。また,発生報告からやむをえず1年を超えて院内調査を実施している場合も,調査協力の求めを拒むことができます。
  センターは,調査に必要な合理的な範囲の追加情報提供の依頼をすることができるものとします。なお,医療安全確保のための仕組みであることに鑑み,関係者のヒアリング情報その他の医療安全活動資料は,当該病院等からセンターへ提供しないものとします。
 オ センターの調査結果
  (ア) 記載事項
   調査結果報告書には,診療経過の客観的な事実記載の検証結果のみを記載します。調査結果報告書には再発防止策(改善策)を記載しません。
   なお,当該病院等の実情にそぐわない医学的評価や再発防止策は,当該病院等や医療従事者に対する名誉毀損や業務妨害の結果を招く恐れもあるので,細心の注意を払うべきです。
  (イ) 秘匿性
   調査結果報告書には,当該医療従事者名及び患者名は匿名化し,調査結果のみ記載することとして,その議論の経過や結果に至る理由は記載せず,再発防止策(改善策)も記載しないこととします。センターは,当該病院等,遺族,裁判所・検察庁・警察署・行政機関その他一切の公的機関,その他のいかなる者に対しても,調査結果報告書以外を開示できないものとします。調査結果報告書は,民事訴訟・行政事件訴訟・刑事訴訟・行政処分の証拠とすることができないし,センターはこれを公表することもできないものとします。
   関係者には,厳密な守秘義務を課されます。
  (ウ) 調査結果報告書事前確認(医療機関)
   センターは,調査結果報告の概要が整った時点で,当該病院等に対し,事前に告知してその確認を求め,当該医療従事者の意見を聴取し,これを調査結果報告書の記載に反映させなければなりません。
  (エ) 遺族及び医療機関への説明
   センターは,調査結果報告書2部を当該病院等の管理者に対して交付することで,当該病院等の管理者と遺族に報告したものとします。当該病院等は,主治医を基本として適切な者が遺族に対して調査結果報告書に基づき,その内容を説明しつつ報告するものとします。なお,主治医以外が説明する場合,事前に主治医の許可を必要とします。
4)公表について
 センターが公表できるのは,当該病院等の協力拒否に正当な理由がない場合に限り,その程度も何らの合理的な理由もなく悪質な場合に限ります。
 センターは,医療機関や管理者は原則として非公表とし,医療機関が協力を拒否した範囲の事項についてのみ公表することができるものとします。ただし,当該病院等や管理者に対する名誉毀損や業務妨害の結果を招くおそれが強いので,公表に先立って,センターは必ず弁明の聴取手続を踏むと共に,当該病院等の弁明の要旨も併せて公表しなければなりません。
5)研修・普及啓発について
 医療機関ごとに事案の内容に応じて院内調査を行うべきことからも,研修について,まずは既存のものを活用すべきです。

 #センターは,医療現場に優越する組織ではないし,そのようなことがあってはならない。あたかも,センターが現場に優越するかのような印象を与えないようにセンター機能は限定し,センターの監視を行うべきである。

おわりに
 前回と今回,2回にわたって,医法協案の内容を紹介した。(割愛した部分がある。全文が必要な方は,厚労省HP又は日本医療法人協会ニュース増刊号をお読みいただきたい。)シリーズ医療事故調査制度とその周辺(8)に掲載した日本医療法人協会の見解と合わせて,お読みいただくと,筆者らが,何を主張したかったかが理解いただけることと思う。この医法協案が,「施行に係る検討会」の叩き台となる。
 医法協案が,厚労省「施行に係る検討会」の叩き台となったが,叩き台であるので,医法協案の全てが採用された訳ではない。確定版については,医療事故調査制度に関する省令・通知発出後,筆者らが著した「医療事故調運用ガイドライン」日本医療法人協会医療事故調運用ガイドライン作成委員会編(へるす出版)の内容を基本としていただきたい。また,「医療事故調運用ガイドライン」出版後,2016年(平成28年)5月8日,制度の見直しが行われた。根本において,大きな変更はないが,一部,新たに追加された部分がある。これらについては,本シリーズで改めて解説したいと思う。
 「施行に係る検討会」では,筆者にとって,各構成員からの攻撃に対する防戦と厚労省との折衝という神経戦が続くのである。この検討会の様子について議事録をもとに記述したいと思うが,検討会の内容の理解のために,次回は,筆者らの申し入れにより,厚労省提示案が変更になった重要部分について,ポンチ絵の変遷として記述しようと思う。




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