随筆・その他

リレー随筆


多趣味飽き性のススメ


鹿児島県立大島病院 松田 耕輔

 「文章書いてみない?」
 研修医室で電子カルテと格闘している私にいきなり声をかけて来た人物がいた。研修医2年目のH先生である。大柄な体躯に似合った穏やかな方でかなり面倒見がよく,当直などで一緒になると色々教えてくださる先生だ。いつもお世話になっている先輩であるし,普段であれば「はい!喜んで!」と即答するところであったが,どうも様子がおかしい。嘆願と謝罪が混ざったような,つまるところ「マジ申し訳ないけどホンマお願い!頼む!」という顔をしていた。
 「なんすか藪から棒に」
 「いや,リレーエッセイってのがあってさ,俺に回って来て書いたはいいんだけど次の「嫌です」」
 先輩には申し訳ないが快諾しなくて本当に良かったと思った。アーティスティックな分野,特に,お絵かきと物書きについてはどうも母親の腹の中へ能力を置き忘れて来たままこの世に生を受けた様子で,読書感想文はあらすじを書きなぐったあと一行感想を述べて終わらせ,小論文は最初の問題提起と結論がずれにずれて何が言いたいかわからなくなり,およそ「文章を書くのが苦手な人間のピットフォール」にとっぷりとはまって来た人間である。現に先輩から話を受けている時も,上級医から「内容やまとめ方以前に日本語として読みづらい」とお墨付きをいただいた紹介状の訂正と戦っている最中であった。人前で晒せるような文章を書けるはずもない。
 さらに,リレーエッセイであることもネックである。リレーということはH先生のように次にバトンを握って走らせる人間を探さねばならないということで,市中病院で研修医している私にお鉢が回ったらもうおしまいである。こういったものは上から下には簡単に流れるが下から上にはそう簡単に上がらない。だからこそH先生も私に渡そうとしたのだろうが,私が受け取ってしまうと当院の研修医1年目を1巡してしまったらもう渡せる人間はいない。そうなるのを未然に防ぎ,かつ駄文を晒さないというwin-winの英断であった。
 「そっかー,まぁそうだよなー。じゃあ他あたってみるよー」といつもより少し悲しそうなトーンでH先生は研修医室を出て行った。申し訳ない気持ちもあったがそれより面倒ごとを抱えなくて良かったという気持ちが圧倒的に強かった。できない仕事はできないという勇気は持っていた方が良いと学生時代に学習していたので,信用は落としてしまうがこれで上々である。もう一度謝罪をした方がいいな,今日はご飯に誘ってみようかなと落とした信用のあげ方を小細工していたところでピッチが鳴った。
 「はい,研修医 松田です。」
 「お疲れ様ー。Tだけど。今大丈夫?」
 上級医Tからの電話であった。
 「はい,大丈夫です。何かありましたか?」
 「紹介状できたー?」
 「すいません,すぐ書き上げます」
 催促が来てしまったので,急いでカルテに向き直り,あーでもないこーでもないと中断していた紹介状の推敲を再開した。
 後日。
 「松田ー」
 今度は3年目のE先生に声をかけられた。E先生とは大学からの先輩後輩であり,ずっとよくしていただいている本当に頭が上がらない方である。
 「E先生,どうかされました?」
 「文章書いてみない?」
 「・・・・・」
 なるほど。これが詰みか。
 頭の中に浮かんだ「はい」と「YES」の選択肢のうち「はい」を選択するのに時間はかからなかった。

<とりあえず手を出してみる>
 そういうわけでここで駄文を撒き散らすことになってしまったわけだが,何をかけばいいか皆目見当もつかない。前に書かれたH先生,E先生に聞いても「なんでもいいよ」としか返ってこない。せめてテーマでもと思い,事前に以前に書いた先生方の文章を見せていただいたのだが,本当に「なんでもいい」ようだ。その中でも趣味について書いていた人が多いように思う。それに習い,なんとか趣味を掘り出してみようと思う。
 私は自分で思うがかなりの多趣味飽き性である。今までハマった(若しくは手を出した)「趣味」「サブカル」というものを年齢順に挙げてみた。
 ゲーム,読書,ニコニコ動画,エロゲ,アニメ,漫画,洋楽,ドラム,クイズ,テニス,YouTube,カメラ,ロードバイク,ホームページ作成,麻雀,動画作成,演劇,カホン(ペルー発祥の打楽器)。
 ・・・法則も一貫性も何もない。「面白そう!!」と思ったものには手当たり次第手を出した。そしてすべからく1年半程度で熱量を失ってしまうというサイクルの繰り返しであった。そんなもんだから私の部屋にはカメラ,ロードバイク,カホン,ドラムスティック,ペダル,参考書などなどこの趣味達を乗り換え乗り換え来た遺残物たちが埃を被っており,大学時代の私は器用貧乏&貧乏街道を邁進することとなるのである。

<多趣味飽き性>
 そんなヤリ捨てた趣味達をそのままにしておくのも忍びないのでいくつか思い出しがてら魅力を語ってみようと思う。これを読んで興味を持つくらいであるなら遅かれ早かれその趣味を持つ人であったということだと思うのだが,そのきっかけにでもなれればいいと思う。
・ゲーム
 最初にゲームを持ったのはおそらく3歳の頃であったと思う。ゲームボーイライトのグリーンでマリオやポケモン緑を遊んでいた記憶がある。父親がゲームに寛大であったことも幸いしてそこからずっとゲームの虜である。新しいゲームを買ってもらうために,塾のテストで何番以上に入ったら買ってくれという取引を持ちかけて買ってもらったこともあった。ゲーマーなどど呼べるものではなくあくまでライトに楽しんでいるだけだが,それでも十分楽しい趣味である。最近はスプラトゥーン2に熱を上げている。研修医になりゲームをする暇はかなり減っているのが寂しい限りだが,子供ができたら一緒に遊べたらなぁと思う。
・アニメ,漫画
 オタクなどと言われ敬遠しがちなところであるが,アニメ・漫画は日本の誇るべき文化であるし,素晴らしい作品をそんなくっだらない理由で食わず嫌いするのは甚だ勿体ないと言える。とりあえずジョジョを読め。話はそれからだ。
・洋楽
 中学生の陥りがちな病気。それが厨二病である。自分が特別であると思い,物語の主人公であるかのような振る舞いをしてしまう好発年齢13~21歳の疾患である。私ももれなく罹患し,症状としては「J-POPとか超ダサい。外国のロックンロール聞いちゃう俺まじかっこいい」であった。まぁ友達の影響も多分にあったのだが。今でもQueenだとかOasisだとかはヘビロテするプレイリストに入っている。Killer QueenとAnother One Bites the Dustがお気に入り。超かっこいい。
・ドラム,カホン
 洋楽にハマった次は自分でやりたくなるのが高校生である。友達の誘いもあってバンドをやることになった。ASIAN KUNG-FU GENERATION,FALL OUT BOY,斉藤和義など簡単で盛り上がる曲をたくさんやった気がする。ど下手くそだったと思うけど,とてもいい思い出になっている。今でもリズムを取るのは楽しいし,働き始めてからカホンを購入してしまった。グルーヴとかテクニックとかはよくわからないが,みんなで1つのことをやるというのはやっぱり楽しい。
・クイズ
 高校生に上がった頃ちょうど先輩が高校生クイズで優勝しており,なんとなく勢いで始めた。今でもこの時期に覚えた無駄知識が意外と役に立っていることが多い。僕自身は強いチームメイトのおこぼれで出ただけなので成績は聞かないでください。かっこよくてどうでもいい単語はエオルス音(針金や細い棒に気流が当たるときに発生する音)。かっこよくて語呂がいい言葉はシュトルムウントドランク(18世紀後半にドイツで見られた革新的な文学運動)。
・カメラ
 大学生になって何かバイトを始めたいなーと思って先輩に相談したらCa◯onの派遣を紹介され,あれよあれよとプリンターとカメラを売るおじさんになってしまった。おかしい。大学生になったら家庭教師をやって可愛いJKを教えるはずだったのに,来るのは「これどうなの?」と難しい顔したおっさんと,「ちゃんと売れよ」と恐ろしい顔をした家電量販店のおっさんである。
 そんなブラックバイトだが,派遣だったので時給はそこそこ良かった。そして,「大学生っぽいことをしたい」という欲求が重なり何か大きな買い物をしたいと思うようになった。そんな時,いつものバイト先でカメラを売ったのだが無性に欲しくなってしまい,気づいたらEOS Kiss X5のダブルズームキットを買っていた。1眼レフは本当に綺麗な写真が撮れるのと,「カメラを持っている」感が強くて好きなのだが,いかんせん嵩張る。もしこれから綺麗な写真を撮りたい!!と思う方がいれば,フルサイズの1眼レフを買わないのであればミラーレス機かiPhoneをオススメする。

<結局>
 これだけ色々なことをやってみたが,どれも大成したわけではなく,人を巻き込めるほど熱を上げたこともない。だが,それでも言えるのはやってみるというのはいいことであるということだ。浅くてもいいし,すぐにやめてもいいからとにかく始めてみようという勢いというのは大事にした方がいい。まぁ無駄になっているといえば無駄になっているのだが,完全に無駄になったことは何一つない。とりあえず話題になるから患者とのコミュニケーションとしても使えるというのは大きい。
 今度は研修医として働き始めたのでようやく医療の勉強を「面白い!やってみよう!」と思い始めて,勉強会に参加しようと思っている。
 今度は飽きがこないよう,頑張って長く付き合ってみたいと思う。
次号は,鹿児島県立大島病院の里園秀之先生のご執筆です。(編集委員会)





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