随筆・その他

リレー随筆

弓 道 と 初 期 研 修


鹿児島県立大島病院 濵平 昂一

<はじめに>
 県立大島病院研修医2年目の濵平と申します。同僚兼同期の宇都先生よりバトンを渡されました。彼は趣味の一つであるへび飼育について書いていたので,私は趣味の弓道と現在の研修生活についてお伝えしたいと思います。長い文章を書くのは初めてなので読みにくいところが多いと思います。大真面目な題材ではないので気楽に読んでいただけると幸いです。

<弓道とは?>
 我が国には様々な武道がありますが,弓道では礼と場に即した動作(体配:たいはいと読みます)で28m先にある直径36cmの的に向かって和弓を引きます。和弓の長さは七尺三寸(約221cm)が標準で,外国の弓と比べると圧倒的に長くなっています。短い方が取り回しが利いて便利ですが日本の弓は実用的な面だけではなく,古来よりその形を美しいものと思われてきた芸術的な面を持っています。詳しくは「弓道教本 第1巻」というテキストをamazonなどで買って読んでいただけると幸いです(1,300円くらいです)。技術面だけではなく弓の倫理性や美しさ,日頃の心の持ちようについてまでも述べられており弓道をしていない人にとっても一読の価値はあります。

<弓道についてよく聞かれること>
 弓道をしていると物珍しいのか知人から色々なことを聞かれます。以下によく聞かれることをまとめてみました。
①真ん中ほど点数が高い?
 実際の競技としては的中数が問題となることが多いです。つまり的のどこに中ろうと同じ1点となります。例外は個人戦の2,3位決定戦や遠的競技(的の直径が1mになり距離は60mとなります)で,この時だけは矢が中心にあるほど上位となります。優勝決定戦は矢を1本ずつ持って,他の人が外すまで中て続ける射詰を行い決めます(所謂サドンデス方式です)。運動競技の中で弓道は比較的静かに時間が流れますが,この瞬間は最も歓声が上がります。
②筋力がないと駄目?
 弓を引くための筋肉は日常生活では余り使わないものが多く,初心者にとってはどんな体格をしていようとはじめは筋肉痛になります。しかしすぐに慣れて来ますし各人の筋力に合わせて多くの張力(弓力)が1kg単位で設定されており力持ちでなくても十分に練習できます。年をとっても体力を気にせず始められることが弓道の利点の一つです。
③お金がかなり掛かりそう
 自分だけで練習するには弓,矢,弽(ゆがけ:右手に挿して弦を引っ掛けるためのグローブ),道着,袴,足袋などが必要です。いきなり全て揃えようとすると5万円以上かかりますが,道具の殆どは道場の備品として貸し出していることが多いので初期投資はかなり抑えられます。練習していくうちに必要になったものを適宜買っていきます。
 なお上達すれば竹弓,竹矢などの伝統工芸品を買う選択肢も出てきます。どの道具も値は張りますが,丁寧に使えば10年以上持つものばかりなのでコストパフォーマンスは他のスポーツに劣らないと思います。道具が自分に馴染んでくる中で修練を更に充実させることができることが弓道の醍醐味の一つです。

<弓道との出会い>
 私が弓道という存在を初めて認識したのは中学校に入学した時でした。勧誘のチラシをもらい何と無く道場に足を運んでみると,白い道着と黒い袴を着た先輩方が凛とした佇まいで弓を引いていました。その姿を見て「かっこいい!」と感じそのまま入部届を出した,と言いたいところでしたが受験勉強についていくのが精一杯であり弓をしたい気持ちを封じたまま中学高校の6年間が過ぎて行きました。
 鹿児島大学に入学した時に願い叶って医歯学部弓道部に入部でき,私の弓道人生が始まりました。

<私の学生弓道>
 入部してまず先輩方に教わったのは「射法八節」でした。これは弓を引くに当たっての動作を8つのパートに分けて解説したものであり,簡単に説明すると以下のようになります。
①足踏み:両足先を逆八文字の形に踏み開いて下半身を安定させる
②胴造り:足踏みで作った基礎に上体を安静に置いて体の重心を腰の中央に据える
③弓構え:弽を弦にかけ,左手で弓を軽く握る
④打起し:左右の両拳を上げる
⑤引分け:打起した弓を左右均等の力で弓を押し,弦を引く
⑥会:引分けの完成した状態で気合を充実させて発射の機を熟させる頂点
⑦離れ:機が熟して自然に,左右に開くように両上肢が伸びることで矢が離れていく
⑧残心:離れの姿勢を崩さずに体が天地左右に伸長した状態
 日頃余り目にしない単語ばかりで覚えるのに一苦労しましたが,実際に体を動かしながら指導していただくと徐々に慣れてきました。まずは何も持たずに射法八節の動作ができるようになってから段階的に弓矢を扱えるように指導していただきました。
 いざ自分の弓矢を道場から借りる時にある問題が起こりました。私の体格は標準的な枠から外れておりましたので適切なサイズが無く,先輩方のご温情で急遽部活で弓を買っていただけることになりました。その弓はアルバイト代から少しずつ部活に払うことで私物となり入部から8年経った今でも私の相棒として活躍しています。
 優しい先生先輩方,仲良くしてくれた同期,慕ってくれた後輩たちに囲まれて6年間の学生生活を楽しく過ごすことができました。試合はあまり活躍できませんでしたが段位もいただき充実した弓道人生を送りました。

<初期研修>
 私は地域枠として鹿児島大学に入学した関係で,初期研修のプログラムが大学か県立病院群かの2択となっていました。卒後離島・へき地の医療機関で働く上で3,4年目からでもしっかり動ける医師になりたいと思い県立病院群プログラムで初期研修を行おうと思いました。
 平成28年の4月から11月は鹿屋医療センターで内科と小児科をローテートしました。内科では学生の頃にあまり勉強していなかった病棟業務から心エコー,血管エコー,カテーテル検査などの助手についてご指導いただきました。小児科では小児の診察,点滴の取り方から重症例の経験まで幅広く研修できました。また月に1回学会形式で症例提示をする機会に恵まれ,多くの診療科の先生方,スタッフの方々からもご指導いただいた8カ月でした。
 平成28年12月は県立姶良病院で精神科を1カ月研修し精神科的診察について特に学び,平成29年1月から現在の県立大島病院での研修をスタートしました。
 離島には学生実習で数回行ったくらいで住むのは初めてだったので,はじめは本土との生活の違いに驚かされる日々でした。これまでに放射線科,消化器内科,麻酔科,救急科,産婦人科を研修してきて各診療科の初期対応だけではなく離島特有の問題も一緒に経験できているのは大きな財産になっています。
 平成28年12月からドクターヘリが大島病院で運用開始となり,救急科をローテートしている時にOJT(On-the-Job Training)として参加する機会をいただきました。ヘリコプターに乗るのも現場活動に医師として参加するのも初めてで右も左もわからない状態でしたが,迅速な介入と評価をすることの重要性を強く感じ取ることができました。

<弓道との再会>
 卒業後は仕事が忙しくなって弓道できるのは20年後位になるだろうと学生の頃は考えていましたが,たった10カ月ほどで弓道に再会しました。
 平成28年10月に県立病院学会があり,その懇親会で偶然大島病院の薬局に勤めている方と席が隣同士になりました。ちょうどその時同期が近くに来て私が弓道部であったことを話すとその薬局の方は偶然にも昔から弓道をされており「大島病院に弓道部があるから弓矢を持ってきなさい」とお声掛けいただきました。その後あっという間に入部が決まり飲み会の段取りまでつけていただいて,思いがけない2度目の弓道生活が始まりました。
 1月に大島病院に赴任してすぐに道場に案内され,いきなり2本弓を引きました。10カ月ぶりで作法も忘れかけておりどうしようか,と少し考えましたが弓矢を持った後には勝手に体が動いて1本中っていました。今思うとそれだけ嬉しかったのだろうと思い起こされます。

実際の的の様子

奄美の海

<最近の生活>
 7月に徳之島で奄美群島体育大会弓道競技があり参加してきました。その際に弓道部で徳之島出身の方に案内されて観光も楽しみました。病院ではなかなか出会えないところで職域,年齢層共に幅広い人間関係を作り,そこで様々な地域に住む人々の営みや文化を肌で直接感じることができるのも大島病院弓道部に入部して得られた大きな財産だと思います。
 初期研修の方では現在産婦人科をローテートしておりお産や妊婦健診,婦人科疾患を学んでおります。

<おわりに>
 ほとんど弓道の話題でしたが,この文を読んで少しでも弓に興味を持っていただけると幸いです。もし始めてみたいと思ってくださったら,鹿児島市内ならば県武道館やアリーナでやっている弓道教室に参加してみたり,直接見学に行ってみたりするときっと歓迎されると思います。
 弓道を楽しむ方が一人でも多くなることを心から願って筆をおかせていただきます。











次号は,鹿児島県立大島病院総合診療科の榎木康人先生のご執筆です。(編集委員会)





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