=== 随筆・その他 ===


末梢血血液像の観察は楽しい
東区・郡元支部
(デイジークリニック) 武元 良整

 MCV(Mean Corpuscular Volume:平均赤血球容積)の正常値は90.0です。貧血原因を明らかにする時には,MCV値から大球性貧血,正球性正色素性貧血そして小球性低色素性貧血と分類すれば診断と治療が容易1)2)です。しかし,顕微鏡での血液像の観察が診断のきっかけとなる場合もあります。
 今回,MCV値正常でしたが,末梢血血液像の観察から貧血原因が判明した症例とMCV値が113と高値,網状赤血球増加そして顕微鏡下で赤血球の凝集像をみとめ,診断に至った印象的な2症例を報告致します。

症 例 1:40歳代の女性 
 主訴:倦怠感,頸部痛。
 病歴: 以前から健診で貧血指摘されていた。
 背景: 飲酒歴なし,喫煙歴10本/日,数年間。長男から三男まで3人の出産時にも貧血指摘あり。身長 156cm,体重 47kg,BMI:19.3。
 図1は来院時の末梢血液像です。血液像-大小不同2+あり,多染性1+にて鉄欠乏状態の末梢血液像と大球性の赤血球が混在。その結果,MCVは90.9とみかけ上,正常範囲。
 経過:血液生化学検査にて低フェリチン(5.0)を認めました。鉄欠乏と判定するフェリチン値は12.0未満ですから治療の対象です。ビタミンB12欠乏の自覚症状(倦怠感・たちくらみ・動悸・寝ても寝ても,まだ眠い)から,ビタミンB12を検査したところ,60pg/mL(基準値180-914)と著明に低値。葉酸値も低値2.7ng/mL(基準値4.0以上)その後,鉄剤治療開始と同時にビタミンB12と葉酸内服の投与開始。現在,頸部の痛みは改善しました。
 診断:①鉄欠乏症,②ビタミンB12と葉酸欠乏症:悪性貧血疑い,内因子抗体は精査予定。

図 1 末梢血液像-好中球過分葉がみられると市医師会検査センタ-血液検査室から
報告を受け,巨赤芽球性貧血を疑い,ビタミンB12と葉酸値の検査施行。

(末梢血液画像は鹿児島市医師会臨床検査センター血液検査室へ依頼し撮影いただきました)

症 例2:70歳代の女性
 主訴:倦怠感,たちくらみ。
 病歴:かかりつけ医にて2週間前からビタミンB12低下を指摘され内服治療中。
 背景:降圧剤内服中。
 診断:自己免疫性溶血性貧血(図2)。

「自己免疫性溶血性貧血とは」
 自分自身の赤血球に対する自己抗体によって,赤血球が溶血しますが,自己抗体の至適温度によって,温式と冷式とに分類されます。
 発病因子として1.温式抗体(特発性と2次性:ある種の薬物:アルファメチルドーパ,抗菌剤,サルファ剤。基礎疾患としてはSLE,リンパ腫など)。2.寒式抗体(マイコプラズマ肺炎や伝染性単核球症などの感染症,リンパ増殖性疾患など)が知られています。文献3)によると,治療にステロイドや摘脾といったこれまでの治療方法だけではなく,海外では標的抗体薬のリツキシマブも使用されています。

図 2 末梢血液像-大小不同2+あり,多染性1+,網赤血球著増:9.7%の報告を受け,
溶血性貧血を疑い,直接クームス検査施行。陽性

終わりに
 研修医の頃,指導医から「おそらく医師の中で,いつも赤血球などの美しいものを眺めて楽しんでいるのは血液学者であろう」と言われていた事4)を思い出します。鹿児島市医師会臨床検査センタ-血液検査室の皆様のご協力により,クリニックに顕微鏡は無くとも楽しく診療できている事にいつも感謝しております。
 血液検査室からの顕微鏡下の観察で好中球過分葉と報告を受け,ビタミンB12欠乏が判明した症例とMCV高値(113)と網赤血球増加(9.3%)に加えて,凝集した赤血球像を認め,溶血性貧血と診断に至った症例を報告しました。

文 献
1.成田美和子:貧血の分類と診断の進め方.日内会誌 104:1375-1382.2015
2.張替秀郎:鉄代謝と鉄欠乏性貧血---最近の知見---.日内会誌 104:1383-1388.2015
3.https://www.merckmanuals.com/professional/
  hematology-and-oncology/anemias-caused-by-hemolysis/autoimmune-hemolytic-anemia#v969916
4.柴田 進 他:血液標本の見方 金芳堂 1983年2月 初版




このサイトの文章、画像などを許可なく保存、転載する事を禁止します。
(C)Kagoshima City Medical Association 2017