=== 随筆・その他 ===


シリーズ医療事故調査制度とその周辺(5)
-厚労省第3次試案・大綱案と病院団体合意-
中央区・清滝支部
(小田原病院) 小田原良治

 医師法第21条は,「医療の外」(紛争解決)の問題として,「外表異状」で決着。一方,医療事故調査制度(医療事故調)は,「医療の内」(医療安全)の問題として,日本医療法人協会原案を骨子とする制度で出来上がったと説明してきた。当たり前の決着であり,医療事故調査制度は「医療安全」を学問的に進めて行けばいいと安易に考える向きもあろう。しかし,そう簡単ではない。そもそも,医療事故調査制度は,「責任追及」の制度として出発している。それが,幾多の修正(パラダイムシフト)を経て,今回の「医療安全」の制度として出来上がったのである。敵陣のボールをやっと自陣に取り戻したというのは,このようなことである。しっかりと自陣にボールをキープし続けるためには,制度成立の経緯と微妙な解釈部分を医療現場がしっかりと理解して,正しい対応を取ることが必要である。中身を知らぬきれいごとを振りかざし,オウンゴールをしてはならない。揺り戻しがありうること,揺り戻しを許さないために医療現場の努力が必要なことを理解していただきたい。

医療事故調査制度(医療事故調)注目のきっかけ
 筆者が医療事故調査制度の案文を目にしたのは,厚労省第3次試案が最初である。第3次試案を目にして,この制度に危険を感じた。当時,筆者は,鹿児島市医師会代議員,日本医療法人協会常務理事(税務担当)であった。立場上,第3次試案の危険性をただちに鹿児島市医師会,日本医療法人協会常務理事会に提起した。医師会は全く対応しなかった。厚労省はたちまち,大綱案まで提示する事態となった。日本医療法人協会は,当時の豊田 尭会長の英断で,2008年(平成20年),「死因究明制度等検討委員会」を新しく立ち上げることとなり,筆者も委員となった。これが,筆者が,医療事故調査制度に深く関与せざるを得なくなったきっかけである。第3次試案・大綱案を検討するなかで,その基となった第2次試案に目を通したのだが,第2次試案を見ると,この法案の意図(責任追及)がよくわかる。ストレートに責任追及の制度である。第2次試案をオブラートに包む形で,第3次試案・大綱案へと繋がっていたのである。制度の理解のためには第2次試案を知る必要がある。

厚労省第2次試案の概要
 2007年(平成19年)10月厚労省は,「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案」(第2次試案)を発表した。この第2次試案をみると,責任追及の構図が明瞭である。
 第2次試案は,まえがきで,反省・謝罪,責任の追及,再発防止の全ての基礎になるのが,「原因究明」であると述べている。はっきりと「原因究明」を基礎として,反省・謝罪,責任追及と記載されている。「原因究明」して,責任追及,反省,謝罪に結びつける意図が明瞭である。医療事故調査制度は,「責任追及の制度」としてスタートしたのである。ここで使用している「原因究明」とは,「原因糾明」のことなのである。診療関連死の「死因究明を行う組織」,「届出制度の在り方」,「調査の在り方」等のとりまとめ部分は,責任追及と行政権限強化の仕組みを整えようとの趣旨である。
 即ち,「死因究明を行う組織」として,①調査権限を有する医療事故調査委員会を設置(厚労省内に設置を想定)。地方ブロック分科会を設置。②委員会の構成は,医療従事者(臨床医,病理医,法医等),法律関係者,遺族代表で構成とあり,構成員の段階で,すでに,責任追及の意図が明白である。③地方ブロック分科会は,個別事例の評価,調査報告書の作成・決定。④分科会の下に置かれるチームも,解剖担当医,臨床医,医師以外の医療従事者,法律関係者,遺族代表の構成となっている。
 「診療関連死の届出制度の在り方」では,(1)診療関連死の届出を義務化。届出を怠った場合にはペナルティーを科す。(2)届出先は主管大臣(厚労大臣を想定)。大臣が委員会に調査を依頼。(3)届出範囲は,医療事故情報収集等事業の「医療機関における事故等の範囲」と非常に広く設定されている。(4)全例届出。必要な場合には警察に通報。本制度の届出と医師法第21条の届出の在り方について整理。これをみても明らかなことは,紛争部分の話であり,およそ「再発防止」とは無縁の論理である。
 「委員会における調査の在り方について」(1)調査対象は,当面死亡事例。(2)遺族からの相談を受け付ける。医療機関からの届出がなくても,診療関連死が発生したおそれが認められれば,調査を開始する。(3)個別事例の評価は地方ブロック分科会が担当。①解剖,診療録等の評価,遺族等への聞き取り調査を行う(施設内部にずかずか踏み込んで来るということである)。②死因,死亡等に至る臨床経過,診療行為の内容や背景要因,再発防止等についての評価・検討。③評価・検討結果を踏まえた調査報告書を作成(劣っている,標準的でない等の評価が記載される)。④調査報告書は遺族,医療機関へ交付,公表する。⑤遺族が理解しやすいよう配慮などとある。これでは,紛争を煽るようなものであろう。
 そのほか,「院内事故調査委員会」には外部委員を加えるとある。一方,「再発防止のための更なる取り組み」は空疎な内容である。「行政処分,民事紛争及び刑事手続きとの関係」との項目もあり,行政処分,民事紛争,刑事手続きで医療事故調査委員会の調査報告書を活用できると明言。行政処分に調査報告書を活用とある。個人に対する処分と医療機関への改善勧告等の仕組みを設ける両罰規定となっている。個人,医療機関ともに処罰するというのである。また,警察通報事例や遺族等からの警察相談時における捜査と委員会の調査との調整の仕組みを設ける。調査報告書は,刑事手続きで使用されることがあると明記されている。
 上記の如く,第2次試案が描く仕組みは明らかに責任追及のためのものであり,民事,刑事,行政処分の全てに医療事故調査報告書が使われることとなる。行政権限の強化以外の何ものでもない。この第2次試案で使われている「原因究明」「死因究明」の言葉は,責任追及の意味(糾明)で使われている。第3次試案・大綱案のルーツである第2次試案を見れば,当初から医療事故調査制度が目指していたものが責任追及であったことは明白であろう。

厚労省第3次試案・大綱案と病院団体の対応
 1999年(平成11年)東京都立広尾病院事件,2000年(平成12年)厚労省「リスクマネジメントマニュアル作成指針」通知発出,2001年(平成13年)東京女子医大人工心肺事件(同年広尾病院事件1審判決),2004年(平成16年)広尾病院事件最高裁判決と医療界への逆風が続き,2006年(平成18年)福島県立大野病院事件医師逮捕という衝撃的なニュースが流れるのである。医療界はパニックに陥った。患者治療に専念した結果,刑事被告人になるような事態を何とかしたいと藁にもすがるように,政治,行政に泣きついたというのが実態であろう。「医師が刑事責任を問われることを防ぐ」という名目で公表されたのが厚労省第3次試案・大綱案である。第2次試案に比べ,オブラートに包まれた表現になっており,日医が旗振り役を務めたので,一気に法案まで進んで行った。筆者も第3次試案の危険性を感じたものの,当初,疑問という程度であった。しかし,原案である第2次試案を見ることにより,危険性は確信に至った。第3次試案・大綱案は「医療者を守る」との謳い文句に反し,内容は,責任追及に終始するものであり,行政権限の強化以外の何ものでもない。前述したように,2008年(平成20年)日本医療法人協会(医法協)は筆者の提案を受けて,「死因究明制度等検討委員会」を設置した。筆者の具申により,厚労省だけでなく,井上清成弁護士,足立信也参議院議員(医師)等を招き勉強会を開催した。これがきっかけで,2009年(平成21年)8月,井上清成弁護士が,日本医療法人協会顧問弁護士に就任することとなる。
 2009年(平成21年),日本医療法人協会は,「死因究明制度等検討委員会」の後継委員会として,「医療安全調査部会」を設置。同年,11の病院団体で構成する日本病院団体協議会(日病協)に「死因究明ワーキンググループ」が設置され,日本医療法人協会からは筆者が委員として参加することとなった。第3次試案・大綱案容認が大勢のなか,日本医療法人協会と全日病が反対を表明した。一方,学会では救急医学会,麻酔科学会が法案に反対であった。小松秀樹医師の「医療崩壊」がベストセラーとなり,第3次試案・大綱案に対する反対が徐々に拡がって行く。この流れが政権交代へとつながって行った。
 福島県立大野病院事件,東京女子医大人工心肺事件の無罪判決,死因究明2法への流れのなかで,第3次試案・大綱案はパブリックコメントに付されたまま店晒しとなり,医療事故調査制度問題は終息したかに見えたが,2012年(平成24年),再び,死因究明制度議論が動き出したのである。



厚労省大綱案の概要
 2008年(平成20年)6月,厚労省は「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」を発表した。名称のとおり,権威的な第三者機関を設置することが目的の法案である。同法案の解釈には,第2次試案・第3次試案を念頭に解釈する必要がある。同法案の目的に2つのことが記載されている。1つは医療安全調査地方委員会を設置し,医療事故等の原因究明のための調査を行わせるというものであり,他の1つは,医療安全調査中央委員会を設置し,医療安全確保のための措置について勧告等を行わせるというものである。中央と地方に権威的な調査機関を設置するものであり,国家機関の直接管理下に置かれる。
 今回成立した医療事故調査制度と比較して考えれば,恐ろしい制度であることがよく解る。目的そのものからして処罰の機関であることは明白である。以下,若干記載しておきたい。
(1)今回の医療事故調査制度は遺族等から直接調査の請求はできない仕組みとなっている。一方,大綱案は,遺族が主管大臣に対し,医療事故調査を行わせるよう求めることができ,求めがあれば,直ちに地方委員会が医療事故調査を開始しなければならない。地方委員会は,医療提供者および関係者に報告をもとめ,施設に立ち入って検査し,関係者に質問する。ずかずか土足で入り込んで来るのである。出頭を求めることもできる。これは取り調べであろう。医療事故死等の現場を立ち入り禁止にできる。将に警察捜査そのものである。「犯罪捜査のために認められた権限と解釈してはならない」との記載が空々しい。
(2)警察への通知の規定も盛り込まれている。「医療安全のために収集した資料」を警察に渡すというのである。以下の場合は,警視総監又は道府県警察本部長に通知することとなっている。①故意による死亡又は死産の疑いがある場合,②標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡又は死産の疑いがある場合,③関係物件を隠滅,偽造,変造した疑い,類似の医療事故を過失により,繰り返し発生させた疑い,その他これに準ずべき重大な非行の疑い。これらは,公権力により如何様にでも解釈可能である。
(3)罰則規定もある。個人及び法人の代表者の双方を罰する両罰規定である。
(4)大綱案の「病院等の管理者の医療事故死等に関する届出義務等」の項目を今回の医療事故調査制度と比較していただきたい。まず,今回の医療事故調査制度は,医師法第21条は現状のままである。ただし,診療関連死の異状死体の判断は「外表異状」と明確になった。医療事故調査制度の報告対象に該当する「医療事故の定義」は,「提供した医療に起因し,かつ,予期しなかった死亡」である。大綱案は,「死体を検案しまたは死亡について診断して,次の死亡に該当するとみとめたもの」である。①行った医療の内容に誤りがあるものに起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産,②行った医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であって,その死亡又は死産を予期しなかったもの。さらに,報告は24時間以内である。
  これだけでも,今回の医療事故調査制度を守って行くべきことが良くお解りと思う。大綱案に回帰してはならないのである。
  念のために,比較してみよう。現行の医師法第21条の異状死体等の届出義務は,「検案して異状を認めたもの(即ち,外表を見て異状を認めたもの)」のみが対象である。大綱案は加えて,「死亡について診断して次の死亡に該当するもの」との一文が付加されている。死亡についての診断にどこまで入るかも不明であるが,少なくともとめどなく範囲が拡がる危険性があろう。また,現行の医療事故調査制度の報告対象は,②のみであるが,大綱案は,①の「過誤または過誤の疑い」が入っている。これも報告範囲を大幅に拡大してしまう。しかも,24時間以内に報告(届出)しなければならない。強大な権力を有するモンスター機関が作られ,医療現場を監視する予定だったのである。 
(5)届出義務違反に対する体制整備命令等も付加されている。
 自分が当事者となったとして,貴方はこの大綱案の制度を望むだろうか。今回の医療事故調査制度が如何に良い制度として仕上がったかを理解していただき,確実な現場対応を求めたいと思う。医療現場に,日本医療法人協会「医療事故調運用ガイドライン」を定着させることが是非とも必要である。

病院団体に提示した日本医療法人協会原案について
 「患者安全のための世界同盟 有害事象の報告・学習システムのためのWHOドラフトガイドライン 情報分析から実のある行動へ」(「WHOガイドライン」)は,報告制度を「学習を目的とした報告制度」(医療安全の制度)と「説明責任を目的とした報告制度」(責任追及の制度)に大別している。「説明責任を目的とした報告制度」は,当事者が,処分や懲罰の対象となるおそれがあるため,WHOガイドラインは,これら,目的の異なる二つの機能を一つの制度で行ってはならないと明示している。
 筆者らは,日本医療法人協会原案で,医療に関連した有害事象(いわゆる医療事故)の検証を「医療の内」と「医療の外」に切り分けて論じた(図1)。「医療の内」とは,通常の医療の原点である医療者と患者・家族の信頼の上に成り立つ部分である。医療とは,複雑系のハイリスクの科学であり,経過中に予期せぬ不幸な事態に立ち至ることがありうる。この場合であっても,相互の信頼関係の維持は必要であり,信頼関係が維持されている限り,「医療の内」(一連の医療行為の内,あるいは医療行為の延長線上)として検証し再発防止に寄与すべきものである。この場合の中心にあるべきは,最も現場に近い部分,即ち,各医療施設である。従って,第一義的に「院内医療事故調査委員会」(院内事故調)で検証すべきものであり,必要に応じて,顧問,オブザーバーとしての応援を求めうる体制が必要である。(ただし,外部機関はあくまでも援助機関である。)院内で結論を見出しえなかった場合,あるいは,病院が必要と認めた場合は,地方に設置した院外の第三者機関である,複数の原因分析委員会の内の一つに検証を求める。原因分析委員会は,調査検証チームを組織して,院内医療事故調査報告書を検証する。(あくまでも報告書の検証であり,医療現場に調査に出向くものではない。)院外の原因分析委員会の報告は,院内医療事故調査委員会に戻され,ここで,匿名化された上で,他の,ヒヤリ・ハット事例とともに,既存の日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業に引き継ぐべきというものである。まさしく,WHOガイドラインのいう「学習を目的とした報告事業制度」(医療安全の制度)であり,再発防止のための仕組みである。莫大な予算をつぎ込み,新しい組織を作る必要などない。
 医療者と患者・家族の信頼関係が崩れた場合,患者・家族が納得しない場合は,もはや,「医療の内」の問題ではない。紛争状態即ち「医療の外」の問題である。この場合は,医療者の権利を考慮しつつ法律関係者の助言を得ながら,ADR,裁判,無過失補償制度(過失・無過失を問わない患者救済制度と考えており,訴訟制限とセットにすべきものと考えている。),等の解決策を探るべきである。警察が関与する事態はもちろん「医療の外」の話であり,故意に限りなく近い,犯罪性を有する場合のみである。
 従って,顧問,オブザーバーの人選についても,「医療の内」の部分,即ち,再発防止のための取り組みの部分は医療者主体であり,「医療の外」すなわち紛争部分については,弁護士等の法律家等が該当すると考えた。「医療の内」に法律家を入れるということは,事態の紛争化につながる。
 もちろん,「医療の内」と「医療の外」は,明確に線引されるわけではない。「医療の内」の解決過程で紛争化する場合もあり,紛争解決への過程で,相互理解を得て,「医療の内」で解決に至る場合もあろう。これらのグレーゾーンを図1では,「医療の内」と「医療の外」の間の帯状の境界域で示した。


図 1 医療事故調査制度の基本的構図(日本医療法人協会原案)

日本医療法人協会原案と病院団体合意への経緯
 2012年(平成24年)5月,筆者が医療法人協会医療安全調査部会長に就任することとなった。筆者と顧問の井上清成弁護士と二人三脚で医療事故調査制度問題に本格参入することとなる。同年7月,四病院団体協議会(四病協)に「医療安全対策委員会」,日本病院団体協議会(日病協)に「診療行為に関連した死因究明制度等に係るワーキンググループ」が設置され,予期しない診療関連死に関する検討が開始された。筆者らは,「医療の外」(紛争)の最大の問題点である刑事事件化については,最大の課題は,刑法第211条(業務上過失致死傷罪)であり,医療という複雑系で侵襲性を伴う業務に,業務上過失致死傷罪が単純に適用されることを是正すべきであると主張していた。しかしながら,現実論として,捜査の端緒となる医師法第21条(異状死体等の届出義務)の解決を放置したまま,再発防止という美名のみを旗印にした医療事故調査制度設置は,責任追及ひいては,医療者の人権の侵害につながりかねないと強い懸念を表明した。病院団体合意のためには,再発防止のための議論が,紛争資料として使用されないことを担保する必要がある。再発防止のための合意の前提には,非懲罰性と機密の保持が必須であると主張した。筆者らの主張が受け入れられ,この「医療の内」即ち「再発防止」と「医療の外」即ち「紛争」を明確に切り分けて,「医療の内」の問題としての最大公約数ということでコンセンサスを得ることとなった。日本医療法人協会原案を修正した案でコンセンサスが得られたのである。これは,「WHOガイドライン」の「学習システムとしての報告制度」の趣旨に沿ったものである。病院団体の議論が進展した一つには,この医療事故調の目的は,あくまでも,再発防止のためであり,「医療の内」のことに限定して行うとのコンセンサスを得たことと,その前提となった田原克志厚労省医政局医事課長発言があったからである。同年10月の厚労省の田原克志医事課長発言は,事実上,医師法第21条の「異状死体」の判断を「外表異状」とするものであり,医師法第21条の事実上の解決と評価できた。これにより,「医療の内」の再発防止のシステムとして合意形成に至ったものである。
 2012年(平成24年)10月の田原克志医事課長発言とは,厚労省の第8回「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」に於いてなされた発言である。①平成12年厚労省発出の「リスクマネジメントマニュアル作成指針」は国立病院および国立高度専門医療センター向けの通知であり,一般の医療機関は対象外であると明言。また,②都立広尾病院事件の最高裁判決を引用し,「検案」とは死体の外表を検査することであり,外表検査をして異状があれば警察に届けるというものであると明示した。この田原克志医事課長発言は厚労省の英断であり,評価に値する発言であった。この発言を契機に,後の,田村憲久厚労大臣発言へとつながって行き,医師法第21条の「異状死体」は「外表異状」として決着,医療事故調査制度創設の大きなファクターとなった。

四病協合意・日病協合意の内容
 度重なる議論の結果,2013年(平成25年)1月23日,四病協合意が成立。「診療に関連した予期しない有害事象(死亡・重大事故)の調査のあり方」として発表された。基本的構図は,日本医療法人協会原案に近いものであるが,院外の第三者機関である事故調査検証委員会(医師会・病院協会等による複数機関)から匿名化した上で,直接,再発防止のための医療事故情報収集等事業等に情報提供するルートが追加された。一方,事故調査検証委員会からの報告書は病院のみに返すこととし,患者・家族・遺族との窓口は病院に一本化された。院内医療事故調査委員会中心の合意である(図2)。壮絶な論戦であったが,日本医療法人協会原案を柱とした合意可能な範囲でのとりまとめとなった。
 同年2月22日には,日病協合意が成立。「診療に関連した予期しない死因究明制度の考え方」として発表された(表2,図2)。四病協合意と日病協合意には若干の相違点はあるが,基本的には,ほぼ同一内容である。日病協合意で特筆すべきことは,「診療に関連した予期しない死亡」の定義に,「ただし,故意または悪意の場合は除外する。」の一文が追加されたことである。「故意の場合・悪意の場合」を除外することにより,殺人罪等の故意犯を医療事故調査制度議論から明確に排除した。日病協合意で明確に切り分けて,故意犯を医療事故調査制度問題から排除した意義は大きい。四病協合意・日病協合意は病院の80%の加盟団体の全員一致による合意であり,病院団体のコンセンサスは得られたといえよう。一言,筆者が「故意の場合・悪意の場合」を切り離すことに固執した理由を記しておきたい。刑法第38条1項は故意処罰の原則を謳っている。また,同項但書に規定された過失は,故意の可能性と解釈されていることから,「故意の場合」「悪意の場合」を制度から除外することにより,刑事捜査を今回の制度から排除したかったからである。
 さて,病院団体合意の主な部分を,日病協合意(表2)を基に詳述する。日本医療法人協会原案,四病協合意,日病協合意に基づく概要図は,図2の如くである。まず,日本医療法人協会原案で述べた如く,「医療の内(医療安全)」と「医療の外(紛争)」を切り分けたことである。また,基本理念として,「WHOガイドライン」に準拠すべきことを明記した。「WHOガイドライン」は,「学習を目的とした報告制度」(医療安全の制度)と「説明責任を目的とした報告制度」(責任追及の制度)とを区分しており,一つの制度に二つの機能をもたせることは難しいと述べている。「医療の内」(医療安全)と「医療の外」(責任追及)を切り分ける考え方と基本的に同一である。
 病院団体の合意は,責任追及を排除した,あくまでも「医療の内」に限定しての再発防止のためのシステム作りであり,医師法第21条の解釈を「外表異状」とすることを前提にしている。「医師法第21条は,その立法の精神に戻り,拡大解釈しないものとする。」と明記した。
 日病協合意では,「医療従事者個人の責任追及の結果をもたらすものであってはならない」とした。この条文も種々の議論の結果,筆者の主張が取り入れられたものであるが,このような記述にした意図は,「責任追及を 『目的』 とはしなかったが,『結果的に責任追及』 になってしまった」というようなことがあってはならないことを明確に示したものである。行政的には,責任追及が目的ではなかったが,結果として,責任を追及されるということになってしまったということは,よくあることである。注意しておく必要があろう。同時にWHOガイドラインを明示して,「院内事故調査委員会が収集・作成した資料及び報告書は,当事者に不利となる使われ方をすべきではない」とした。間接的表現となってしまったが,これらは,再発防止に資するためには,責任追及を排除する必要があることを記載したものである。また,院内に専門家等の適切な人材が不足している場合には,院外に応援を求めることができるように記載してある。これは,あくまでも,院外からの「支援」であるため,院内医療事故調査委員会の「委員」としての参加ではなく,「オブザーバー」・「アドバイザー」や「顧問」での参加が好ましい。
 院外医療事故調査検証委員会は地方に設置する第三者機関であるが,日本医療法人協会原案で述べたように,複数設置を想定している。院外医療事故調査検証委員会への依頼が病院裁量であるとともに,どの院外医療事故調査検証委員会に依頼するかも病院裁量である。また,院外医療事故調査検証委員会は,あくまでも,院内医療事故調査報告書の検証機関であり,院内に直接立ち入っての調査は想定していない。また,遺族への説明は,病院に一本化されており,「調査報告書に基づき」説明を行うこととしている。報告書を「交付」するか否かも病院裁量ということである。
 中央の第三者機関は,事例収集・再発防止のための機関であり,調査権限を有するものではない。これまでに,これら事業を行ってきた日本医療機能評価機構や中央の各病院団体本部等を想定した。新しい組織を作る必要性を否定したものである。
 この合意の基本的な考え方は,「院内医療事故調査中心主義」言い換えれば,「当事者解決主義」であり,地方の第三者機関である院外医療事故調査検証委員会は,それを支援・バックアップする機関であるということを明示している。また,中央の第三者機関は,再発防止のための研究機関であり,事例収集や対策の研究等がその業務である。権威的組織であってはならないとともに,行政との関係があってはならないことは当然であろう。全体システムは,ボトムアップ型の解決システムと言える。今回出来上がった医療事故調査制度の基本フレームが日本医療法人協会原案・病院団体合意であることが理解いただけることと思う。大綱案とは基本構造が全く異なるのである。
 その後,四病協合意,日病協合意,全国医学部長病院長会議案につづき,日医が病院団体と骨格を同じくする答申をまとめたことから,医療界の考えが,概ね統一されたと考えられた。われわれ,医療者の共通認識は,「WHOガイドライン」遵守ということで一致したのである。その後のおかしな動きについてはあらためて記述したい。




図 2 医療事故調査制度の基本的構図(四病協・日病協合意に基づく概要図)

厚労省とりまとめと唯一・権威的第三者機関の危険性
 2013年(平成25年)5月29日,厚労省は,病院団体合意を無視し,「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」を取りまとめた。6月に2回の会議予定日が残っていたにもかかわらず,5月29日に,急遽,会議時間を延長しての強引なとりまとめであった。その内容は,WHOガイドラインに反するものであり,唯一・権威的な第三者機関を設置しようというものである。「厚労省とりまとめ」は,院内医療事故調査中心と言いながら,実際には,唯一・権威的な第三者機関に上から目線の鑑定的役割を持たせようとしたものであった。(これに同調した医療関係者がいたという事実は認識しておくべきである。今後の揺り戻しへの動きに同調してはならない。)一番の問題点は,この唯一・権威的な機関にWHOガイドラインが否定している医療安全と責任追及の二つの機能を持たせようとしていることである。過去に問題となった第3次試案・大綱案と同一内容を,民間の唯一・権威的第三者機関を中心に構築しようとするものであった(この第三者機関に利害関係者がいることを忘れてはならない)。医療安全・再発防止の目的で収集した資料や報告書を訴訟の証拠に使えることとなっていた。医療安全の活動を根底から崩壊させるものであった。「厚労省とりまとめ」は,この本来情報混入があってはならない二つの機関を同一の組織で行おうとしており,絶対に構築してはならない機関である。図3は,「原因究明(糾明)型」と「再発防止型」の二つの機関の相違点を示したものであるが,この二つの機関は,その調査手法から異なる。「再発防止型」は,考え得るあらゆる可能性を列挙して,それらを優先順位を基に段階的に解決して行こうとするのに対し,「原因究明(糾明)型」は,可能性の中からもっともらしいものに絞り込んで特定していく手法であり,責任追及の手法である。「再発防止型」の情報を「原因究明(糾明)型」に使用されるとなると責任追及そのものとなり,冤罪の温床となることは明白であろう。


図 3 原因究明型第三者機関と再発防止型第三者機関の関係

おわりに
 厚労省第3次試案・大綱案は医療崩壊を招き,頓挫した。その後,形を変えて厚労省が医療事故調査制度を再度俎上に上げてきた。病院団体は,当初,合意不可能とうわさされた中においてぎりぎりの詰めを行い,四病協合意,日病協合意に至るのである。病院団体に提言と合意を求めておきながら,この合意内容が意に反していたらしく,厚労省は,新任の担当者が,病院団体合意を無視して強引にとりまとめを行ったのである。このとりまとめは,大綱案の行政(厚労省)直轄の権威的第三者機関に代えて,厚労省の間接支配の民間の権威的第三者機関の設立を目指したものであった。
 筆者ら日本医療法人協会は,断固反対を表明,法案阻止を掲げて厚労省との全面対決となるのである。厚労省の粗雑な対応,医療法改正をめざしての省内の功名争いが大混乱を起こすこととなる。これらは次号においてお話ししたいと思う。
 蛇足ながら,今年度厚労省科研費研究で,「医療行為と刑事責任の研究について」がスタートしている。本研究は,提示された議事資料を見ると,今回テーマとした厚労省大綱案回帰と行政指導の強化の基礎資料となる恐れがある。揺り戻しを招かぬように今後も注視して行く必要がある。揺り戻しに向けての動きは既に始まっている。現行制度を日本医療法人協会「医療事故調運用ガイドライン」に沿って,医療現場に定着させて行くことが今,医療界の急務であろう。



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